IN STUDIES · ISSUE 060

(仮ビジュアル)暗い石の台の上に、洋梨とさくらんぼとオーツ麦を盛った器、半分に切った洋梨、水の入ったグラス、麻の布が並んでいる朝食の静物● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「勉強にご褒美を付けるのはやめたほうがいい」。根拠として引かれるのは、報酬と内発的動機を扱った実験の山です。ところが同じ雑誌の上で、正反対の結論が二度出ています。1994年に96件の実験研究を集めたメタ分析は、報酬は内発的動機を下げないと結論しました。2001年に同じ雑誌へ出た128件の集め直しは、渡し方によっては下がると報告し、その同じ号に、批判された側からの再反論が載っています。

この号が扱うのは、ご褒美の是非ではありません。それが決着したものとして引かれていることのほうです。やる気の出し方も、続けるコツも配りません。見るのは一点だけ——おおむね同じ実験の山を、どこで仕切って平均するか。その一点で、報告された結論の向きが変わりました。

内発的動機(Intrinsic Motivation)は、2000年の論文で、切り離せる結果のためではなく、その活動そのものに備わる満足のために行うことと定義されています。同じ論文には、学校では、学年が上がるごとに内発的動機が弱まっていくように見えるという観察も書かれています。ただしこれは観察であって、その変化が何によって起きているかを特定した記述ではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で外の街明かりを見ている女性。ガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
定義されたのは、切り離せる結果ではなく、活動そのものに備わる満足のほう。 Visual: ALIFE

では、その内発的動機は、ご褒美で壊れるのか。報告は30年かけて二度ひっくり返り、いまも同じ場所に置かれたままです。まず測られたのは、この3本です。

0196件のメタ分析は、下げないと結論した。1994年、96件の実験研究を集めたメタ分析が出ました。結論は、報酬は内発的動機を下げない、ただし交互作用は検討する必要がある。あわせて5件の研究から、強化も内発的動機を損なうとは認められないとしています。統合値は統合値であって、96件の個々の結果が一様だったという意味ではありません。

02128件の集め直しでは、渡し方で向きが違った。2001年、同じ雑誌に128件の集め直しが出ます。自由に選べる場面での効果量は、取り組んだことに渡す報酬で d=−0.40(k=55)、終えたことに d=−0.44(k=19)、出来ばえに応じて d=−0.28。言葉による評価は逆を向き、行動 +0.33、自己申告の興味 +0.31。件数が示されたのは前の2区分だけ、128件は4区分の合計でもありません。多くは北米の学生と児童・生徒の短い実験室課題で、働きながら学ぶ大人はごく少ない範囲です。

03同じ号で往復して、そこで止まっている。1996年、同じ雑誌に1994年のメタ分析への批判が載ります。結論は単純すぎて理論的にも実務的にもほとんど価値が無く、メタ分析の手続きの誤用から生じている、と。2001年の再検討と同じ号には、批判された側の再反論——理論に従って並べたから異なる手続きがまとめられたのであり、実際の手続きで並べ直せば負の効果は特定の状況に限られる、と(全文は確認できておらず、報告の帰属にとどめます)。どちらも取り下げていません。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
96件・128件・同じ号での往復。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。

01片側だけを、決着として引いている。「ご褒美は逆効果だと証明されている」も、「報酬の害は否定された」も、同じ雑誌に載っている半分です。1994年のあとしばらくは後者が、2001年のあとは前者が引かれました。同じ号のもう一方は、ほとんど一緒には引かれません。引用の途中で落ちるのは数値ではなく、論争が終わっていないという事実のほうです。

02「報酬」を、一つの塊として扱っている。2001年の側は、あらゆる種類の報酬をまとめて集計することは、ある意味で無意味な作業であると書いています。同じ集計で、取り組んだことに渡す報酬は d=−0.40、言葉による評価は +0.33 と向きが逆。一つの塊にした時点で、この差は平均に飲まれます。同じ側は、1994年の集計が退屈な課題と面白い課題をまとめ、その問題に触れてすらいないとも指摘します。ただし、その区分が正しいと確かめられたわけではありません。

03就学前の子どもの結果を、大人へ広げている。論争の起点は1973年の野外実験です。就学前の子どもを対象に、賞をもらえると予告された条件、予告なしに賞をもらった条件、賞のない条件を比べ、予告された条件でだけ、そのあとの自由な時間の関心が他の2条件より低かったと報告されました。予告なしにもらった条件では、その低下は報告されていません。これは子どもの研究で、大人でも同じことが起きるかは別に確かめる必要があります。

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵
片側だけを引く・一つの塊にする・子どもの結果を広げる。ずれは、読み方のほうに出る。 Visual: ALIFE

三つを並べると、この号が言えることの形が見えます。両者は、おおむね同じ実験の山を見ています。互いに向けた批判も、どちらも集計の切り方という一点に向かっています。

どちらも、相手がまとめすぎだと責めています。どちらが正しいかは、この号では裁定しません。材料が足りないからです。なお、ここで挙げた4本のあとにも研究は積まれており、この4本が論争のすべてではありません。

争われたのは、数値の計算ではなく、
研究をどこで仕切るかだった。

報酬の話の陰で、別のものも測られています。2014年の研究は、メタ分析1本と、カナダ2本・スウェーデン1本の縦断研究を並べました。高校生と大学生を対象に、開始時点の成績を統制して1年間追いかけると、一貫して成績と正に結びついた動機の型は内発的動機だけでした。これは観察された関連であって、内発的動機が成績を押し上げたと示したものではありません。

動機の型は、意志で選べる持ち物でもありません。読み取れるのは、測るなら報酬の有無より、活動そのものへの関心のほうが、時間をまたいで残った指標だった、という一点です。だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。外側の理由を無くせという話でもありません。締切も点数も、多くは自分では外せない。それを一度数えておく——という読みから、ALIFEが提案する実践の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    いま続けている学びを1つだけ、1行で書く。語学でも、仕事のための読書でもよい。

  2. 02LIST

    そこにぶら下がっている外側の理由を短く並べる。締切、点数、払った費用、人に言ったこと。

  3. 03IMAGINE

    明日その評価も報酬もいっさい無くなったとして、続けるかどうかを1行で書く。

4分。採点はありません。「続けない」と書いてもかまいません。それは意志の弱さではなく、いまの理由がどこにぶら下がっているかの記述です。**外側の理由を減らす必要も、いま何かを変える必要もありません。**学校に通っていない場合は、仕事のための学び直しに置き換えてかまいません。書いた紙は人の目に触れない場所へ。頭の中だけでも成立します。つらくなったらそこで中止し、つらさが続く・強まる場合は、この課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

内発的動機は、正しいやる気の形につけられた名前ではありません。1973年の就学前の子どもの実験から、1994年の96件、1996年の批判、2001年の128件と同じ号の再反論まで——30年かけて、論争は同じ雑誌の上を二度まわりました。そのつど流通したのは片側で、もう一方はほとんど一緒には引かれていません。

この号が渡せるのは、ご褒美を付けるべきかの答えではなく、「証明されている」と言われたときに、どちらの半分の話かを聞き返せる状態です。——今日書けるのは統合値ではありません。いま続けている学びが1つと、評価も報酬も無くなった場合の1行。それだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS内発的動機を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
効果量 d・g
2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
観察研究・前向き研究
介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。