IN EMPLOYMENT · ISSUE 084

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「働く人は、仕事を三通りに見ている——生活の手段(job)、階段(career)、天職(calling)。しかも、およそ3分の1ずつ」。出どころは1997年の研究です。原典には、ほぼ同数がそれぞれ job、career、calling と見ていた——44人、43人、48人とあります。足すと135人。ところが、この研究が分析に用いた回答は196人ぶんでした。残りの61人は、単一の構えに分類できていません。

この号が扱うのは、天職の見つけ方ではありません。仕事への構えが、どこまで測られてきたかのほうです。「好きなことを仕事に」という助言は、当たっても外れても言い訳が立ちます——合わなかったのはまだ本当に好きなものに出会っていないから、合ったのに苦しいのは好きなことにも苦労はつきものだから。先に、どこまでが測られた話かを置きます。

動機・エネルギー源の認識(Motivation and Energy Sources)は、自分が何に没入し、何で消耗するかを見分ける力を指します。研究で近い形で測られてきたのは、同じ仕事を生活の手段と見るか、階段と見るか、天職と見るか——仕事への構えの区別です。

(仮ビジュアル)夕暮れの大きなガラス壁ぎわに、黒い長袖と黒いパンツで裸足のまま立ち、海と岩場のほうへ目を向けている女性。ガラスにその姿が薄く映り込んでいる写真
測られてきたのは職業名ではなく、その人が仕事との関係をどう見ているか。 Visual: ALIFE

では、その構えはどう分かれ、どれだけ動くのか。「およそ3分の1ずつ」が指す人の数は、原典まで下りるほど小さくなります。まず測られたのは、この3つです。

01配った413人から、分類できた135人まで。1997年の研究は、米国の二つの職場——大規模な州立大学の学生保健サービスの職員130人と小規模なリベラルアーツ大学の教員以外の職員283人、計413人に質問紙を配りました。答えたのは76人と162人で回答238人、分析に用いた回答が196人、単一の構えに分類できたのが135人。内訳がjob 44人・career 43人・calling 48人(44+43+48=135)。回答者の79%は女性、平均年齢は42歳(21〜69歳)です。

02同じ職種24人の中で、9対7対8。同じ論文に、もう一つ数字があります。同じ標本から管理事務職24人だけを取り出した内訳——job 9人・career 7人・calling 8人(9+7+8=24)。同じ職種、同じ職場でも、構えは三つに割れていました。読めるのは「人は3分の1ずつに分かれる」ではなく、職種名からその人の構えは予測できない——というのが、この号の読み筋です。24人という小さな下位集団の内訳で、この研究を独立に追試した査読論文は、探した範囲では確認できませんでした。

037年・4回で、平均は下がり続けた。構えが固定されているかを追った調査もあります。2013年の前向きの縦断調査で、対象は米国の二つの高校生向け夏期音楽プログラムの参加者(アマチュアの音楽家)450人。2001年から2008年までの7年に4回。天職としての構えの強さは12項目の尺度で測られ、得点が高いほど構えが強い。平均は7年で5.32まで下がり、低下は1年あたり平均.08。当初の関与が強い人ほど初期値は高く、その後の低下も大きいという報告です。尺度自体は、音楽・美術・ビジネス・経営の4領域、1,500人・2,278観測から作られています。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
135人の内訳、同じ標本の24人の内訳、7年の推移。まず測られたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

ここで話を止めると、「自分の型を見つけよう」に着地します。その手前で、話が別のものへ入れ替わるところを3つ。

01構えの名前で、自分を呼んでいる。「自分は天職型だ」と名乗ると、火曜の15時に何が起きていたかを書かなくなります。名前は、記録の代わりになりません——というのが、この号の読み筋です。1997年の研究は構えを分類する質問紙で、名乗ることの効果を測ってはいません。管理事務職24人が9対7対8に割れていた以上、名前が言い当てられる範囲は、見た目より狭いことになります。

