IN STUDIES · ISSUE 064

(仮ビジュアル)夕暮れの窓辺、黒枠の大きな鏡の前に黒いローブ姿で立ち、鏡の中の自分と静かに向き合っている女性。石の台には赤いガラスのカップと黒い本が置かれている● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「人に教えるのが、いちばんの勉強になる」。2014年に Memory & Cognition へ出た実験は、そこに仕掛けを入れました。同じ文章を大学生に読ませ、片方には「あとでテストがある」、もう片方には「あとで他の人に教えてもらう」と伝える。実際には、誰も教えていません。全員がテストを受けただけです。それでも実験1では、教えるつもりの群が多く再生しました。

扱うのは教え方のうまさではなく、協働をめぐって流通している数字が、どこまで確かめられているかです。勉強会の作り方も仲間の集め方も配りません。一緒に勉強する相手がいない人も、読者から外れません。学業群16号の最後なので、終わりに見取り図も置きます。

協働力(Collaboration)の下では、性質の違う二つが数えられてきました。人に渡す前提で学ぶことと、複数人で一緒に学ぶこと——協同学習と呼ばれる授業の形です。前者の出口は実験室の記憶課題、後者は教室での成績。同じ語でも測っている対象は別物で、数字を並べて比べられるものではありません。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りてくる写真
数えられてきたのは、渡す予定があるかどうかと、一緒に学んだかどうか。 Visual: ALIFE

では、「あとで教えることになっている」と伝えられただけで、何が違ったのか。測られたのは3本です。

01誰も教えていないのに、実験1では差がついた。2014年の2実験。実験1(大学生56人)の自由再生は、教える前提の群が考えの単位の17%、テスト前提の群が13%(t(54)=2.08、d=0.56)。まとまりの指標も .81 と .67(d=0.65)。実験2(44人)の要点の設問は境界線上(F(1,41)=3.15、p=.083、d=0.45)で明確な差とは言えず、細部の設問は差なし(d=0.11)。短い時間のうちに測った実験で、試験の成績や仕事の成果を追ったものではありません。

0239件の統合値でも、差は「予定あり」の側に寄った。2024年のメタ分析は、準備して学んだあとに実際に教えることの効果を39件から統合し、g=0.27(95%信頼区間 0.15〜0.39)と報告しました。内訳は、教える予定を伝えられていた場合 g=0.48(0.34〜0.63)、伝えられていなかった場合 g=−0.02(−0.14〜0.11)——後者は信頼区間が0をまたぎ、明確な差とは言えません。研究どうしを比べた分析で、同じ人に前提の有無を割り当てた結果ではなく、39件の個々が一様だったという意味でもありません。

03ただし説明は、言い渡すほうへ偏る。2007年の総説は、教える側が学ぶことは多くの場面で観察されてきたが、その伸びの大きさはしばしば期待外れであると書き出します。伸びを支えるのは、理解を点検しながら既知と新しい情報を結び直す形の説明で、順に並べて言い渡す説明ではない。説明する側には言い渡すほうへ偏る傾向が広く見られ、訓練を受けていてさえ残る、とも。総説であって実験ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
大学生56人と44人の実験・39件のメタ分析・総説1本。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。

01出どころのない値を、確かめられた数字として引いている。学習の設計資料には、「協調学習が個人学習より概念理解・保持・転移を促進。メタ分析効果量 d=0.59」という一文が載ります。代表文献に挙がるのは2009年の総括。協同学習の普及を大きな成功物語のひとつと呼び、過去11の年代で1,200件を超える研究が行われてきたと述べます。この 0.59 の出どころには、たどり着けませんでした。無いとは書きません。見つからなかった、と書きます。

02誰が数えたかを、値の隣に置いていない。2014年の総括は18歳以上の168件を超える研究を集計し、達成度の平均効果量を集計表で、競争的な学び方に対して0.54、個別学習に対して0.51と報告しました。ところが同じ論文の本文には、それぞれ0.49・0.53という別の値もあります——原典の中で数字が二通りある。集計を設計したのは、この枠組みを提唱した当人たちです。間違いだという話ではなく、値の隣に「誰が数えたか」を置くかどうかの話です。

