IN FRIENDSHIP · ISSUE 110
● 12 SEC「友人が肥満になると、その人が肥満になる確率は57%上がる」。2007年に出て、この20年で広く引かれてきた数字です。米国の心臓研究の12,067人を1971年から2003年まで追った分析でした。翌2008年、同じ計算の形を、伝染しないものに当てはめた論文が出ます。ニキビのオッズ比1.62、頭痛1.47(どちらも1をまたぎ、単独では明確な差とは言えません)、身長では係数0.18。
扱うのは相手の選び方ではなく、その数字が誰の何の測定だったかです。身長は伝染しません。それでも同じ計算からは数字が出た——問われるのは計算の形です。何が残るのかは、誰が誰に影響するのかという向きまで見ないと分かりません。
相互成長の支援力(Mutual Growth)は励まし方の技術ではなく、続いた関係で互いに何が起きるかを見る枠組みです。測られてきたのは三系統——つながりの地図の上の観察、天気で揺さぶった分析と人を配置した実験、肯定と目標を測った研究。同じ号に並んでも、同じ人の中で比べた数字ではありません。

では、観察の側はどこまで数えられているのか。まず数えられたのは、この3つです。
0157%には、6〜123という幅がついていた。米国の心臓研究の12,067人を1971年から2003年までの32年追った観察。友人が肥満になった場合の上昇は57%、95%信頼区間は6〜123——6%から123%のどこか、としか言えません。兄弟姉妹40%(21〜60)、配偶者37%(7〜73)、近隣は効果なし、かたまりは3人の隔たりまで。禁煙も同じ形で、相手の禁煙と本人が喫煙している確率の低さは配偶者67%(59〜73)、兄弟姉妹25%(14〜35)、友人36%(12〜55)、小規模な職場の同僚34%(5〜56)、近隣は効果なし。関連であって、原因だと確かめた測定ではありません。
02伝染しないはずの3つでも、数字は出た。2008年の論文は、友人の健康状態と統制変数で本人の健康状態を回帰する標準の形を、伝染しない結果に当てはめました。米国の青少年調査で友人を挙げた4,300〜5,400人。ニキビのオッズ比1.62(95%信頼区間 0.91〜2.89。1なら差なし)、頭痛1.47(0.93〜2.33)——どちらも1をまたぎ、明確な差とは言えません。またがないのは身長で、友人の身長のおよそ20%が反映される係数0.18(0.15〜0.26。0なら関連なし)。環境の要因を加えると、推定は一様に小さくなり有意でなくなったと著者らは報告します。この形は伝染しないものからも数字を出す——肥満の研究の誤りを示した論文ではありません。
03統計の側からは、区別できないと指摘された。2011年の批判は、肥満・禁煙・幸福・孤独の一連の研究について、3人の隔たりまで伝わるという結論は統計分析からは導けず、データはむしろ反証をいくらか含むと論じました。同じ年のもう一本は一般的に——同類性(似た者どうしが結びつく)・伝染・本人の属性の三つは混同されており、区別には社会過程の構造か統制変数の十分さに強い仮定が要る、回帰係数の非対称性から因果効果は識別できない、と。ただし方法の論争で、「友人からの影響は無い」と示した研究ではありません。結論が方法に依存する。たどれたのはそこまでです。

