IN EMPLOYMENT · ISSUE 088

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶・浅い切り漬けのグラス・琥珀色の発酵茶の細長い容器が三つ並んだ静物写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「文化が合う会社を選べ」。これほど広く配られた助言は多くありません。2018年に Management Science へ出た研究は、米国の技術系企業1社の1,000万通を超える社内メールをたどり、要旨にこう置きました——「入社後すみやかに文化的に適合することは、非自発的な離職の危険を下げるが、自発的な離職の危険は下げない」。低かったのは辞めさせられるほうでした。

扱うのは社風の見極め方のコツではなく、文化の適合が、どこまで測られてきたかのほうです。いま働いていない人も、読者から外れません。

組織文化・価値観の見極め力(Organizational Culture Fit)は、社風を言い当てる勘ではなく、合致の見積もりと、その見積もりが何を言えないかまでを持つことです。研究の側でこの合致は、本人への質問ではなく、社内の言葉づかいの重なりから推定されてきました。混ざりやすいのは、辞めさせられること(非自発的な離職)と、自分から辞めること(自発的な離職)。この区別が、いちばん効きます。

(仮ビジュアル)夕暮れの大きなガラス壁ぎわに、黒い長袖と黒いパンツで裸足のまま立ち、海と岩場のほうへ目を向けている女性。ガラスにその姿が薄く映り込んでいる写真
混ざりやすいのは、辞めさせられることと、自分から辞めること。 Visual: ALIFE

では、その合致はどこに結びついているのか。測られた範囲は、その一文より狭く、少し奇妙です。まず測られたのは、この3つ。

01低かったのは、辞めさせられる危険のほう。2018年の研究は、その社内メールから、言葉づかいの変化を文化的な適応の軌跡として推定しました。早く馴染んでいた人で低かったのは辞めさせられることの危険のほうで、自分から辞めることの危険は低くありませんでした。「合う会社を選べば長く続く」は、この二つを区別していません。同じ研究は去った人と残った人では適応の軌跡そのものが違っていたとも報告します。材料は、米国の技術系企業1社の1,000万通のメールです。

02適合が有利だったのは、人脈の制約が小さい人。2016年に American Sociological Review へ出た研究は、同じ技術系企業の従業員601人が5年間に交わした1,024万通の社内メールを使いました。人脈の制約は個人の達成と負の方向、文化的な適合は正の方向。ただし両者にはトレードオフがあり、適合が有利に働いたのは、人脈の制約が小さい人(橋渡し役)で、人脈の制約のほうは適合が低い人の達成と正の方向でした。測られたアウトカムは個人の達成であって、離職ではありません。

03「期待どおり」は、気分と大きく、行動と小さく。1992年に Journal of Applied Psychology へ出たメタ分析は、31件の研究・17,241人で、「入社前の期待が満たされた」感じとの平均相関を報告しました。満足 .39、組織へのコミットメント .39、離職意図 .29——平均相関は、0なら関連なし、1に近いほど強く一緒に動く関連です。ところが在職が続いたかとは .19、職務遂行とは .11。気分に近い指標ほど大きく、行動に近いほど小さい。同じ要旨はすべての平均相関に研究間の有意なばらつきがあったとも述べます。統合値は、31件が一様だった意味ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
二つの離職、人脈の位置、期待と行動。まず測られたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。

01二つの数字を、根拠にしている。この助言には、たいてい二つの数字が添えられます。「人と組織の適合は離職意図を有意に下げる(β=−.35)」と、「文化適合が高い入社者は1年後の評価が平均22%高い」。この号は、どちらも原著にたどり着けませんでした。「1年後22%」が見つかったのは、出典を書いていない採用支援の資料の中だけです。書けるのは、公開されている範囲では一次情報に到達できなかった、ということだけ。「存在しない」とは書けません。この2つを、どの主張の根拠にも使っていません。

