IN FAMILY · ISSUE 046
● 12 SEC「ここ、暑くなってきたね」。窓を開けてほしいのか、ただの感想なのか。2011年に報告された実験では、平均14.4年連れ添った24組の夫婦に、曖昧な一言の意図を当ててもらいました。聞き取りの正確さは、初対面の相手と組んだときと明確な差が出ませんでした。ただし、差がないと確かめられたわけではありません。高く出たのは、話し手の「配偶者になら伝わるはず」という見積もりのほうでした。
この号が扱うのは二つ。近い相手への聞き取りの精度と自信がどうずれるのか、そのずれを縮める側で何が測られてきたのか。心を読む力の総覧も、会話の技法も担当ではありません。家族の形は人それぞれです。ひとり暮らしの人、家族と離れて暮らす人、家族と距離を置いている人にも、そのまま読める範囲で書きます。
理解(Understanding)とは、家族が何を考え何を感じているかを、こちらがどれだけ正しく読めているかという側面のこと。気持ちの深さでも、思いやりの量でもありません。数えてきたのは、推測と実際の答えがどれだけ一致したかという一致率のほうです。

近い相手ほどよく読める、というのは自然な予想です。実験の側は、それを素直には支持していません。使える範囲は3つ。
01配偶者相手でも、差は出なかった。2011年の報告の第2実験。平均14.4年連れ添った24組の夫婦が曖昧な一言を伝え合い、聞き手が意図を当てます。正確さは初対面の相手と組んだ場合と明確な差が出ず、配偶者相手では「伝わるはず」という話し手の見積もりだけが高く出ました。差が出なかったことは、精度が同じだと確かめられたことを意味しません。精度より先に自信が上がる現象が「近さがつくるコミュニケーションの錯覚」です。
02友人相手のほうが、自分中心の誤りが多かった。同じ論文の第1実験。48人の指示役が96人の聞き手に、マス目に仕切られた箱の物を動かすよう指示します。箱には、指示役には見えず聞き手にしか見えない物が混ざる。相手が友人だと、聞き手はその物へ手を伸ばす誤りが増えました——初対面では15%、友人では24%。最初の解釈の訂正も遅い。測られたのは視線と手の動きまで。「親しい相手には確かめる手数が省かれる」と読むのは、この号の読み筋。
03想像を頑張っても、精度は上がらなかった。2018年の論文は、「相手の視点に立って考える」という教示の効果を25の実験で測りました。表情や嘘の読み取りの標準課題(実験1〜15)では教示された群のほうが不正確で、統合するとd=−0.26。配偶者やパートナーの好みを当てる課題(37種類の活動・21の意見文)でも改善なし。統合値は25実験が一様という意味ではありません。精度が上がったのは実験25、想像の代わりに本人と話して答えを得た条件でした。

この3つは、伝わる途中でよくねじれます。多いのは次の型。
01差が出なかったことを、同じだと言い換える。24組の実験で明確な差が出なかったことは、「夫婦の聞き取りは他人と同じ」という証明ではありません。小さな標本で差が検出されなかった、という結果です。逆向きに「やはり家族は特別だ」と読むこともできません。言えるのは、期待していたほどの差は見えなかったというところまでです。
02読心の実力に、点数をつけて安心する。会話中の相手の考えを推測させ、本人の記録と照合して採点する「共感的正確さ」の測定があります。1992年の報告では、初対面の男性同士より男友達同士が正確だったとされます。それでも読めた割合は自信に見合う高さではなかった、とも(ALIFEは原典本文を確認できていません。絶対値は使いません)。男子学生同士の会話課題という限られた場面の数字で、家庭に当てる目盛りではありません。
03察して先回りすることを、理解と呼ぶ。25の実験が示したのは、想像する側を強めても精度は上がらず、標準課題ではむしろ下がったこと。上がったのは、本人から答えを得た条件です。先回りについて測られているのは、確信が強まるところまでで、当たりやすくなるところまでではありません。標本は北米の実験参加者が中心で、家庭の会話をそのまま測った研究ではありません。

言葉にする側も、家庭で測られてきました。2001年の研究は、生後6ヶ月の子を持つ母子71組を観察し、母親が子の心の状態を言葉にするコメント——「眠くなったのかな」——の頻度と、12ヶ月時点の愛着の安定との関連を調べます。頻度が説明した分散は12.7%、従来の感受性の指標は6.5%。2002年の続報は母子57組の追跡で、6ヶ月時点の適切なコメントが45〜48ヶ月時点の心の理解の成績と結びつき、分散の11%を説明。いずれも英国の母子の観察・縦断研究で、増やせば安定すると示した介入試験ではありません。
もう一方は2000年の、スウェーデンの14歳703人とその親の調査。親が子の生活について知っていることの大部分は、監視や探りではなく子どもの自発的な開示と結びつきます。非行や警察沙汰と強く結びついたのも、監視の量ではなく開示の少なさです。限られた集団をある時点で調べた結果で、年齢や地域を超えて監視が無効だと示したものではありません。
夫婦と初対面のあいだに、明確な差は出なかった。
差がない、と確かめられたわけでもない。
並べると、言えることの形が見えます。近い相手への精度は期待したほど高く出ず、想像を強める方向では上がらず、本人に聞いた条件で上がった。家庭では、言葉にして差し出す側と話してもらえる側に記録が残る。当たることが目標ではなく、外れが見えることが目標——研究が示した結論ではなく、ALIFEが提案する記録の入口です。次の3手も、正しい聞き方の手本ではありません。
TRY IT TODAY
- 01GUESS
家族を1人選び、その人の「今日いちばん重かったこと」を、先に一行だけ書いて予測する。
- 02ASK
本人に同じことを聞く。「〜だと思うけど、どう」と、仮説の形で。
- 03CHECK
合っていた点と、外れていた点を、一行ずつ書き足す。
標本は北米・スウェーデン・英国に偏ります。夫婦の実験は24組、母子の観察は71組と57組。実験室の課題は日常の会話より人工的で、共感的正確さの点数は課題ごとに変わります。絶対値を家庭へ持ち込むより、期待したほどの差は出なかったという向きだけを持ち帰るほうが安全。それでも一つ残る。精度が上がったのは、想像を強めた側ではなく本人に聞いた側です。外れる前提で設計するとは、悲観ではなく答え合わせの回数を増やすことです。直し方は、のちの号で。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS理解を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。

