IN EMPLOYMENT · ISSUE 081

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で外の街明かりを見ている女性。ガラスにその横顔が薄く映り込んでいる● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

自己分析の入口には、たいてい価値観の順位づけが置いてあります。上位3つを取り出し、それに合う仕事を探す。ところが、その順位表が何日もつのかを測った報告は、あまり配られません。米国労働省の職業情報システムのために作られた質問紙の1999年の技術報告は、同じ人に二度答えてもらった記録を載せています。使えた回答は213人。要旨が掲げる一致率は、最も重視する価値が62%、上位2つまでが52%でした。

扱うのは自己分析のやり方ではなく、順位そのものが、どこまで測られてきたかです。想定は学生の就職活動だけではありません。転職、育児や介護や療養のあとの再就職、独立、長く勤めたあとの再就職——どれも読者から外しません。使える選択肢の広さは、人によって大きく違います。景気、地域、年齢、体の具合、資格、貯金。決まらないことを、努力不足としては書きません。

価値観の明確化(Work Values)は、仕事に何を求めるか——安定、収入、自由、貢献——を言葉にして、順位づけできる状態にすることです。数字は別々の二つ。ひとつは尺度としての性能で、同じことを尋ねる項目どうしが揃って動いているか。もうひとつは順位の再現性で、間をあけてもう一度尋ねたとき同じ並びが返ってくるか。前者が良いことは、後者が良いことを意味しません。

(仮ビジュアル)夕暮れの大きなガラス壁ぎわに、黒い長袖と黒いパンツで裸足のまま立ち、海と岩場のほうへ目を向けている女性。ガラスにその姿が薄く映り込んでいる写真
尺度が壊れていないことと、順位が動かないことは、別の数字で測られる。 Visual: ALIFE

では、その順位はどれだけ再現するのか。「価値観がはっきりすれば、仕事が選べる」と言われてきました。まず測られたのは、この3つです。

01一致は要旨で62%、順序では62〜70%。1999年の技術報告は、米国で同じ人に二度実施しています。再検査を終えたのは213人。要旨が掲げる一致は最上位62%・上位2つ52%。ただし詳細は受検の順序で分かれ、先の102人で62%、後の111人では70%——順序で62〜70%に動きます。再テスト相関は個々の必要が中央値 .63、6つの価値尺度が .62(0なら関連なし、1に近いほど同じ並び。目安では強いほう)。内部の一貫性(同じ項目群の揃い方)は6尺度中5つで .70台から .80台、利他性だけ低い。尺度は壊れず、順位のほうが入れ替わっています。

021年後、集団の平均は動かなかった。米国・2013年、予備調査を含め主として白人の回答者995人に、1年あけて同じ仕事価値目録の改訂版を二度実施した1本の調査。報告は相反する二つでした。標本全体の平均得点は1年を通じて安定していた一方、生の得点と順位の安定係数は低く、個人の得点の安定性は低い。集団の平均は動かないので統計には使えます。ところが求職者が使いたい自分の順位は、同じデータの中で動いていました。

03安定が最も低いのは、18〜22歳だった。2012年、縦断研究(同じ人を追いかけて繰り返し測る研究)のメタ分析は、順位の安定を .62(複数の研究を統合し、測り方の誤差を補正した値。0なら関連なし、1に近いほど順位が保たれた)と見積もりました。最も低いのは18〜22歳、最も高いのは22歳以降の就業後。性格特性より安定していた一方、職業興味ほどではありません。統合値は統合値で、集めた研究の結果が一様だった意味ではない。年齢と安定の対応が観察されただけで、働き始めが順位を固めたのでもありません。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
二度目の一致率、1年後の平均、安定が最も低い時期。まず測られたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

ここで話を止めると、「順位は当てにならない」で終わってしまいます。実際に起きているずれは、もう少し具体的です。手がかりは3つ。

01一度の順位表を、診断結果にしている。順位表に日付を入れず、清書して、これが自分だと決めてしまう。一度の結果を固定の指針として扱う前提は、原典の側にありません。1999年の技術報告が載せるのは、二度答えたときの一致率と再テストの相関——測るたびに動く数字です。それを動かない属性として読むところで、最初のずれが起きます。

