IN STUDIES · ISSUE 057
● 12 SEC「メタ認知への働きかけは効果量 d=0.69」。学習の設計資料でも研修のスライドでも、よく配られてきた一文です。典拠は2009年に出た一般向けの書籍で、査読論文ではありません。並ぶ効果量は個々の実験からではなく、すでに公表されたメタ分析をさらに合成した値。その合成は、書籍の説明で800を超えるメタ分析・5万を超える研究にまたがります。この値を名指しで報告した査読論文には、この号の調べではたどり着けませんでした。
この号が扱うのは二つ。自分がどこまで分かっているかを自分がどう見誤るのかと、その見えなさを直す根拠の数字が、どこを通ってきたのか。勉強法の正解表は配りません。いま学校に通っていない人も、読者から外れません。
メタ認知(Metacognition)という呼び名を与えたのは、1979年の論文です。この働きを4つの区分——メタ認知的知識、メタ認知的経験(分かった・詰まったという手触り)、目標や課題、行為や方略——の相互作用として整理しました。名前が付いたのはこの4つの関係であって、伸ばし方ではありません。同じ論文は、わざと欠落や不明瞭さを混ぜた説明文に、年少の対象者が驚くほど気づかなかった、という観察も挙げています。

では、その見えにくさは、どこまで測られているのか。
015分後の順位は、1週間後に入れ替わった。2006年の実験は、読む回数と思い出す回数の配分を変えて保持を比べます。米国の大学生180人の実験2では、4回とも読んだ群・3回読んで1回思い出した群・1回読んで3回思い出した群の再生率が、5分後 83%・78%・71%。ところが1週間後は 40%・56%・61% と、順位が完全に入れ替わります。米国の大学生120人の実験1でも、読み返し対想起は5分後 81% 対 75%、2日後 54% 対 68%、1週間後 42% 対 56%。測ったのは文章の再生率で、最長1週間まで。教室の成績や仕事の成果ではありません。
02予想が実際を上回ったのは、限られた組でだけ。2005年の研究は語の組を見せ、あとでどれくらい思い出せるかを答えが目の前にある状態で予想させました。24人の実験1は、予想の平均 61.09 に対して実際の再生 58.07 とほぼ一致。上回ったのは、手がかりから答えが出てこない無関連の組に限られます(t(23) = 2.59)。20人の実験2でも、逆向きにした組は 75.7 対 60.3(t(19) = 4.09)、無関連の組は 37.32 対 24.28(t(19) = 3.48)、順方向の組は 78.1 対 78.8 とほぼ一致。答えが自然に出てこない組でだけ、予想が実際を上回るという条件つきの結果です。参加者は24人・20人・16人と小さく、材料は語の組です。
03査読誌の側には、0.71 と 0.45 が別々に載っている。合成される前の材料は、査読誌の側にあります。1988年に公表された読解についての統合は、平均効果量 0.71(原典の全文は未確認のため報告の帰属にとどめ、件数や人数の内訳は扱いません)。この値は1996年のメタ分析の表にも .710 として引かれます。その1996年は、学習技能への働きかけを51件の研究・270の効果量で集計し、重みづけ平均 0.45。内訳は成績 0.57・情意面 0.48 に対し、学習技能そのものは 0.16〜0.17(集計表では 0.16、別の表では 0.17 と、原典の中で二通り)。0.71 も 0.45 も実在しますが、測っている対象が違います。どちらも統合値で、個々の研究結果が一様だという意味ではありません。

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。
01手応えを、唯一の計器にしている。2013年のレビューは、10の学習法を有用性の高低で格付けしました。高いのは2つだけ——自分に問題を出して思い出す練習と、間隔をあけて分散させる学習。中程度が3つ、低いのが5つで、要約・ハイライト・語呂合わせ・文章の心像化、そして再読が入ります。低い5つに共通するのは、やっている最中の手応えが良いこと。再読は滑らかになり、ハイライトはページが整い、どちらも上達したという信号を返します。ただしこれは有用性の高低であって、やめるべき方法の一覧ではありません。
02合成値を、一つの数字として受け取っている。2017年の論文は、先の書籍の合成の手続きを統計の側から検討します。指摘は4点。成績に影響する要因という母集団と、その要因を扱った研究という母集団の混同。性質の違うものを一つの平均にまとめる操作が意味を失うこと——頭をオーブンに、足を冷凍庫に入れれば平均は快適だ、という比喩です。言い換えの指標の計算に誤りがあり、負の確率や100%超が出る箇所。そして0.40 を境目として望ましい効果の領域と呼ぶ区切りに、根拠が示されていないこと。検討したのは合成の手続きで、0.69 を名指しで再計算したものではありません。方法論の議論なので、どちらか一方を最終判定とはしません。
03気づけていないことには、気づけない。1979年の論文が挙げた、欠落に気づかなかったという観察は、そのままこの号の入口にあたります。欠落は、気づかれないから欠落のままです。参加者はほとんどが米国の大学生と、学校に通う児童・生徒です。測られた期間も短く、多くは1週間後まで。働きながら学んでいる大人を対象にした研究は、ごく少ないままです。見えた関連には、もともと学ぶ余裕のある人ほど、その学習法を試せる、という逆向きの説明も残ります。

三つを並べると、形が見えます。手応えは資料が開いている状態で測られ、試験も、人に説明する場面も、資料は閉じた状態で来ます。順位が入れ替わった実験では、最後の学習の直後に答えた1週間後の自己予想が、7点尺度で 4.8・4.2・4.0——いちばん残らなかったやり方に、いちばん高い自信が付いていました。配られている 0.69 は合成値。査読誌の側の 0.71 と 0.45 は、別々の対象について測られた値です。桁が近いことは、同じものを測った証拠になりません。
手応えは、資料が開いている状態で測られる。
0.71 も 0.45 も実在する。ただし、対象が違う。
手応えが良かった日を失敗として数える必要はありません。3本が支持したのは、手応えを捨てることでも、自分を格付けすることでもない。次の3手も研究が命じた順番ではなく、閉じた状態で測る目盛りを1本足す、という読みからALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01CLOSE
いま「分かっている」と思う内容を1つ選び、資料をすべて閉じる。
- 02WRITE
閉じたまま、その内容を3行だけ書く。うまく書けなくてかまわない。
- 03CHECK
資料を開いて突き合わせ、食い違ったところに印を付ける。
メタ認知は勉強法の正解表ではなく、自分の理解度がどう見えているかと、渡された数字がどこから来たかを見分ける話です。皮肉なのは、手応えは当てにならないと教える資料のほうが、手応えのよい数字ひとつで配られてきたことでした。0.69 の典拠は一般向けの書籍。査読誌の側にあったのは、対象の違う 0.71 と 0.45 です。——今日測れるのは統合値ではなく、資料を閉じて書けた三行と、開いて付けた印の数だけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSメタ認知を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
