IN FRIENDSHIP · ISSUE 103
● 12 SEC「自分と違う背景の人と付き合うといい」。社会心理学でもっとも長く調べられてきた助言です。2006年のメタ分析は515の研究・713の独立した標本・延べ250,089人・38か国を集め、接触が多いほど偏見が少ないという負の相関を出しました。標本の94%が同じ向きです。
ただし扱うのは付き合い方のコツではなく、その数字がどんな設計で測られたのかです。条件は2つ。介入が無作為に割り当てられていること。測定が介入の翌日以降であること。2019年の再検討がこの2条件で集め直すと、残ったのは27本。そのなかに、25歳より上の人を対象に異人種接触の効果を測った研究は1本もありません。関連の数と、原因の向きを語れる実験の数は、桁が違います。
異質性への好奇心(Diversity Curiosity)は社交性の別名ではなく、自分と背景の違う相手のほうへ足を伸ばすかどうかの傾きです。測られてきたものは二つ。接触の量と偏見の強さを同じ時点で測って並べた横断的な調査と、誰がどれだけ接触するかを無作為に割り当てて測った実験。前者から言えるのは関連までで、どちらが先かは決まりません。後者は向きを語れます。そして数の上では、前者が圧倒的に多い。

その二つは、どこまで測られているのか。まず数えられたのは、この3つです。
0125万人ぶんの関連は、負の向きだった。研究の中央値は1986年の発表。平均的な関連は r = -.21前後——rは0なら関連なし、マイナスは接触が多いほど偏見が少ない向きで、目安では「小」と「中」のあいだ。出版バイアスの検討では、別の補正法をかけると全体の関連が有意でなくなり、著者自身が解釈には注意が要ると記します(強い統制の118標本では補正後も有意)。統合値は統合値で、515研究が一様だった意味ではありません。
022条件を課すと、残ったのは27本。2019年の再検討が残したのは27本。もとの515研究に同じ条件をかけると、残るのは8報告です。統合推定は0.39——0なら差なし、大きいほど差が大きい標準化された値です。方向は接触の効果を支持します。ただし抄録が明記する限定——人種や民族の偏見への介入は、それ以外より実質的に弱い。人種・民族・宗教・移民だけなら0.25、障害を除くと0.20。人種・民族を扱ったのは11本・40%。出版バイアスの検定は決着がつかない、と著者らは記します。
0310分の訪問は、無作為に割り当てられた。2016年の実地実験は有権者の自宅を訪ね、トランスジェンダーの人々への態度について約10分話しました。プラセボ対照。事前調査に答えた1,825人を本題の会話(913人)とリサイクルの会話(912人)へ無作為に割り当て、追跡にも答えた501人が分析対象です(答えなかった人は落ちています)。感情温度計(温かさを0から100で答える尺度)は、本題の側が比較用の側をおよそ10ポイント上回りました。効果は3日後から3か月後まで、どの時点でも残っています。割り当てが無作為なので、会話が変化に先立ったと言えます。ただし扱われた話題は、ひとつの集団についてです。

動くのは数字ではなく、そこから引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01関連を、因果として読んでいる。515研究の統合が示したのは関連までで、どちらが先かは決めていません。向きを見た研究はあります。1997年の分析は、1988年にフランス・英国・オランダ・西ドイツで行われた7つの全国確率標本・合計3,806人を使い、両向きの経路を同時に見積もる分析で、友人から偏見低減への経路のほうが逆向きより大きかったと報告しました。ただし同じ時点で測られたデータの上で経路の大小を比べた分析であって、割り当てを操作した実験ではありません。
02勉強してから会う、に読み替えている。2008年のメタ分析は媒介(偏見の低減へつながる途中の経路)だけを取り出し、500を超える研究のうち経路を検定できた91の独立標本を統合しました。本文が報告する値では、もっとも強い媒介は不安の低下(60標本・13,343人、Z = -26.55)、次が共感と視点取得(14標本・2,362人、Z = -12.43)、もっとも弱いのが知識(17標本・2,543人、Z = -3.87)。Zは偶然では説明しにくい程度で、マイナスは偏見が減る向き。知識のZもマイナスです。最下位だっただけで、媒介していなかったのではありません。本文と表の値は一致しません(表では不安 -26.60、知識 -4.38。ここは本文の値)。順位も観察データの統合です。
030本を、効かないと読んでいる。25歳より上を対象に異人種接触の効果を測った実験が、27本に1本もない——これは「大人には効かない」ではなく、測られていないというだけです。2015年の調査は、ボストンの2地区——ジャマイカプレインとノースエンド——で一緒にいるペア89組・178人を捕まえました。多様性に置く価値も、ペアの態度の多様性も、ジャマイカプレイン側が大きく、その差は、ペアが多様性を共同で価値づける度合いに媒介されていました。地区を無作為に割り当てた実験ではありません。なおこの論文には訂正の表示があり、未確認のため抄録の範囲にとどめています。

38か国・延べ250,089人という統合の中身は、米国と西欧の標本が大きな比重を占め、研究の中央値は1986年の発表でした。40年近く前に測られた接触が、いまの日本で同じように働くかは分かりません。日本の生活圏で同じ手続きをやり直した記録は、この号がたどった範囲に1件もありません。偏見の強さも、温かさも、価値づけも、ほとんどが本人の自己報告です。
集団を越えた友人関係を指標にした154の検定は r = -.246 で、それ以外の1,211の検定(-.212)より有意に強い値でした。最適条件(対等な地位・共通の目標・協力・制度的な支持)を整えたプログラムの -.287 と、そうでない接触の -.204 は、標本単位で見た別の調整変数で、分析の単位が違います。それでもなお、誰も設計していない関係のほうから強い側の値が出ている——というのが、この号の読み筋です。ただし統合値どうしの差であって、割り当てて確かめた実験ではありません。
515研究の統合が示したのは、関連だった。
2条件を満たす実験は、集め直して27本。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。媒介の順位で知識が最下位だったのは、「勉強しても無駄」という意味ではありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
経歴・業界・世代・出身のどれかが、自分と明確に違う相手を1人選ぶ。半年以上連絡していない相手でもかまわない。
- 02ASK
その人にしか答えられない質問を、1つだけ考えて送る。事前にその人の分野を調べない。
- 03LOG
送る前に感じた気まずさを、5段階で書き留める。返信が来たら、予想と違っていた点を1行だけ書き足す。
確かめられたのは三つ。25万人ぶんの統合が示したのは、接触が多いほど偏見が少ないという関連まで(r = -.21前後・標本の94%が同じ向き)。集団を越えた友人関係の検定(-.246)が、それ以外(-.212)より有意に強かったこと。2条件で集め直された27本の統合推定は0.39、人種・民族への介入だけでは0.25で、その27本に25歳より上の異人種接触は0本だったこと。違う相手と関われば偏見が消えるとも、あなたの年齢層で同じ数字が出るとも、研究は言っていません。——今日残せるのは、相手が一人と、送る前の気まずさの数字と、返信が予想とどう違ったかの一行です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS異質性への好奇心を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- 出版バイアス
- 「効果が出た」研究ほど論文として世に出やすい偏り。これがあると、統合した平均値が実際より大きく見えます。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