02入口で一度測れば済む、と思っている。2018年の研究の報告は、軌跡の後半にも及びます。いったんよく馴染んだあとで、文化的な合致が下がっていった人は、自分から辞めるほうへ向かっていました。この1社では「もともと低かった」より「いったん高くなってから下がった」ほうが自発的な離職に近い。入社直後の居心地の良さは、その先を保証しません。これも推定であり、軌跡が下がったから辞めた、と示したものではありません。

03「文化が合うか」を、自分の道具だと思っている。2012年に American Sociological Review へ出た研究は、米国のエリート専門サービス企業で、採用側への120件の聞き取りと採用委員会への参与観察を行いました。採用は技能の仕分けだけでなく、候補者・評価者・企業のあいだの文化的な照合でもある。評価者は、有能さに加えて、余暇・経験・見せ方が自分と似ている候補者を求め、文化を共有しているかへの関心は、絶対的な生産性への関心をしばしば上回っていたと報告されています。求職者の道具ではなく、選ぶ側の合理性への指摘です。限られた場での聞き取りと観察で、あらゆる採用がこうだとは示していません。

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵
たどれない数字・入口だけの計測・向きの取り違え。ずれは、読み方のほうに出る。 Visual: ALIFE

では、入る前に実像を見せておけばよいのか。1998年に Academy of Management Journal へ出たメタ分析は、この処方を扱った40件(うち26件が公刊)を集めますが、効果の大きさの数値は要旨から取れません。2011年に Personnel Psychology へ出た経路分析は52件・約17,000人で、自発的な離職に結びつく主な経路は、実像そのものではなく「その組織は正直だ」という受け取られ方だと結論します——ただしたどれたのは要旨までで、著者らの結論としてのみ扱います。

中心にある証拠は、米国の技術系企業1社と、米国のエリート専門サービス企業から採られています。日本の職場を対象にした同種の査読研究は、ごく少ないままです。メールで測る方法は、文字のやりとりが多い職種でしか使えません。そして選択肢の多い人ほど、合わないと感じたときに辞められるという逆向きは、排除できません。

低かったのは、辞めさせられる危険のほう。
自分から辞める危険のほうは、下がっていませんでした。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。言葉の根拠を分けて記録すれば見極めが良くなる、と確かめた研究は、ありません。というわけで、ここからはALIFEが提案する実践の入口です。印が3つ付けば足ります。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    直近1か月で自分が口にした「その職場らしさ」を表す言葉を3つ書き出す。「風通しがいい」「体育会系」「放任」「数字にうるさい」——短い言葉でよい。

  2. 02MARK

    その3つのそれぞれに、根拠が「自分で見た出来事」か「人から聞いた話」かの印を付ける。両方にまたがるなら、両方に付けてよい。

  3. 03STOP

    判定はそこまで。その職場や、そこにいる人の良し悪しは書かない。特定の企業名も書かない。

5分。**採点はありません。**3つとも「人から聞いた」でも成立します。いま働いていない場合やこれから初めて働く場合は、直近で関わった集まり(学び直しの場、地域の役割、家族の中の役割分担など)に置き換えてかまいません。**他人を評価して伝える課題ではありません。**書いたものは手元に置き、読み終えたら処分を。つらさが続く・強まる場合は、医療・支援の専門家へ相談してください。

この号で確かめられたのは四つ。米国の技術系企業1社の社内メールで低かったのは「辞めさせられる危険」のほうだったこと。601人・5年・1,024万通では、適合が有利だったのが人脈の制約の小さい人だったこと。31件・17,241人では、期待の一致が満足と .39、在職が続いたかとは .19 だったこと。米国のエリート専門サービス企業への120件の聞き取りでは、文化の共有への関心が生産性への関心を上回っていたこと。長く続けられるとも、良い会社を選べるとも、約束はされていません。残るのは、言葉が3つとその横の印だけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS組織文化・価値観の見極め力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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ISSUE 087同じ41件から、.21 も .35 超も出た。ISSUE 08947%と9%は、けんかしていない。
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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。