IN STUDIES · ISSUE 058

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「図にまとめると理解が深まる」。学習法の助言で、これほど手早く配られてきた一文はそう多くありません。根拠のひとつは特定できます。2006年に出た、概念地図の効果を集めたメタ分析です。55件の研究・5,818人から67の効果量を取り出し、全体の平均は g=0.604(95%信頼区間 0.550〜0.658)。

ところが同じ論文の表を、何と比べたかで分け直すと、値は 0.742 から 0.194 まで開きます。この号が見るのはそこだけで、ノートの取り方もアプリの選び方も書きません。同じ道具の効果量が、隣に何を置いたかでどこまで動くのか。並べる数字は、おもに北米の大学生と児童・生徒を対象に、1週間から数週間で測られたもの。働きながら学ぶ大人の研究はごく少ないことを、先に断っておきます。

知識の構造化(Knowledge Structure)は、おもに概念地図(concept map)という形で測られてきました。丸で囲んだ言葉を線でつなぎ、線の上に関係を書き込む書き方です。注意がいるのは、効果量が地図そのものの得点ではないこと。差の大きさなので、必ず「地図の条件」と「別の条件」の引き算として出ます。引く相手を替えれば、同じ地図の値が替わります。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
測られているのは、図そのものではなく、図と何かの差。 Visual: ALIFE

この系統には前史があります。読む前に枠組みだけを渡すやり方を扱った1980年のメタ分析は、135件の研究を集め、小さいながら促進的な効果が認められたと結論しました——大きい、とは書かれていません。丸と線を自分の手で描く形式は、1972年に始まった研究計画から生まれたと提唱者自身の技術報告にあります。効果の検証ではなく、誰が何を提案したかの記録です。

01全体は0.604。分け直すと、4倍ひらいた。2006年のメタ分析は、55件の研究・5,818人から67の効果量を取り出し、全体の平均は g=0.604(95%信頼区間 0.550〜0.658)。比べた相手で分け直すと、作る対講義や討論が 0.742(k=10)、読む対文章が 0.388(k=29)、読む対アウトラインやリストが 0.278(k=10)、作る対同じだけ手を動かす作業(文章やアウトライン作り)が 0.194(k=7)。上と下で、およそ4倍。論文自身も、手が空きやすい教え方と比べれば有利だが、ほかの手を動かす作業と比べればわずかな優位だと述べます。統合値は統合値で、個々の研究が一様という意味ではありません。

0212年後に集め直しても、全体はほぼ同じ位置だった。2018年の集め直しは、142の独立した効果量・11,814人で全体を g=0.58。2006年の 0.604 と近い位置です。内訳は作る条件 0.72、できあがった地図を読む条件 0.43。2006年でも作る条件の全体は 0.819(k=27)、読む条件の全体は 0.373(k=40)。作るほうが読むより大きいという向きは12年を隔てて共通しますが、値そのものは一致しません。対象はどちらもおもに北米の大学生と児童・生徒。理数系とそれ以外のどちらの領域でも効果が認められた、と2018年の側は述べます。

03図を「比べられる側」に置いた実験では、下だった。2011年の実験は、同じ理科の文章を、1回読む・繰り返し読む・概念地図を描く・閉じて思い出して書き出すの4条件で学ばせました。対象は米国の大学生で、実験1が80人、実験2が120人。1週間後の試験は、思い出して書き出した条件が 0.67、概念地図を描いた条件が 0.45。最終試験を地図を描く形式に替えても、順位は変わりません。ひとつの実験室研究、ひとつの材料、1週間というひとつの間隔での結果です。地図に意味がないと示したのではなく、この比較の置き方では下だった、ということです。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
55件・5,818人/142効果量・11,814人/米国の大学生120人。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。

01効果量を、道具の性能表として読んでいる。0.742 も 0.194 も、同じ概念地図について測られた値です。違うのは隣に置いたもののほうで、描いた図は1ミリも変わっていません。「概念地図の効果量は0.7」という引き方は、比べた相手を落としたときにだけ成立します。2018年の 0.58 も、作る条件と読む条件を丸めた数字です。数字を引くときは、隣に何が置かれていたかまで一緒に引く。

