IN STUDIES · ISSUE 050
● 12 SEC「自信を持って」という助言の困ったところは、一見それが正しく見えることです。欧米の大学生を並べて比べれば、できそうだと思っている人ほど成績はよい傾向が報告されています。ところが同じ一人を時間の中で追うと、向きのほうが変わる。米国・2001年の研究では、学生56人の見込みと成績は、人を並べると正、同じ人の中の変動だけを取り出すと負に反転していました。
この号が扱うのは一つだけです。自己効力感(Self-Efficacy)という言葉に貼りついている数字が、どこまで測られてきたのか。自信のつけ方も、やる気の出し方も配りません。学業群16号の2号目です。
自己効力感(Self-Efficacy)とは、自分をどれだけ好きかではなく、目の前の課題を遂行できるという見込みのことです。だから研究が尋ねるのは「私は数学が得意だ」ではなく、「この形式の問題を、制限時間内に何割解けると思うか」。予想の話であって、評価の話ではありません。測定はどれも自己申告の質問紙で、頭の中や勉強のしかたを直接観察したものではありません。

その見込みが、どこまで測られてきたのか。まず測られたのは、この3本です。
0135年以上前の36件が、出どころ。学習の資料には、よくこの一文が載ります。「自己効力感が学業成績のメタ分析で r ≈ .38」。出どころは米国・1991年の集計で、1977年から1988年に公表された36件を束ねた値。説明できる分散はおよそ14%とも書かれています。関連が最大だったのは、具体的な課題の見込みと基礎技能の成績を同時点で測ったとき。1980年代までの36件を当時の測り方で束ねた値であって、学業成績一般の数字ではありません。
02同じラベルで、値は二倍近く違った。英国・2012年のメタ分析は、大学の成績を予測する要因を242のデータ群・1,105の相関で集計し、自己効力感を二つに分けました。「この試験で何点取れると思うか」にあたる見込みは r=.59(95%信頼区間 .49〜.67)。ただし支えるデータ群は4〜5件だけです。「自分は勉強がうまくやれる」にあたる一般的な見込みは r=.31(.28〜.34)で、こちらは多数の研究が支えます。比較値は、高校までの成績 .40、米国の大学入学試験 ACT .40、SAT .29。
03同じ人の中では、向きが変わった。米国・2001年の研究は、学生56人に同じ課題を繰り返させ、毎回、次の試行への自信を尋ねます。人と人を並べると r=.55 と正、同じ人の中の変動だけを取り出すと係数は負に反転。第2の研究(185人)も同じ向き。同じ人を繰り返し測った研究を集めた2013年の集計でも、補正した個人内相関 ρ=.23 が、成績の伸びの軌跡を統制すると ρ=.06 まで弱まり、有意でなくなります。ただし集めたのは学業に限らない一般の課題遂行です。

ここから先で、数字はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。
01一つの数字を、確定値として配っている。同じ「自己効力感」でも、値は測り方で動きます。自己効力感そのものの相関は、尋ね方で .31 と .59(2012年の集計)。一方の .08 は、対象を「自己に関する信念」全般へ広げ、初期の成績を統制した別のメタ分析(2004年)の標準化係数です。中身も統計量も違うので、同じ物差しには載りません。ところが資料に載るのは、たいてい .38 の一つだけ。確定した定数のように読める書き方が、いちばん無理をしています。
02統制を入れる前の数字で、話している。米国・2004年のメタ分析は、時間差のあるデータだけを集め、最初の時点の成績を統制したうえで、自己に関する信念が後の成績を予測する標準化係数の平均を .08 と報告しました。同じ論文は、領域を限定して測った信念ではこれより強い関連が見られたとも書いています(限定した測り方に限った結果で、信念全般へは広げられません)。.38 と .08 のあいだにあるのは、統制変数を一つ足したかどうかです。
03批判か擁護か、どちらかに決めている。2015年、この概念の提唱者本人が査読誌上で反論しました。個人内の集計に使われた研究の多くが定義どおりに見込みを測っていないこと、成績課題の三分の二以上が実験室の浅い課題だったこと。指摘には理由があります——尋ね方で値は .31 と .59 に割れていました。ただし同じ理屈は、批判側にも働きます。二倍動く指標を「r ≈ .38」の一つにまとめることも、同じくらい無理です。どちらか一方は確定できません。

よく引かれる r ≈ .38 は、1980年代までの36件を当時の測り方で束ねた値。2012年の集計では、同じラベルの下で試験の得点予想なら .59(支えるデータ群は4〜5件)、一般的な見込みなら .31 に割れた。個人内で見ると、2001年の研究では係数が負に反転し、2013年の集計では軌跡を統制すると .06 になって、明確な関連とは言えなくなった。測り方が厳しくなるたびに、値は小さくなっています。
それでも資料に載り続けるのは、いちばん緩い測り方で出た、いちばん大きい数字のほうです。6点のうち2点は要旨までしか読めていません——r=.38と14%、r=.55 はその2点の値で、報告の帰属にとどめます。どれも観察データの統合で、見込みを高めた結果を見たものではありません。対象は欧米の大学生と児童・生徒に偏り、働きながら学ぶ大人の研究はごく少なく、読めた範囲に、日本の社会人を対象にした追試はありません。
人と人を並べると、見込みと成績は結びついた。
同じ人の中では向きが変わった——学生56人の反復課題での話。
見込みは、一回の出来で簡単に上がります。上がったところで手が止まれば、次の回で下がる。助けになるのは、尋ねる粒を細かくすることです——「この資格に受かりそうか」ではなく、「この1問を10分で解けそうか」。細かくすれば、外れたことがその日のうちに分かります。次の3手も、研究が命じた順番ではありません。見込みそのものを目標から外した側から、ALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近1週間で「できそうにない」と感じて着手を遅らせた作業を、1件だけ書き出す。
- 02TOUCH
その作業に10分だけ触る。解き切らなくても、終わらせなくてもよい。
- 03WRITE
着手する前には分からなかったことを、1行だけ書く。
見込みは、短い時間で見ると驚くほどよく動きます。上がった日と下がった日を記録しても、残るのは気分の折れ線です。この号を読んで変わることがあるとすれば、「r ≈ .38」のような数字を見たときに、いつの・誰を対象に・どう測った値なのかを、自分で聞き返せるようになったことでしょう。今夜数えられるのは統合値ではなく、10分触ったかどうかと、そこで分かったことの1行です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS自己効力感を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