02「情熱は見つけるもの」を、前提にしている。「好きなことを仕事に」の背後には、情熱は実在していて見つけるものだ、という前提があります。2015年の4つの研究は、これを「適合を見つける」と「関わりながら育てる」に分けて比べ、どちらの考え方も成功に寄与しうると述べました。どちらが多数かは、たどれた公開抄録では確認できません(割合も効果量の具体値も扱いません)。2018年の5つの研究は参加者126人・141人・89人・44人・70人(最後はコミュニティ・カレッジの学生)で、主要な交互作用の効果量は ηp² = .04 から .07——ばらつきのうちその要因で説明される割合の指標で、0が「説明なし」、一般的な目安では0.01が「小」・0.06が「中」。対象は学生が中心です。信念が広く流通していることと、それが結果を左右することは、別です。

03情熱を、本人の資源としてだけ見ている。値切っておくべきことが、もう一つ。「好きでやっているのだから」という見立ては、扱いの悪さを正当化する向きにも働きます。2020年の米国の成人を対象にした一連の実験は、情熱があると見なされた働き手ほど、業務外の仕事の割り当てや無償の残業が正当だと判断されやすいと報告しています。経路は二つ——自ら望んだはずだ、仕事そのものが報酬だ、という二つの想定です。逆向きも確かめられ、搾取されていると示されると情熱の帰属が増えました。第三者として下した判断についての報告で、実際の職場で同じ判断が起きるかは別です。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶・浅い切り漬けのグラス・琥珀色の発酵茶の細長い容器が三つ並んだ静物写真
名前で自分を呼ぶ・「見つける」を前提にする・本人の資源としてだけ見る。 Visual: ALIFE

並べ直すと、この号が言えることの形が見えます。「およそ3分の1ずつ」と言えたのは、米国の二つの大学の職員のうち、単一の構えに分類できた135人についてです。この号の数字はどれも、あなたが何に向いているかを教えてはくれません。平均は、平均が計算された集団の話だからです。

読んだ6点のうち、全文まで読めたのは4点。残る2点は公開抄録の範囲までで、そこを超えては書きません。ここまでの数字は、ほぼすべて米国の、すでに働いている人・アマチュアの音楽家・大学生から採られています。日本の労働市場を対象にした査読研究はごく少なく、期間も短い。もともと選択肢の多い人ほどこうした方法を試せる、という逆向きも排除できません。

資料でよく見る「内発的動機が高い職種への就職者は、3年後の職業満足・離職率・給与水準のすべてで優位」という一文は、原典を特定できませんでした。存在しないのではなく、一次情報にたどり着けなかった、ということです。

「およそ3分の1ずつ」と言えたのは、
米国の二つの職場の、135人までだった。

だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。時間帯を記録すれば自分の構えが分かる、と確かめた研究を、この号では扱っていません。職種名から構えを予測できないという一点から出た、ALIFEの提案です。

TRY IT TODAY

  1. 01FORGET

    今日(または直近の作業日)のうち、時間の経過を忘れていた時間帯を、時刻の範囲で書く。

  2. 02WATCH

    時計を何度も見た時間帯を、同じように時刻の範囲で書く。

  3. 03NOTE

    それぞれ、そのとき何をしていたかを1行だけ添える。良い悪いは書かない。

5分。**採点はありません。**該当が無ければ「無し」で完了です。仕事でも、家事でも、学びでもかまいません。いま勤め先が無い場合は、直近で続けた活動の日を1日選べば成立します。**他人の時間は測りません。**評価語は書かず、時刻と作業内容だけを残します。メモは人の目に触れない場所へ。つらくなったら中止してください。つらさが続く・強まる場合は、この課題より先に、医療・支援の専門家へ相談してください。

動機・エネルギー源の認識は、天職を言い当てる技術の名前ではありません。確かめられたのは四つ。「およそ3分の1ずつ」の内訳が44人・43人・48人で、分母は分析対象の196人ではなく単一の構えに分類できた135人だったこと。同じ標本の管理事務職24人では9人・7人・8人に割れたこと。450人を7年・4回追った調査で、天職としての構えの平均が下がり続けたこと。2018年の5つの研究で、交互作用の効果量が小から中の範囲だったこと。

向いている仕事が分かるとも、好きなことが見つかるとも、研究は約束していません。——今日残るのは診断ではありません。時間を忘れていた時間帯と、時計を何度も見た時間帯。時刻の範囲が二つ、増えるだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS動機・エネルギー源の認識を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。