IN FRIENDSHIP · ISSUE 104
● 12 SEC「人が安定して維持できる関係は、150人まで」。友情の話で、これほど広く配られた数字はそう多くありません。出所とされるのは、たいてい1992年の論文です。ところが——その論文の中に「150」という数字は、一度も出てきません。書かれていたのは、霊長類の属ごとの、新皮質が脳の残りに対してどれだけ大きいかという比と、平均的な群れの大きさを突き合わせた回帰式でした。ヒトの値を式に入れて得た数が、のちに150として流通します。
この号が扱うのは、人付き合いの上限ではありません。友情の場面でよく出る数字が、どこまで測られたものか、のほうです。一覧表は作りません。最初に置く二つは、歪みですらなく、ただ流通している数字です。
認知バイアス管理(Bias Management)は、思考の癖を一覧で覚えることではなく、判断に使う材料がどこから来た数字なのかを一度だけ遡ることです。友情の場面の材料は二つ。出典の添えられていない流通している数字と、実験で測られた、予想と実際のずれ。遡るまで、同じ顔をしています。

では、いちばんよく流通している数字は、どこまで測られたものなのか。まず測られたのは、この3つです。
01論文にあったのは、150ではなく式。1992年の論文が示したのは、霊長類の各属で、新皮質が脳の残りに対してどれだけ大きいかという比(新皮質比)と、その属の平均的な群れの大きさを突き合わせた回帰式です。対数をとった群れの大きさ = 0.093 + 3.389 × 対数をとった新皮質比、決定係数 r² = 0.764——当てはまる度合いを0から1で表す値です。ヒトが何人と付き合っているかを数えた記録は、この式に1件も入っていません。
02再解析では、推定値が二つに割れた。2021年の再解析は、更新・拡張された複数のデータセットと別の統計手法で、同じ問いをやり直しました。推定値は、ベイズ的な方法で69人から109人、系統関係——種どうしの近さ——を考慮した一般化最小二乗法で16人から42人。150は、どちらの範囲にも入っていません。ただしこの幅は、一つのモデルの区間ではなく、変数の組み合わせを変えた複数モデルの下限と上限の集約です。
03ベイズの区間は、4人から520人だった。重いのは推定値より不確かさのほうです。95%信頼区間は、ベイズ的な方法で4人から520人、系統関係を考慮した方法で2人から336人——測り直したとき推定値が収まると見込まれる幅で、広いほど一点を信用しにくい。こちらも複数モデルの集約。著者らが最適と指名した単一モデルでも、69.2人・95%信頼区間は3.8人から292人——著者ら自身が「あまり情報的ではない」と書く広さでした。これほど広い区間からは一つの数字を特定すること自体が無意味になる、というのが著者らの結論です。ただし150が誤りだと示されたわけではなく、二つの推定値の範囲の外・信頼区間の内側にあります。

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01出所を確かめないまま、設計に使っている。もうひとつよく出るのが「あなたは、最も長い時間を一緒に過ごす5人の平均である」。出所は経営コンサルタントに帰属される言い回しで、この命題を検証した査読論文は、この号がたどった範囲では見つかりませんでした——見つからなかったは、存在しないの証明ではありません。身近な人の状態が移る現象の研究自体は実在しますが、5という数でも平均という演算でもない形で測られており、この号では扱いません。要るのは統計の知識ではなく、出所を1回だけ確かめる手間のほうです。
02断られる確率を、相手の都合だと思っている。2008年の研究は、実験室でも街頭でも参加者に直接の依頼をさせ、何人が応じると思うかを先に予想させました。最初の3つの研究で、依頼が受け入れられる確率を人は最大で50%ほど低く見積もっていました。依頼する側が相手の手間ばかりを見て、断る気まずさを軽く見ているから、と著者らは説明します。2016年の総説は、のべ14,000人を超える見知らぬ相手への依頼をまとめ、過小評価は平均およそ48%。14,000人超は依頼を受けた相手の人数で参加者数ではなく、48%は複数研究をまとめた要約値です。大きな額の立て替えでも同じ48%とは書かれていません。
03連絡しないことを、遠慮だと思っている。2023年の研究は、13の事前登録済み実験・のべ約5,907人で、疎遠な相手に自分から声をかける場面を扱いました。連絡する側は、自分の連絡を相手がどれだけ有り難く思うかを過小評価していました。意外な連絡ほど感謝は大きく送る側はそれを勘定に入れていない、疎遠な相手ほどずれは大きい、と著者らは説明します。第4a実験は独立した追試で n=201 から n=742 へ広げても同じ向きで有意(効果量 d は差の大きさを表す値。原研究 d=0.32 に対し追試 d=0.25、目安ではどちらも「小」)。測られたのは感謝の程度と予想とのずれで、関係が続くかどうかではありません。

並べると、この号が言えることの形が見えてきます。どれも、あなたが明日出す一通に何が返ってくるかは教えてくれません。平均は、平均が計算された集団の話だからです。
150の議論が使ったのは霊長類の比較データで、ヒトの交友を直接数えたものではありません。依頼と連絡の研究は参加者が北米中心で、測定はほぼ自己報告です。日本の職場で、10年連絡していない同期に一通送った結果を測った記録は、この号がたどった範囲にありません。もともと連絡を取りやすい人ほどこうした課題を試せる、という逆向きも排除できません。断られると思って誘わなければ、断られなかったという反証は手に入りません。実験で確かめた循環ではなく、二つの知見を並べたときに見える形です。
1992年の論文に、150という数字は出てこない。
再解析のベイズの区間は、4人から520人だった。
だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。確率を先に書いてから送ると見積もりの癖が直る、と確かめた研究は、この号では扱っていません。二つの記録が並べば足ります。
TRY IT TODAY
- 01PICK
しばらく連絡していない相手を、一人選ぶ。3か月以上が目安。**気まずく終わった相手や、連絡を控えるよう伝えられている相手は選びません。**
- 02GUESS
送る前に、返事が来ると思う確率を0から100%で書く。書いてから送る。
- 03SEND
2文以内の短い連絡を1通だけ送る。用件は作らなくてよく、思い出した理由をそのまま書けば足りる。送ったら、書いた確率と、返事の有無を並べて残す。
この号で確かめられたのは四つ。150は元の論文に出てこず、あったのは霊長類の比較データにかかった回帰式(r²=0.764)だったこと。再解析で推定値が16〜42人と69〜109人に割れ、95%信頼区間が4〜520人(ベイズ的な方法)・2〜336人(系統関係を考慮)に広がったこと。「5人の平均」を検証した査読論文が、この号の探索範囲では見つからなかったこと。依頼の応諾率が最大50%ほど低く見積もられ(総説の要約値でおよそ48%)、連絡の有り難さの過小評価が13の事前登録実験と n=742 の追試でも残ったこと。連絡すれば喜ばれるとも、送れば関係が戻るとも、研究は約束していません。——今日残せるのは平均ではありません。相手が一人と、書いた確率と、返事の有無。数字の対が一組、増えるだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS認知バイアス管理を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