02整った見た目を、理解の証拠として読んでいる。描いた地図は手元に残り、残ったものはたいてい整って見えます。2011年の実験2では、参加者120人のうち90人——4分の3が、概念地図のほうが同等かそれ以上に効くと予想していました。実際の1週間後の成績は 0.45 と 0.67 で、多数派の予想と順位が逆です。整って見えることと、1週間後に取り出せることは、別の性質です。もっとも、これは米国の大学生120人の予想で、ここから一般則は作れません。

03論争を、決着したものとして読んでいる。同じ雑誌の同じ年に、11人の研究者による反論が載りました。骨子は、この技法の習得には10週から15週の反復と助言が要るため、指導も助言も無いまま実験室で描かれたものを技法として評価できない、という主張です(反論の原典は全文まで読めていないため、応答が引く範囲にとどめます)。応答が引いたのは、批判した側自身の刊行物です——この技法は教えやすく、比較的短い期間で、50分の1コマで学べると書かれている。10週から15週が必要だという裏づけのデータは示されていない、と。どちらが正しいかは、この号では裁定しません。争点は、どんな作らせ方をすれば比較として成立するかへ移っています。

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵
性能表として読む・整いを理解と読む・決着したと読む。ずれは、読み方のほうに出る。 Visual: ALIFE

三つを並べると、言えることの形が見えます。同じ概念地図の効果量は、講義や討論の横に置けば 0.742(k=10)、同じだけ手を動かす作業の横に置けば 0.194(k=7)。12年後の集め直しでも全体は 0.58 で、2006年の 0.604 と近い位置。地図を比べられる側に置いた米国の大学生の実験では、1週間後に 0.45 と 0.67 で下。動いているのは道具ではなく、隣に置いたもののほうです。

争われたのも地図の性能ではなく、どんな作らせ方なら比較として成立するかでした。ここまでの研究の対象は、ほとんどが北米の大学生と学校に通う児童・生徒。測定はおおむね1週間から数週間で、数か月後まで追ったものはその一部です。こうした比較で見えた差は、もともと学ぶ余裕のある人ほどその学習法を試せる、という逆向きを排除できません。

0.742 と 0.194 は、同じ図の値。
動いたのは、隣に置いたほうです。

だから、描いた図が整わなかった日を失敗として数える必要はありません。次の3手も研究が命じた順番ではなく、線そのものより線の上の言葉のほうが確かめられる、という読みからALIFEが提案する実践の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    いま学んでいる分野の言葉を、5つだけ書き出す。仕事で使う用語でもよい。

  2. 02LINK

    関係があると思う組み合わせを線で結び、線の上に関係を1語だけ書き添える。

  3. 03COUNT

    引けた線の本数を数えて記録する。0本なら「0」と書けば完了。

5分。**採点はありません。**最大は10本。多いほどよい課題ではありません。0本は失敗ではなく、その5語がまだ並んでいないという情報です。図の見た目も語の選び方も評価しません。誰にも見せず、書き直しも要りません。書いた紙は人の目に触れない場所へ。頭の中だけでも成立します。つらくなったら中止を。つらさが続く・強まる場合は、この課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

知識の構造化は、整った図を作る技術の話ではありません。「図にすると深まる」が、何と比べて出た数字なのかを見分ける話です。55件・5,818人の統合値は 0.604 でしたが、講義や討論と比べれば 0.742、同じだけ手を動かす作業と比べれば 0.194。比べ方が値を動かすと示したのは2006年の表の分け直し(k=10 と k=7)、142の効果量・11,814人の集め直しが重ねたのは作る 0.72 と読む 0.43 の差です。——今日数えられるのは統合値ではありません。5つの言葉のあいだに引けた線が、何本か。その数だけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS知識の構造化を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
効果量 d・g
2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。