IN FRIENDSHIP · ISSUE 105
● 12 SEC「友達になるには200時間」。出どころの2019年の研究には、推定値が二つの標本ぶんあります。引っ越したばかりの米国の成人355人では、知り合いから軽い友人まで約94時間、軽い友人から友人まで約164時間、親しい友人・親友まで約219時間。大学1年生112人を9週間・3時点で追った調査では、第1波(出会いから約3週間後)で約43・57・119時間。同じ問いに、2倍以上ちがう二組の答えです。
落ちやすい行がもう一つ——職場や授業で一緒に過ごした時間は、近さと「負」の関連だった。長くいたほうが近くなる、の逆側です。扱うのは会い方のコツではなく、時間が何と結びついて測られたか、です。
接触・共有体験の創出力(Shared Experience)は社交術ではなく、時間を作り、その中に何を入れるかまで決める力です。測られたのは二つ——総量と段階との対応、そして時間の使い途と近さの変化との関連。

では、その二つはどこまで測られているのか。まず測られたのは、この3つです。
01閾値は、標本によって倍以上ちがった。引っ越したばかりの米国の成人355人への回顧的な調査と、大学1年生112人を9週間・3時点で追った縦断調査。値は、段階が次へ移る見込みが5割を超える地点の推定値。成人で約94・164・219時間、大学1年生は第1波で約43・57・119時間。流通する「50時間・90時間・200時間」は、著者が二つの研究を統合した幅——40〜60・約80〜100・200時間超——を大学の広報記事が丸めた値。50時間は「友人」ではなく「軽い友人」までです。
02弱さの多くは、著者自身が書いている。著者は第1研究に重要な限界を三つ挙げます。週数が増えるほど時間の見積もりは不正確になりやすい。段階の移行後も時間は積み上がるため、閾値は上振れしうる。回顧的ゆえ対象は続いた関係だけで、同じだけ時間を使って友人にならなかった相手は入らない。本号から足すと、時間は両標本とも本人の申告です。これは対応であって、注いだから段階が上がった話ではありません。逆向きの説明を切り分けられない設計です。
03関連したのは時間ではなく、会話の中身だった。会話に使った時間の割合そのものは、どちらの研究でも近さと関連しません。関連したのは中身。近況・まじめな話・ふざけ合いなど5種類の「打ち解けた会話」の頻度は第2波・第3波で近さの増加を予測し、軽い雑談(時事・ペット・スポーツ・テレビや音楽)は第3波で減少と結びつきました(第2波では明確な関連なし)。居合わせることが決まっている職場や授業の時間は、明確な負の関連(成人 β=-.20、大学1年生の第1波 β=-.21、いずれも有意)。β は条件をそろえて残る関連の向きと強さで、マイナスは逆向き。押し上げなかった、ではなく反対を向いていた、です。無作為な割り当てはありません。

動くのは、持ち帰られていく途中のほうです。手がかりは3つ。
0170年前の割合を、そのまま今に当てている。原点は、1950年に報告された住宅研究。復員兵の学生とその家族が入居した住宅の全戸調査です。集合住宅では、同じ階で選ばれうる相手のうち実際に選ばれた割合が隣の部屋41.2%、二つ隣22.5%、四つ隣10.3%(三つ隣は表をたどると16.2%)。戸建てでは、通りに面した端の家が受けた選択が平均0.60、中庭に面した内側では平均1.56。ただし1940年代後半の米国、待機名簿の順に入居した互いにほぼ面識のない世帯で、同じ大学に通い、移動も連絡の手段も限られた住宅群。41.2%を今へは移せません。持ち帰れるのは割合ではなく玄関の向き——というのが、この号の読み筋です。
02共有を、良くする装置だと思っている。2014年の実験。女子学生23人(平均19歳)が、同じチョコレートを別の銘柄だと伝えられて2回味わい、一方の回だけ隣の人——実は実験協力者——が同時に同じものを味わいます。0から10の尺度で、同時の回のほうが好ましさは高く(7.00 対 5.46、t(22)=2.67、d=0.56)、風味も高い(6.83 対 5.57、t(22)=2.53、d=0.54)。d は差の大きさで0なら差なし、目安ではどちらも「中」です。ところが別の女子学生22人(平均19歳)に苦いチョコレートを使うと、同時の回のほうが評定は低い(2.45 対 3.16、t(21)=2.42、d=0.34)。良い体験はより良く、悪い体験はより悪く、両方向です。影響をどれだけ感じたかは第1実験の0から6の尺度で平均0.46、74%が「0」でした。
03同期の効果を、補正前の大きさで話している。2009年の3つの実験では、同期した動作を経た参加者が、その後の集団の経済ゲームで、自分が損をする場面でも協力する方向へ動きました。快い感情が生じなくても効果は生じ、著者らは集団への社会的な愛着を仕組みに挙げます。(たどれたのは公開された抄録の範囲まで。どの動作をどう同期させたかは確かめていません。)2016年のメタ分析は1988年から2015年の42本の文献・60の独立した実験を統合し、向社会的な効果を g=0.48(95%信頼区間 0.39〜0.56)と推定。g は効果量で0なら差なし。内訳は態度が g=0.49(48の実験)、行動が g=0.45(35の研究)。ただし「行動」を出版の偏りで補正すると g=0.31(0.15〜0.47)まで下がります。よく紹介される大きさよりは小さい、という話です。統合値は統合値で、60の実験が一様だった意味ではありません。

参加者は、引っ越したばかりの米国の成人と大学1年生、1940年代後半の復員兵向け住宅の住人、実験室に来た女子学生。どれも、あなたが今週会う相手との距離が何時間で縮むかを教えてはくれません。「接触の回数を重ねるほど好意が増える」という古典的なメタ分析は原典に到達できず、回数についての数値は扱っていません。
日本の数字も一つ。令和3年社会生活基本調査によると、10歳以上が「交際・付き合い」に使った時間は、週全体の1日平均で10分。2016年は17分で、5年で7分減りました。男性は15分から8分へ、女性は19分から12分へ。1日10分は1年で約61時間(ALIFEによる計算で、調査の報告値ではありません)。ただし日本の10歳以上の平均を、米国の標本の推定値の横に並べただけ。同じ人たちの測定ではありません。区分の指す範囲は確かめていません。2021年の調査で、流行下という時期の影響も切り分けられず、平均は分布でもありません。
同じ1時間でも、向きは分かれた。
職場や授業の時間は、近さと負の関連だった。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。活動を先に決めて誘うと近さが増す、と確かめた研究は扱っていません。ここから先は、ALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
友人、または友人になりうる相手を、ひとりだけ選ぶ。いま連絡を取ることに無理がない相手にする。
- 02DECIDE
来週までに一緒にやる活動をひとつ決める。食事・運動・展示・作業・移動のどれでもよい。「会おう」「そのうち」「落ち着いたら」は使わない。
- 03SEND
候補の日時を2つ添えて、今日のうちに送る。返事が来る前でも、送った時点で終わりにする。
接触・共有体験の創出力は、たくさん会える性質の名前ではありません。確かめられたのは、推定値が標本によって2倍以上ちがったこと、弱さの多くを著者自身が第1研究に挙げていること、職場や授業の時間が近さと負の関連だったこと、共有が良い体験も悪い体験も増幅したこと。200時間積めば親友になるとも、一緒にいれば近くなるとも、研究は約束していません。——今日残せるのは総量ではありません。相手が一人と、活動が一つと、日時が二つ。送信済みが1通、増えるだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS接触・共有体験の創出力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