数字そのものは動きません。動くのは、そこから何を引き出すかのほうです。手がかりは3つ。
01似ていることを、影響し合った結果だと読んでいる。似ているだけの人と、影響し合った人を分けるには、外から偶然の揺さぶりを入れるしかありません。2017年の研究は天気を使いました。走行を記録し共有する仕組みの利用者およそ110万人・5年・3億5,000万km超のうち、両端の位置と天気が特定できた約210万本(全体で約340万本)を、196か国・47,000超の観測点で分析。残った推定は控えめです——友人が1km多く走ると本人はおよそ0.3km、10分ならおよそ3分。活動量の少ない側が多い側に影響し、逆は見られません。男性に影響していたのは男女双方、女性に影響していたのは女性だけで、男性から女性は検出されていません。主語は「誰が影響を受けたか」です。
02配置すれば伸びる、と読んでいる。「優秀な人のそばに身を置けばいい」。2013年の研究はこれを実地で試しました。過去のデータから学力の低い学生はSAT言語得点の高い仲間に囲まれるほど成績が高いと読み取り、米国の士官学校の2学年・2,447人で、低学力の学生を高学力の集団へ配置します。予測+0.053に対し、実測は-0.061(p=0.055。著者らは有意な負の効果として報告しますが、通常の5%の基準には届きません)。符号だけが逆。上がったのは中位層で+0.082。原因は集団の内側の組み替わり——低学力の学生は同じく低学力の相手と組み、高得点の仲間を選ぶ頻度はむしろ下がりました。設計できたのは接触の機会までで、2学年という特定の環境の値です。
03恋人で測ったものを、友人で確かめたと読んでいる。2009年の整理(ミケランジェロ現象)は、近しい相手からの肯定を二つに分けます。知覚——相手を理想像と両立する見方で見ること。行動——理想像に沿った振る舞いを引き出すこと。無関心や不賛成は逆向きに働きます。夫婦が理想の目標について話す様子を話す様子を録画し4か月後に追った研究では、会話中の肯定が多い人ほど目標に近づいていました。同じ整理に友人を使った研究も出ますが、評定されたのは対象者の恋愛パートナーの肯定で、友人は第三者の観察者です。原典は、この過程が友人や同僚を含む多様な相手で生じ、相互依存が強いほど強いとします。友人どうしの肯定を直接測った数字は、たどった範囲にありません。

どの数字も、あなたと目の前の友人のあいだで何が起きるかは教えません。平均も割合も、計算された集団の話だからです。答えたのは、米国の一つのコホート(体格と喫煙)、米国の青少年調査(ニキビ・頭痛・身長)、走行記録の仕組みの利用者(距離)、米国の士官学校の学生(成績)、そして夫婦(会話と目標)。
日本で同じ手続きをやり直した記録は、たどった範囲に1件もありません。「一緒にいる数人の平均になる」という言い回しも、引いた文献のどこからも出てきません。時間も違います——走行の影響は同じ日のうち、肯定と目標への接近は4か月後。日で動く作用と月で動く作用が同じ言葉で語られている、というのがこの号の読み筋です。
同じ計算の形は、身長からも数字を出した。
外から揺さぶって残ったのは、1kmにつき0.3km。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。この手順で友人の行動が変わると確かめた研究は、この号にありません。友人どうしの肯定が直接測られていない一点から、ALIFEが提案する入口です。反応する先を一つに絞れば足ります。
TRY IT TODAY
- 01PICK
友人を一人だけ選ぶ。誰にも見せないメモに、名前かイニシャルだけ書く。
- 02QUOTE
その人が最近「こうなりたい」と口にしたことを、相手の言葉のまま一行で書く。思い出せなければ直近のやりとりを遡る。
- 03NAME ONE
その理想に近づく方向で相手が実際にやったことを1つ挙げ、今日そのひとつだけを名指しで伝える。励ましも助言も足さない。
相互成長の支援力は、正しい友人を選ぶ技術の名前ではありません。確かめられたのは——57%には6〜123という幅がついていたこと。同じ形が、伝染しないニキビ1.62・頭痛1.47(どちらも1をまたぐ)・身長0.18からも数字を出したこと。天気で揺さぶって残ったのは1kmにつき0.3kmで、影響を受けていたのは男性が男女双方から、女性は女性からだけだったこと。優秀な人のそばにいれば伸びるとも、数人の平均になるとも、研究は言っていません。——今日残せるのは57%ではありません。相手が一人と、その人の言葉が一行と、名指しの反応が一つ。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS相互成長の支援力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- オッズ比
- ある状態の「起こりやすさの関連」を表す倍率。1なら差なし、1より大きいほどその群で起こりやすい関連です(確率が何倍、という意味ではありません)。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
