IN ARTS · ISSUE 073
● 12 SEC犯行場面の映像を見せ、片方の群にだけ犯人の顔を詳しく描写させてから、顔写真から選ばせる。描写した群のほうが選び当てる率は低かった——1990年のこの結果を、2014年の多施設追試が2段階で測り直しました。
直後に描写させ20分おいて選ばせた31研究室では -4.01%——正しく選べた割合の差で、マイナスは描写させた群が低かったことを指します。20分おいてから描写させ直後に選ばせた22研究室では -16.31%。変えたのは、順番だけでした。
この号が扱うのは上達のコツではなく、考えなくてもできるようになる過程が、どこまで測られてきたかです。運転も、包丁も、同じ過程の上にあります。
技術の自動化(Automaticity)とは、繰り返した動作が、あるところから意識に上らなくなっていく過程です。運動学習の教科書には認知・連合・自律の3区分が載り、1960年代のこの枠組みは長く便利な比喩でした。測れるのか——脳活動で切り分けた研究があります。

測られてきたのは、進む向きだけではありません。まず測られたのは、この3つ。
0136回のあいだに、中身が入れ替わった。2016年に Cognitive Psychology へ出た研究は、大学生40人に同形式の問題を1問36回解かせ、脳活動から1試行を区間に切り分けました。出たのは、なだらかな短縮ではなく3つの局面。第1局面は計算に5〜6秒、第2局面ではそれがほぼ消えて答えは記憶から引き出され、第3局面は読み取る区間が0.54秒ほどに縮みます(1試行は約2.5秒、大半は打鍵)。上達は、速くなるのではなく中身が入れ替わる過程として検出されました。古典的な3区分との対応づけは、この論文単独ではなく同じ著者たちの一連の研究の系譜にある読み方。測ったのは実験室の問題です。
02顔を描写した群のほうが、選べなかった。出発点は1990年に Cognitive Psychology へ出た6実験・延べ518人の大学生。映像を見せ、片方の群にだけ犯人の顔を描写させると、そのあと顔写真から選び当てる率は、描写した群のほうが低いものでした。言葉が視覚的な記憶を上書きする——著者らはこれを言語隠蔽効果と名づけます。言葉にできるのは顔の一部だけで、それが全体の代わりに残る、という説明。測ったのは顔写真から選ぶ課題で、身体の技ではありません。
03同じ効果が、順番で4倍近く動いた。2014年に Perspectives on Psychological Science へ出た事前登録済みの多施設追試が、2段階で測り直します。第1弾は31研究室、-4.01%(95%信頼区間 -7.15%〜-0.87%)——原研究の対応する実験の -22% と比べればほとんど消えたに等しい。第2弾は22研究室、-16.31%(同 -20.47%〜-12.14%)で、原研究の -25% に近づきます。消えたのでも、再現したのでもない。空いた時間で大きさが4倍近く動いた、という結果です。どちらも統合値で、各研究室の結果が一様だった意味ではありません。

ここで止めると「言葉にするのはやめよう」に着地します。そこまでは測られていません。ずれは次の3か所で出ます。
01同じ助言を、誰にでも渡している。2008年に Psychonomic Bulletin & Review へ出た実験は、ゴルフのパッティングを基準まで習得させたあと、片方の群にだけ自分の打ち方を詳しく記述させて再テストしました。技能の高いゴルファーでは成績が有意に落ち、技能の低いゴルファーでは同じ低下は生じていません。著者らは、二重課題の干渉を超え、長期記憶への影響を反映しうると論じます。ただし低技能側で低下が検出されなかったことは、影響が無いと示したものではありません。測ったのはパッティング1課題です。
02不調のときに、自分の動作を見に行く。言葉にしなくても、注意の向け先だけで同じことが起きます。2004年に Journal of Experimental Psychology: Applied へ出た実験は、野球の打撃を模した課題で、経験の長い熟達打者と初心者を比べました。無関係な音を聞き分ける課題を足すと初心者の成績が落ち、自分のバットが今どちらへ動いているかを判断させる課題を足すと、熟達者のほうの誤差が増えた。第2の実験では、熟達打者は不調の時期ほど、自分のバットの動きの判断が正確だったとも。監視は不調の結果だけでなく、その一部としても現れます。ただし本号は、この報告の全文を確認できていません。人数もミリ秒の値も載せず、向きだけを書きます。
03思い出せないことを、証拠として扱っている。「意識に上らないのだから、熟達者は演技を憶えていないはずだ」——この予測は熟達性起因の健忘と呼ばれ、支持する実験もあります(熟達ゴルファーの、いま打った1打の説明は初心者より短く、一般的な説明はむしろ長い)。ただし2020年に Mind & Language へ出た検討は、ここに疑いを向けます。扱う論点は3つ——70回近い反復で退屈から自動操縦に入っただけかもしれないこと、実験室の緊張度は本番に遠く及ばないこと、熟達者の記憶が優れていると示す研究のほうが大量にあること。対案は、記憶が薄いのは自動性ではなく、いまへの深い注意か、言葉にならない身体感覚への注意による、というもの。概念の検討で、実験の決着ではありません。

六つを並べても、矛盾はしていません。反復は自動化へ進み、言語化と監視は、その手前へ引き戻す側に置かれます。引き戻しの大きさは、20分おいた第1弾で -4.01%、直前に置いた第2弾で -16.31%。「言語化は害だ」でも「再現しなかった」でもなく、同じ追試の二つの数字です。
逆向きの手がかりもあります。2013年に Human Movement Science へ出た実験は30人に脚の屈伸課題をさせ、自分の脚に注意を向ける条件と、足が届く目標(外)に向ける条件を比べます。外に向けた条件のほうが動きは滑らかで規則的になり、同時の語想起(認知)課題の負担も小さく、動作側の二重課題の負担には明確な差がなかった(使うのは向きまでで、具体値は用いていません)。
全文まで読めたのは7点のうち6点。読めていない1点は、向きだけを帰属付きで書きました。引いた研究は欧米の大学生と、ゴルフ・野球という限られた種目に偏り、脳活動の研究は40人規模、動作の研究はいずれも小さな標本。実験室の課題は本番の重さを再現しません。向きは信用してよいとしても、あなたの技で何がどれだけ動くかは、書かれていません。
変えたのは、言葉にする順番だけ。
——31研究室と22研究室の、同じ追試で。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。言語化を前半に寄せれば本番の出来が上がる、と確かめた研究は、この号にありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
すでに考えなくてもできる手順を1つ選ぶ。音階の1フレーズ、包丁の刻み、受け身、サーブ——10回繰り返せるものならよい。
- 02COUNT
まず何も言わずに10回やって、自分で成功と判断した回数を数える。
- 03WRITE
その手順を、他人が再現できる詳しさで紙に書き出す(3分ほど)。すぐ同じ10回をやり、成功回数を数えて、2つの数字を並べる。
技術の自動化は、上達の証明につけられた名前ではありません。確かめたのは四つ——40人が1問36回で3局面を通り、第3局面の読み取りが0.54秒ほどに縮んだこと。描写した群のほうが選び当てられなかったこと(6実験・518人)。効果が31研究室で -4.01%、22研究室で -16.31% だったこと。記述させると、技能の高いゴルファーで成績が有意に落ちたこと。
言葉にするのをやめれば上手くなるとも、自動化すれば点検が要らなくなるとも、ここまでの研究は約束していません。今日残るのは統合値ではありません。手順の名前が1つと、前の10回と、後の10回。数えた組が、一つ増えるだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS技術の自動化を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
