IN FRIENDSHIP · ISSUE 097
● 12 SEC「見知らぬ人に話しかけたら、たいてい迷惑がられる」。測りに行った実験があります。2014年、シカゴ近郊の駅で通勤客を、隣の見知らぬ人と会話する・一人で過ごす・いつもどおりの三条件へ無作為に割り当て、降車後に質問紙を郵送で回収しました。——会話した条件の人が、三条件でいちばん快適な通勤を報告。断られたという報告は、ゼロでした。
ただしこの号が扱うのは、話しかけ方のコツではなく、その数字が、誰の、何の測定だったかです。同じ論文のもうひとつ有名な数字——応じてくれる通勤客は46.4%だろう。実際に応じた割合ではなく、予測を答えた別の64人の見積もりです。答えた人が、違います。
開放的接触傾向(Open Contact)は、誰とでも話せる社交性の別名ではなく、まだ知らない相手にこちらから一言かけるかどうかの傾きです。測られたものは二つ。話しかけた人が降りたあとに書いた体験の報告と、これから話しかけたらどうなるかの予測。多くの場合、答えているのは別々の人です。

では、どこまで測られているのか。まず測られたのは、この3つです。
01会話条件が、いちばん快適と報告された。指示に従えた97人(平均49歳・61%が女性)が分析に乗り、会話条件がいちばん快適と報告。一人条件との差は t(94)=2.49、p=.02、d=0.63(d は差の大きさ。0なら差なし、目安では「中」)。会話は平均14.2分(標準偏差11.3分)。電車では、いつもどおりの対照条件との差ははっきりしません(t(94)=1.39、p=.17)。生産性の自己報告は三条件で有意差なし。バス(75人・平均27歳)でも一人条件より快適で(t(72)=2.14、p=.03、d=0.56)、対照条件との差も明確(t(72)=2.69、p=.01、d=0.91)。すべて自己報告です。
02予測を答えたのは、別の66人。予測も同じ論文が測ります。割り当てを実行しない別の通勤客66人(平均44歳・66%が女性)に同じ三条件を読ませると、答えは逆。会話条件がいちばん快適でないと予測され、一人条件との差は t(64)=2.46、p=.02、d=0.41。生産性も会話条件が最低と予測。ただし比べているのは体験を報告した97人と、予測を答えた66人という別々の人たち。同じ人に予測させてから体験させた設計ではありません。
0346.4%は、予測された割合。予測の中身も分けられます。電車の通勤客64人(平均38歳・74%が女性)は、相手のほうが話したがっていないと見積もり(0から6の7段階で自分3.11・相手2.44、t(63)=4.77、p<.01、d=0.44)、応じてくれる通勤客は46.4%、会話を始めるのは難しい(4.38)と予測。一方、調査票を返送した人は全員が相手と実際に話したと報告し、断られたという報告はゼロ(話せなかった7人は隣に誰も座らなかったため)。バスでも別の65人が44.6%と予測し、試みた人は全員が話しました。46.4%も44.6%も、応じた割合ではなく予測された割合です。