0212個の順位を、12個の別物だと思っている。2008年、その仕事価値目録の改訂版の12の尺度を因子分析にかけた研究は、環境・評価・刺激・安全という4つのまとまりに落ちると報告しました。12個を1位から12位まで悩んでいたつもりが、実際には4つの塊を測っていたこともある。ただし本文が有料公開で、標本の規模と信頼性の具体値は本号では確認できていません。

03理論の名前を、測っていない結論の担保にしている。価値観と職業満足の話には、たいてい2012年の価値理論の論文が添えられます。10か国で集めた15標本、成人2,150人と大学生3,909人の計6,059人。ところが原典を開くと、職業満足も仕事も雇用も、本号が確認できた範囲では測定の記述が見当たりません。「理論が両者の関係を裏づけている」という連鎖は、原典の側に存在しません。名前は権威として便利で、便利なので、何を測っていないかは引用の途中で落ちます。

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵
一度の表を診断結果にする、12個を別物と思う、名前を担保にする。ずれは、読み方のほうに出る。 Visual: ALIFE

六つを並べ直しても矛盾はしていません。尺度は壊れておらず、集団の平均も動かない。動いたのは個人の順位で、その安定がいちばん低い時期は、仕事を選ぶ前に重なっていました。どれも、あなたの順位が何日もつかを教えてはくれません。引いた数字は、ほぼすべて米国と欧州の、すでに働いている人か大学生から採られたもの。日本の労働市場を対象にした査読研究はごく少なく、期間も1年前後が中心です。

人と環境の合い方も、東アジア・欧州・北米の96研究・110の独立標本を集めた2014年の比較が出るまで、理解は主として北米の研究に基づいてきたと指摘されてきました。二度目に答えられた213人も、1年後に捕まえられた995人も、二度とも答えられる状態にあった人です。落ちた人、辞めた人、応募できなかった人は、たいてい入っていません。「この方法で決まった」の多くは、「もともと決まりやすい条件にあった人が試せた」という逆向きを取り除けていない——というのが、この号の読み筋です。

二度目でも動かなかった行だけを、次へ持っていく。
——というのが、この号の読み筋。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。順位表を二度書けば選択が良くなる、と確かめた研究は扱っていません。自分の順位のどの行が二度目に残るかは、どの論文にも書かれていない。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。当てにいく必要はありません。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    いま仕事に求めるものを5つ書き出す。抽象的な言葉でよい——収入、時間の自由、通勤の短さ、任される範囲。

  2. 02RANK

    書けたら1位から5位まで順位をつける。いちばん上に、今日の日付を書く。

  3. 03DATE

    来週もう一度やる日を決めて、その日付も同じ紙に書き添える。比べるのは来週です。

5分。**採点はありません。**二度目に何が残るかが、この記録の中身です。埋まった数だけで結構。**今日の順位を根拠に、仕事を辞める・応募先を絞るといった判断まで進む課題ではありません。**書いた紙は人の目に触れない場所へ。つらさが続く・強まる場合は、この課題より先に、医療・支援の専門家へ相談してください。

価値観の明確化は、自分の芯を掘り当てる作業の名前ではありません。確かめられたのは四つ。再検査213人で、最も重視する価値の一致が要旨の掲げる62%(順序では62〜70%)、上位2つまでが52%だったこと。995人を1年あけて測り直すと、集団の平均は安定していたのに、個人の得点と順位の安定係数は低かったこと。

メタ分析が順位の安定を .62 と見積もり、最も低いのは18〜22歳、最も高いのは22歳以降の就業後だったこと。12の尺度が4つのまとまりに落ちたこと。はっきりすれば選べるとも、選べば満足するとも、ここまでの研究は約束していません。今日残るのは結論ではなく、5つの項目と、順位と、今日の日付と、来週の日付。紙が一枚、増えるだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS価値観の明確化を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
観察研究・前向き研究
介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
中央値
全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。