IN STUDIES · ISSUE 063

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で外の街明かりを見ている女性。ガラスにその横顔が薄く映り込んでいる● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「人は常に所要時間を過小評価する」。段取りの助言として、広く配られてきた一文です。ところが2012年の総説は、この一文の材料になってきた研究を心理学・工学・経営科学の3分野にまたがって読み直しました。対象は、折り紙を折る課題からソフトウェア開発の工数見積もりまで。報告されたのは——過小評価のほうが過大評価より多く報告されたのは工学と経営の文献においてであり、心理学の文献ではそうではなかった、という結果でした。

この号が扱うのは段取りのコツではなく、見積もりがどこまで測られてきたかのほうです。心当たりに当たる一文ほど、反証されにくくなる——だから先に、どこまでが測られた話なのかを置きます。学校に通っていない人も、この号の読者から外れません。

計画立案力(Planning)は、やることを決める力というより、いつ・どれだけかかるかを見積もり、行動につなぐところまでを指します。見積もりには混ざりやすい二つがあります。ひとつは作業時間の予測——何時間かかるか。手を動かす時間だけの話です。もうひとつは完了時期の予測——いつ終わるか。割り込みも待ち時間も他の予定も入ります。2012年の総説は、多くの研究がこの二つを区別していないと指摘します。第3章に3時間が必要だとして、それが今週中に終わるかは別の問いです。

(仮ビジュアル)夕暮れの大きなガラス壁ぎわに、黒い長袖と黒いパンツで裸足のまま立ち、海と岩場のほうへ目を向けている女性。ガラスにその姿が薄く映り込んでいる写真
混ざりやすいのは、何時間かかるかと、いつ終わるか。 Visual: ALIFE

では、その見積もりはどちらへ、どれだけ外れるのか。まず測られたのは、この3つです。

01多数派は、文献群で入れ替わった。2012年の総説が読み直したのは、判断にもとづく所要時間の予測を扱った研究です。入れ替わったのは分野の側で、著者たちは、この読み取りが研究の種類と分析の水準に依存するとも断っています。効果が無いのではなく、あるが、いつでも同じ向きではない、という話です。

02反転の法則も、誤差から現れうる。「短い課題は過大に、長い課題は過小に見積もる」。よく引かれるこの反転の法則にも、同じ総説は疑いを向けます。繰り返し報告されてきたこの知見は、ある程度まで、偶然の誤差によって生じる統計的な見かけでありうる。否定されたのではなく、確かめきれていない段階です。集められた研究が一様だったという意味でもありません。

03参照する記憶が短い、という論。「筋書きではなく実績を使え」ともよく言われます。2005年の論文は、ここに別の説明を置きました。人が過去に似た課題にかかった記憶をもとに予測する——そこまでは同じ。ただし、その記憶のほうが、過去の所要時間を体系的に短く見積もっている、と論じます。記録をつければ予測が当たると確かめた研究ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
1本の総説から二つ、記憶をめぐる論文から一つ。まず測られたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。

01目標を、計画の形だと思っている。1999年の論考は、目標を行動に移す段階で起きる問題——手をつけられない、気が散る、以前の習慣に戻る——を挙げ、あらかじめ予想した状況と、そこで取る行動を結びつけた一文を用意することを提案しました。「状況xが来たら、行動yを始める」。行動の制御を、予期された手がかりに委ねる形です。提案と仕組みの説明であって、効果の大きさを測ったものではありません。「今週中に第3章を終える」は目標であって、この形ではありません。状況が指定されていないからです。

02望む未来を、鮮やかに思い描いている。同じ2012年の総説は、逆向きの結果を集めます。望ましい未来を、期待ではなく空想として思い描くことは、努力と成功に不利に働きうる、と。ある研究では、良い成績についての空想が強いほど、その後の成績と努力は低いほうへ、期待の高さは逆に高いほうへ関連しました。観察された関連であり、空想が成績を下げたと示したものではありません。同じ総説が提案するのは、望む結果と、それを阻む障害を対にして思い浮かべる手順。職業訓練校で数学を扱った研究では、条件を知らされていない教師が2週間後の努力と成績を報告し、この手順を行った条件でのみ、見込みの高さに応じて努力と成績が上下しました。その条件に限られた結果です。

03補正前の数字で、話している。この二つを組み合わせた介入には、2021年のメタ分析があります。21件の研究から24の効果量、のべ1万5,907人。目標の達成というアウトカムについて、統合された効果量は g=0.336(95%信頼区間 0.229〜0.443)。ただし出版の偏りも検討され、漏斗図の非対称と回帰検定(t=5.46、p<.01)から偏りの可能性が示され、補正を当てると g=0.242(0.143〜0.342)まで下がりました。有意な調整変数は介入の形式だけ(補正前の分析)で、対面なら 0.465、文書で渡すと 0.277。統合値は統合値であって、24の効果量が一様だったという意味ではありません。実地の報告は2013年の米国の研究。都市部の学校の5年生77人(平均11.05歳・85%が低所得世帯)で、第3四半期の評定平均が介入群80.29・対照群78.13、出席日数43.28日と42.38日、素行の評価3.67と3.42。向きは揃いますが幅は小さく、小規模な1本。検定の結果はこの号で扱っておらず、この数字だけで差が明確とは言えません。対象は児童で、大人でも同じかは別に確かめる必要があります。

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵
目標を計画と呼ぶ・空想で済ませる・補正前の数字で話す。ずれは、読み方のほうに出る。 Visual: ALIFE

三つを並べても、どれも、あなたの予定が何分外れるかを教えてはくれません。共通しているのは、自分の外れ幅を数えた記録だけがどこにも無いこと——というのが、この号の読み筋です。研究は実験室の短い課題と企業の開発案件に偏り、働きながら学ぶ大人を対象にした研究はごく少ない。余裕のある人ほど新しい手順を試せるという逆向きも排除できません。

「常に短く見積もる」と書けたのは、
分野ごとの傾向のところまでだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。記録をつければ予測が当たると確かめた研究を、この号では扱っていません。外れ幅が測られていないという一点から、ALIFEが提案する実践の入口です。当てにいく必要はありません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日やると決めていた作業を1つ選ぶ。始まりと終わりがはっきりしているものがよい。

  2. 02GUESS

    始める前に、作業の名前と、予定所要時間を分で書く。

  3. 03LOG

    終わったら、実際にかかった時間と、その差を分で書く。中断した回数も添える。

5分。**採点はありません。**当たっている必要はなく、**外れた幅のほうがこの記録の中身です。**予定より短く済んだ日も、そのまま書きます。学校に通っていない場合は、資格の教材や仕事の書類でかまいません。他人の作業時間は測りません。書いたものは人目に触れない場所へ。つらくなったら、そこで中止してください。つらさが続く・強まる場合は、この課題より先に、医療・支援の専門家へ相談してください。

計画立案力は、予定を当てる技術の名前ではありません。確かめられたのは、「常に短く見積もる」とは書けず、書けたのは文献群ごとの多数派の違いまでだったこと、反転の法則もまだ確かめきれていないこと、参照する記憶が短いと論じられていること、手順の効果量が補正で 0.336 から 0.242 へ縮んだこと。当たるようになるとも速くなるとも、ここまでの研究は約束していません。——今日残せるのは統合値ではありません。作業の名前が1つと、予定と実測、そしてその差。数字の対が一組、増えるだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS計画立案力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
効果量 d・g
2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。