IN EMPLOYMENT · ISSUE 096
● 12 SEC「人は生涯に平均12.9回、仕事を変える」。よく引かれる数字ですが、出どころははっきりしています。米国労働統計局が2025年8月26日に公表したニュースリリースです。1957年から1964年生まれの人は、18歳から58歳までに平均12.9の職に就いた。
同じ発表が、その「職」の定義も置いています——職とは、特定の雇用主のもとでの、中断のない就業期間である。
この号が扱うのは、立ち直り方のコツではなく、その数字が何を数えたものかのほうです。12.9は割合でも確率でもなく、一人あたりに数え上げられた職の個数の平均。転職の回数ではありません。米国の一世代を対象にした統計で、日本の労働市場について測られた数字ではありません。
不確実性への耐性と修正力(Uncertainty Tolerance)は、思っていたのと違うことが起きたあとに立て直す力として語られます。この号が先に確かめるのは、力ではなく数字の定義です。ここでいう職は、勤め先の種類でもキャリアの段階でもありません。一度離れて同じ雇用主のもとに戻れば、期間は2つ。夏だけの短い仕事も1つです。

では、その数え方はどこまで書かれているのか。発表にあったのは、この3つです。
01同じ雇用主に戻っても、2つ。定義には例が添えられています——夏のあいだ小売の店で働き、夏の終わりに辞め、翌年の春に同じ雇用主のもとで働き始めたなら、この一連は1つではなく2つの職として数えられる。12.9が数えているのは、転職の回数でもキャリアを変えた回数でもなく、就業期間の個数の平均です。
02区分ごとに足すと、多くなる。数え方には、もう一つ癖があります。複数の年齢区分にまたがる就業は、それぞれの年齢区分で1回ずつ数えられる。そのため18歳から58歳までの平均は、年齢区分ごとの数を足し合わせた値より小さくなる——同じ発表が自分で断っていることです。同じ集団の二通りの数え方であって、別々の集団の比較ではありません。
03対象は、1957〜64年生まれの米国人。対象は1957年から1964年生まれの米国人だけ、18歳から58歳まで。58歳で止めたのは、それより上の区分では信頼できる推定値を出すには標本が小さすぎたため。人数は同じ発表に二通りあり、本文は9,964人、技術的な注記は1979年に初回調査を受けた12,686人(当時14歳から22歳)、2022〜23年の調査に答えたのは6,413人。本号は本文の9,964人を採りますが、二通りあることは書いておきます。43年分が追跡済みで、この集団の職業人生はまだ終わっていません。日本の労働市場の数字ではありません。

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01平均を、回数と呼んでいる。定義つきの集計——特定の雇用主のもとでの中断のない就業期間の個数——が、まず平均になる。平均が「回数」と呼ばれ、「回数」が「転職」に読み替えられ、最後に、生年と国と年齢の上限が落ちる。逆向きには、まず戻りません——というのが、この号の読み筋です。この順序を確かめた研究は扱っていません。発表の側には定義と例と対象が書かれていて、引かれた一文には、そのどれも残っていない。
02測れば分かる、と思っている。キャリア適応力と呼ばれる、立て直す力を測る枠組みもあります。代表は2012年の尺度開発の論文。13か国の研究者が協力して55項目の研究版を13か国で試し、4つの下位尺度・各6項目(関心・制御・好奇心・自信)にまとめた、と報告されています。ただし本号は、国ごとの平均値を並べて比べる話は扱いません(等価性の記述に到達していないため)。2017年に出た90件のメタ分析は、この概念が認知能力・性格の5因子・自尊感情から、希望や楽観、キャリアの計画や探索、自己効力感まで、すでにある個人差の変数と広く重なっていると報告しています。上乗せの予測力も報告されますが、その大きさを示す数値には原典で到達できていないので、大小は書きません。
03理論論文を、効果の証拠にしている。もう一つ、計画された偶発性という言い方があります。1999年に出た論文は、偶然が誰のキャリアにも重要な役割を果たすこと、従来の介入では不確実さに備えきれないこと、計画外の出来事を避けられないと同時に望ましいものと見る立場が要ることを述べています。これは概念論文です。2009年に出た論文も、4つの命題を提示する理論論文。どちらも、介入の効果を測定していません。「偶然を活かす力を鍛えれば結果が良くなる」ことの証拠にはなりません。それでも提唱者の理論論文が効果の証拠として引かれる形は、証拠を探すたびに出てきます。

六つを並べ直すと、矛盾はしていません。12.9は発表どおりの値です。ただしそれは、同じ雇用主に戻った分も別々に数え、年齢区分をまたぐ分は各区分で1回ずつ数えたうえでの、1957年から1964年生まれの米国人・18歳から58歳までの平均でした。
全文まで読めたのは6点のうち4点。読めていない2点については書きません。引いた集計は米国の一世代のコホートで、追跡の上限は58歳。適応力の側は、13か国で作られた質問紙と、90件のメタ分析です。日本の労働市場を対象にした同じ設計の追跡研究は、この号ではたどれていません。そして、立て直せたという報告は、立て直せる余地があった人からしか集まりません。選択肢の多い人ほど試せる、という逆向きを、この範囲では排除できません。
数字は正しい。正しいのは、
元の定義の中でだけである。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。自分の職歴を数え直せば立て直しが速くなる、と確かめた研究は扱っていません。測られたのは、個数の平均と、その数え方と、対象の限りまで。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01COUNT
直近5年をさかのぼり、働いた期間を定義どおりに区切る。規則は一つ——同じ雇用主のもとでの中断のない期間を1つと数える。短期の仕事も掛け持ちも、1つずつ。
- 02MARK
合計の個数を書く。次に、そのうち「同じ雇用主に戻ったことで2つになった」箇所が何回あったかを、別の行に書く。
- 03COMPARE
数え始める前に思っていた個数を書き、実際の個数と並べる。ずれた幅は、そのまま残す。
不確実性への耐性と修正力は、折れない強さにつけられた名前ではありません。確かめられたのは四つ。12.9が数えていたのは、中断のない就業期間の個数だったこと、同じ雇用主に戻れば1つではなく2つと数えられること、年齢区分をまたぐ就業は各区分で1回ずつ数えられ、区分ごとに足すと総数を上回ると発表自身が断っていること、その平均が1957年から1964年生まれの米国人・18歳から58歳までの値だったこと。
就業期間の個数は、就いたあとにしか数えられません。外れずに済むとも、速く立て直せるとも、ここまでの研究は約束していません。——今日残るのは平均ではなく、定義どおりに区切った期間の一覧と、戻って2つになった回数と、数える前に思っていた個数。数字の対が一組、増えるだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS不確実性への耐性と修正力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

