IN STUDIES · ISSUE 062
● 12 SEC「社会性と情動の学習で、学業成績が平均11パーセンタイル上昇」。学びの設計資料でよく見かける一文です。出どころは米国で2011年のメタ分析。学校で全員を対象に行われた介入213件・のべ27万34人(幼稚園から高校まで)を統合し、学業成績の平均効果量を0.27と報告しました。11は、その0.27を順位の物差しに置き換えた言い換えです。
この号が扱うのは、気持ちの整え方ではありません。同じ結果が、単位を替えながら運ばれていくことのほうです。見るのは一点だけ——0.27と、11と、「11%」は、どこで別のものになるのか。試験の前に手が冷たくなることを、この号では悪いものとして扱いません。学校に通っていない人も外れません。
感情調整(Emotion Regulation)が指す範囲は、思っているより広いものです。米国で1998年の総説は、感情が生まれてから消えるまでの流れに沿って、手を入れられる地点を5つに分けました——状況の選択、状況の修正、注意の配分、認知的変化、反応の調整。前の4つは反応が立ち上がる前の調整、最後の1つは立ち上がったあと。世間でいう感情調整——我慢する、表に出さない——は、その最後の1つ。どの地点がよいかを比べた研究ではなく、領域を整理した枠組みです。
学びの場に限った整理もあります。2006年の理論は、学びの場の感情が統制の評価(どうにかできそうか)と価値の評価(意味があるか)から立ち上がる、と説明しました。細かい区分は原典の全文が未確認のため、生起の説明にとどめます。

それを学校で教える介入は、どこまで測られたのか。まず測られたのは、この3本です。
010.27を、11と書き換えた。米国で2011年のメタ分析は、学校で全員を対象にした介入213件・のべ27万34人(幼稚園から高校まで)を統合。平均効果量は、社会的・情動的な技能0.57、態度0.23、向社会的な行動0.24、行動上の問題0.22、情動面の苦痛0.24、学業成績0.27。論文はこれを、パーセンタイルにすれば11の差と言い換えました。ただし学業成績を測ったのは213件のうち35件、残りの178件はこの数字に関与していません。統合値は統合値で、個々が一様という意味ではない。
02公刊・規模・尺度で、およそ2倍ちがった。米国で2016年の分析は、読み・算数・理科の12のレビューから645件の研究を集めました。効果量は、出版された論文・小規模な試験・実験者が作った尺度で測ると、未公刊の文書・大規模な研究・独立した尺度のおよそ2倍。準実験は無作為化実験より高い値でした。測られたのは学力で、この645件は社会性と情動の学習に限った研究群ではありません。効果量は、誰が測り・何で測り・どこに載ったかでも動く。
03562件の統合は、因果の言葉で結ばれた。米国で1988年の統合は、試験のときの不安について562件の研究を集めました。この論文は試験不安が成績の低下を引き起こすと結論し、さらに、それまでの見方に反して、試験不安が下がったときには試験成績と評定平均の改善が一貫して伴っていた、と報告しています。相関を集めた統合が、原因の言葉で結論を書いた時代のものです。この号は、その因果の言い方を引き受けません。不安が悪いと示した研究でもありません。

話が別のものへ入れ替わるのは、この3か所です。
01パーセンタイルを、パーセントとして読んでいる。パーセンタイルは順位の位置であって、パーセントではありません。「成績が11%上がる」でも「11%の人に効く」でもない。効果量0.27を、順位の物差しに置き換えたときの見え方です。落ちるのは数値ではなく、それが何の単位かという但し書きのほう——というのが、この号の読み筋です。
02誰が測ったかを、条件から外している。英国で2016年のメタ分析は、同じ種類のプログラム89件の研究を、試験の段階・開発者の評価への関わり(主導・関与・独立)・生まれた国の中で実施されたか外かの3軸で層別しました。3軸の結論は原典の全文が未確認のため、層別の設計だけを置きます。「開発者が関わっていたら割り引く」という操作は支持しません。かわりに確かめられるのは、成果を測った尺度が、その介入のために作られたものかどうかです。
039年生51人・55人の結果を、大人の手順にしている。米国で2011年の研究は、実験室2件が20人と47人、教室での無作為化実験2件が9年生51人と55人。重要な試験の直前に10分間、その試験への考えや気持ちを書き出させ、書かない群と比べました。試験不安が習慣的に高い層で、書いた群は標準的な評定でB+、書かなかった群はB−、期末試験では書いた群が6%上回った。不安が高い層に絞った結果で、そうでない人に同じ差が出るとは示していません。対象は米国の9年生。その教室実験が、そのあと手順として広く紹介されました。この号では勧めません。

三つを並べると、順番が見えます。まず効果量が計算される(0.27)。次に、伝わりやすくするためにパーセンタイルへ言い換えられる(11)。次に「タイル」が落ちてパーセントになる。最後に、213件のうち35件が測ったという但し書きが落ちる。残るのは「11%上がる」という一文です。逆向きには、まず動きません。
だから確かめられるのは、大きさではなく単位のほうです——パーセンタイルなのか、パーセントなのか、効果量なのか。この群の最初の号049「成長マインドセット」で争われたのも、平均の取り方のほうでした。0.27と11と6%は別の物差しの上にあり、並べて大小は決められません。ここまでの数字はどれも、対象が学校に通う児童・生徒に偏り、実験室の課題と実際の試験は別物で、効果は短い期間で測られたものです。
同じ結果を、0.27とも11とも書ける。
パーセンタイルは、順位の位置である。
測られたのは学校で行われた介入の平均であって、あなたの明日ではありません。次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1998年の総説が置いた5つの地点のうち、反応が立ち上がる前の側なら机の上の話として扱える、という読みからの入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日、取りかかるのを遅らせた場面を1件だけ選ぶ。何時ごろで、そのとき何をしていたかを1行。
- 02SWAP
取りかかる代わりに何をしたかを、もう1行。良し悪しの評価は書かない。
- 03NAME
そのとき避けていた感じを1語だけ。面倒、退屈、気まずい、分からない。当てはまる語がなければ「不明」でよい。
0.27には、教材として不便な性質があります。小さく見える。パーセンタイルに置き換えれば11になり、置き換えただけで話が大きくなる。皮肉なのは、この一連のどこにも、嘘だと指させる段が無いことです。
——嘘をつかずに数字を大きくする方法が、この分野にはいくつもある。この号が渡せるのは、「11パーセンタイル上昇」の一文に、それが何の単位で、何件のうち何件が測ったものかを聞き返せる状態です。今日書けるのは、遅らせた場面が1件と、避けていた感じの1語。それだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS感情調整を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。