03条件つきの幅を、一つの数字に丸めている。2013年のメタ分析は枠組みの外から集め直し、1995年以降の教室で行われた研究に絞って、条件を満たした65件を初等から高等教育まで集めました。報告は達成度と態度への正の効果ですが、同時に教科の領域・年齢の段階・文化圏の3つが効果量のばらつきと結びついていたとされます(原典の全文は未確認のため、報告の帰属にとどめ、効果量の値は扱いません)。出てくるのは一つの数字ではなく、条件つきの幅です。

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵
出どころのない値を引く・誰が数えたかを落とす・幅を一つに丸める。ずれは、読み方のほうに出る。 Visual: ALIFE

確かめられたのは教える予定があると伝えられた側で差が出たという一点だけ。差が明確なのは実験1(大学生56人)の自由再生とまとまりの指標で、実験2(44人)の要点の設問は境界線上、細部は差なし。39件の統合値も g=0.27 と小さいままでした。

流通している 0.59 は出どころにたどり着けず、行き当たった0.54・0.51は提唱した当人たちの集計で、同じ論文の中に0.49・0.53もありました。全文まで読めたのは7点のうち6点。読めていないものについては書きません。証拠の大半は、学校に通う児童・生徒と、欧米の大学生から採られています。働きながら学ぶ大人の研究はごく少なく、測られた期間も短い。もともと学ぶ余裕のある人ほどその学習法を試せるという逆向きも、排除できません。

問われたのは、うまく教えられたかではない。
教えることになっている、という前提のほうだった。

もう一つ、1979年の古い実験。できるだけ大きな音を出す課題を使いました。一人のときを100とすると、実際に一緒に行った条件では2人で71%、4人で51%、6人で40%まで、一人あたりの出力が落ちます。第2の実験では、実際には一人なのに他の人も出していると思わせただけで、もう1人いると思わされた条件では82%、5人いると思わされた条件では74%(一人のとき=100)。

読みどころは人数ではなく、下がったことに本人が気づいていない点です。測れる音ですらそうなのだから、自分がどれだけ理解しているかとなればなおさら。——次の3手も、研究が命じた順番ではありません。理解の穴が外に出た瞬間を1つ残す、ALIFEの実践の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01RECALL

    直近1か月で、誰かに何かを説明した場面を1件だけ思い出し、何を説明したかを1行書く。

  2. 02MARK

    説明していて詰まった箇所を、1つだけ書き出す。言葉が出てこなかった・順番が分からなくなった・答えられなかった、のどれかでよい。

  3. 03SORT

    一度だけ読み返し、それが「知らなかったこと」か「知っていたが並べられなかったこと」かに印を付ける。

5分。**採点はありません。**うまく説明できたかどうかは見ません。誰かに説明しに行く必要も、相手に求めることもありません。思い出せる場面が無ければ、自分に説明しようとして詰まった箇所を1つ書けば成立します。書いた紙は人目に触れない場所へ。頭の中だけでも成立します。つらくなったら中止を。つらさが続く・強まる場合は、この課題より先に、医療・支援の専門家へ相談してください。

学業群の16号。はじめの4号——049成長マインドセット・050自己効力感・051自己調整・052注意制御——は、学びに向かう構えと、注意の向け先。次の4号——053作業記憶・054処理速度・055言語能力・056論理的思考——は、一度に何をどれだけ載せられるかという器。続く3号——057メタ認知・058知識の構造化・059転移能力——は、点検し、並べ直し、持ち出す手つき。残りの5号——060内発的動機・061やり抜く力・062感情調整・063計画立案力、そしてこの064協働力——は、続けるための条件と、人に渡すところ。4号・4号・3号・5号で、16号です。

——上から順に消化する並びではありません。足し算ではなく掛け算で、どれか一つが欠けていれば他をいくら伸ばしても積は動かない。だから、どの号から開けてもかまいません(研究が示した順序ではなく、ALIFEの並べ方です)。変わるとすれば、「d=いくつ」を見たときに誰が数えたのかと、何で動く値なのかを聞き返せるようになったこと。落ちているのは、たいてい幅のほうです。今夜見えるのは統合値ではなく、説明して詰まった、その一箇所だけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS協働力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
効果量 d・g
2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

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ISSUE 063「常に短く見積もる」とは、書けなかった。ISSUE 049効果の大きさは、平均の取り方で揺れる。
ALIFE · ISSUE 064

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。