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01性格の話に、入れ替わっている。自己説明の定番は「自分は人見知りだから」。性格も同じ論文が調べ、電車での会話条件と一人条件の差はビッグファイブ(性格の5因子)を統制しても有意(β=0.31、p<.01=性格の分を引いてなお残る差)。著者らは「性格の型が、予測にも実際の体験にも一貫した影響を与えた証拠は見つからなかった」と述べ、検定力不足の可能性も自ら挙げます。無関係だと示されたわけではありません。分けたのは日頃の習慣でした。タクシーで予測を答えた43人のうち56%は日頃から運転手と話す人で、会話条件のほうが快適と予測(d=1.52。話さない人は電車・バスと同じ向き)。ただし実際に乗った93人(65%が日頃話す)では、快適さは習慣で変わりません(交互作用は有意でない。F(2,86)=1.23、p=.29)。分かれたのは予測で、体験ではありません。
02平均の差を、自分の確率にしている。ロンドンの追試(2022年)でも形は同じ。通勤客148人は、自分のほうが相手より話したがっている(2.57 対 2.28、t(147)=2.41)と答え、応じてくれる人を25.39%、始めるほう(3.43)が終わらせるほう(2.53)より難しいと予測。有効回答383人の実験では、会話した人の通勤評価は一人条件・対照条件より高い(t(263)=4.44、d=.55)。7標本・合計2,304人の小規模メタ分析では、会話前の不安が会話後の実際の体験を全項目で上回り、楽しめるかの差は d=0.97、うまく話せるかは d=1.20。ただし集団の平均どうしの差で、あなたの次の一回の確率ではありません。
03自己評価の変化を、性格の変化と読んでいる。2022年の別の研究は、米英2大学の学生286人(介入群198人・対照群88人)に1週間のアプリ介入。毎日、話しかける課題が配られます。介入群の会話能力の自己評価は7点満点で4.34から4.77へ(d=0.37)、追跡時4.81(d=0.41)。対照群は動かず。断られると予想した件数は0.89から0.23へ。初日、応じてもらえる確率の予測は40%、実際は92%。完了した1,336件の会話のうち1,164件(87%)は最初に声をかけた相手で、介入群の41%が連絡先を交換。動いたのは自己評価と予想の件数で、性格特性を測り直した研究ではありません。

六つを並べると、形が見えます。どれも、あなたの明日の一声に何が返るかは教えてくれません。測られたのは、シカゴ近郊の駅とロンドンの通勤路線の通勤客と、米英2大学の学生。都市で公共交通が動き、声をかけても身の危険がまず生じない場所の人たちです。日本の車内で同じ手続きをやり直した記録は、この号がたどった範囲に1件もありません。
時間の側も一つ。2013年の277件・のべ177,635人のメタ分析では、知人まで含めた全体のネットワークは成人期初期(推定20代半ば)で頂点に達して以後は縮み、家族ネットワークは思春期から老年期まで有意な年齢の効果を示さず、友人ネットワークは成人期を通じて減ります。頂点が推定されたのは全体のネットワークで、友人ネットワークではありません。日本の数字も。内閣府が令和6年12月に全国の満16歳以上へ実施した調査は有効回収10,876件(54.4%)。孤独感が「しばしばある・常にある」は4.3%、20歳代7.4%・30歳代6.0%と若い層が高く、同居していない家族や友人と直接会って話すことが全くない人は9.3%。測ったのは孤独感と交流の頻度で、話しかけた結果ではありません。
46.4%は、予測のほうの数字だった。
答えた人と、話した人は、別だった。
だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。予想の件数が0.89から0.23へ下がったのは、学生286人に毎日課題が配られる設計での話。二つの数字が並べば足ります。
TRY IT TODAY
- 01PICK
顔は知っているが名前を知らない相手を一人選ぶ。よく行く店の人、同じ時間に見かける人など。人通りのある明るい場所で。
- 02GUESS
声をかける前に、断られる・迷惑がられると思う確率を0から100%で書く。書いてから一言だけかける。天気でも荷物のことでもいい。
- 03LOG
終わったら、実際にどうだったかを一行で書く。今日「話しかけようと思ってやめた」回数も数えて書き添える。
確かめられたのは四つ。体験を報告した集団では会話条件がいちばん快適(97人・d=0.63・平均14.2分)、予測を答えたのは別の集団で向きは反対(66人・d=0.41)、46.4%・44.6%・25.39%はいずれも予測された割合で拒絶の報告はなし、予測を分けたのは日頃の習慣で体験は変わらなかったこと。誰にも断られないとも、話しかければ友達ができるとも、研究は約束していません。——今日残せるのは、相手が一人と、かける前の確率と、実際の一行です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS開放的接触傾向を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
- 標準偏差
- ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。
