IN STUDIES · ISSUE 051
● 12 SEC自分は目で見たほうが覚えられる。自分は耳で聞いたほうが入る——この自己診断は、たいてい疑われないまま使われます。疑うのが面倒だからではなく、それを確かめる実験の形が、思ったより厳しいからです。2018年、六つのデータベースを横断して1,215件を走査した報告があります。その形を満たす方法を用いていた研究は、10件でした。
この号が扱うのは自己調整。ただし、意志の強さの話は書きません。やり方を選び、途中で確かめ、選び直すという手続きのほうだけを見ます。学業群の3号目。学校に通っていない人は、仕事の資料を読むときのやり方に置き換えて読めます。
自己調整(Self-Regulation)とは、目標を決め、やり方を選び、やりながら確かめ、合っていなければ替えるという一続きの手続きです。2017年のレビューは、自己調整学習の六つの主要なモデルを並べ、どれも「見通し・監視・振り返り」の循環を共有していると整理しました。同じレビューは、その効果が学習者の発達段階や教育段階によって違うとも述べています。六つに共通していたのは循環のほうで、学習者を型に分ける診断ではありません。

問題は、この循環の「やり方を決める」ところです。そこでいちばん広く使われている基準が、視覚型・聴覚型・体感型といった学習スタイルの分類だからです。では、その分類は何をもって確かめられるのか。
01条件を決めたのは、2008年のレビュー。米国で2008年に出たレビューが、検証に必要な設計を四つの条件として定義しました。①診断された型ごとに群に分ける ②各群の中で無作為に割り付け、複数の提示形式のどれかを受けさせる ③全員に同じ試験を受けさせる ④ある型に最良だった形式が別の型には最良でないという交差が現れる。「視覚型は図で成績が上がった」だけでは足りません——図が誰にでも同じように働いている可能性が残るからです。このレビューは、条件を満たしうるものは1件だけ見つかったと書き、学習スタイル評価を一般的な教育実践に組み込む十分な証拠はないと結論しました。適切な方法を用いた研究の複数は、仮説と反対の結果を出していたとも報告しています。
021,215件から10件。集計は0の近くだった。2018年のミニレビューは、六つのデータベースを横断して1,215件を走査し、上の条件を満たす方法を用いた研究として10件を特定しました。集計した効果量は、視覚型への一致で g = −0.09(95%信頼区間 −0.74〜0.58)、聴覚型への一致で g = −0.27(同 −0.87〜0.32)。どちらも小さく、信頼区間が0をまたぐため明確な差とは言えません。符号は理論の予測と逆ですが、同じ理由で「逆向きの効果があった」とも読めません。
03完全に沿った1件でも、有意な関係は出なかった。同じレビューは、四つの条件に完全に沿っていた研究は1件だけだと書いています。米国で2015年に出たその研究は、成人の学習スタイルを測り、音声の本か画面上の文章へ無作為に割り付け、全員に同じ理解度の試験を受けさせました。結果は、選好と提示形式のあいだに統計的に有意な関係は認められず、仮説は支持されませんでした。1件の実験で有意でなかったことは、「差が無いと確かめられた」ことと同じではありません。

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。
01「少し良い」を、「型に合わせるべきだ」と読む。まったく何も出ないわけではありません。2024年に集め方を広げたメタ分析(21件・101効果量・1,712人)では、提示形式を型に合わせた条件のほうが成績がよく、g = 0.31(95%信頼区間 0.05〜0.57)。ここは0をまたがず、明確な差です。ところが同じ論文は、交差が確認できたのは結果指標の26%だけだったと書いています(本体の集計に入れられなかった12件を別に点検しても25%)。交差が出ないなら、型に関係なく同じ形式が効いているという読みと区別できません。著者たち自身の結論は、実施の時間と費用に対して効果は小さすぎ、頻度が低すぎるでした。
02助言どおりに勉強したかを、確かめない。2019年の調査は、解剖学を履修した426人で、診断結果と実際の勉強のしかたを突き合わせました。多くの学生は自分の診断に合った勉強を報告しておらず、合わせていたかどうかは成績と相関しませんでした。一方で、診断とは無関係に、画面上の顕微鏡を使うといった特定の勉強のしかたは最終成績と正の相関を示しています。1つの科目の観察研究の相関で、勉強のしかたを変えた結果を見たものではありません。
03信じている人の割合を、証拠として数える。2020年の系統的レビューは、18か国・1万5,405人の教育者を対象にした37件の調査を集計しました。提示形式を学習スタイルに合わせるべきだと答えた割合は、加重して89.1%(国や職種によって58〜97.6%)。同じレビューは、この説の根拠を説明する介入で、信じていると答える割合が平均で約37%下がったとも報告しています。信じている人の割合は、証拠の量ではありません。集計されたのは自己報告の調査で、教室でどう教えられたかを観察したものではありません。

ここまでの数字は、ほぼすべて欧米の大学生と、学校に通う児童・生徒を対象に採られています。働きながら学んでいる大人を対象にした研究はごく少なく、読めた範囲に、日本の社会人を対象にした追試はありませんでした。実験室の課題と実際の試験は別物で、効果は短い期間で測られたものが多く、測定の多くは自己報告です。もともと学ぶ余裕のある人ほどその学習法を試せる、という逆向きの説明も排除できません。
出てくるのは、「合わせると少し良い」。
出にくいのは、型ごとの入れ替わり。
型の見立てが当たっているかを、自分で判定する必要はありません。判定できる設計が、そもそも10件しか見つかっていないからです。次の3手も、研究が命じた順番ではありません。型の診断を目標から外した側から、ALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日の勉強や作業で実際に使ったやり方を、1つだけ書き出す。
- 02MARK
選んだ理由が「効果を確かめたから」か「やりやすかったから」かに印を付ける。
- 03HOLD
どちらでもないなら「まだ言葉になっていない」に印を。やり方は今日は変えない。
固定できるのは、型ではなく手続きのほうです。六つのモデルが共通して持っていたのは、見通し・監視・振り返りの循環でした。「どの形式で学ぶか」より「途中で確かめて替えたか」のほうが、記録に残せます。妨げになりやすいのは、やり方を選んだ理由を思い出せないことだ——というのがこの号の読み筋です。やりやすさは、理解の手応えとよく似ていて、しかも理解ではありません。今日数えられるのは統合値ではなく、やり方を1つ書けたか、その理由に印を付けられたかです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS自己調整を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 系統的レビュー
- あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

