IN FAMILY · ISSUE 047
● 12 SEC母親と乳児が向かい合って遊ぶ数分を、表情・視線・発声が噛み合っているかでコマ単位に符号化した観察があります。1989年にトロニックとコーンが報告した、生後3・6・9ヶ月の各18組・計54組の記録。やりとりの時間の70%以上が、噛み合っていない状態でした。実験室での数分の話です。
038「応答」が扱ったのは、返さないことの側でした。この号はその続き——噛み合わなくなったあとのほうです。扱うのは二つ——直るまでの時間が何と一緒に測られたのか、子どもの前での対立は終わり方で反応が違ったのか。仲直りの正解も、直せない関係の採点も、この号の担当ではありません。相手に危険や恐怖を感じる関係の修復も、対象外です。いま家庭の中に暴力や恐怖があるなら——受けている側でも、してしまう側でも——この号より先に、地域の相談窓口・専門機関へ。
修復(Repair)とは、噛み合わなくなったやりとりを、次の一手で噛み合う状態へ戻すこと。トロニックが同じ1989年に発表した理論論文は、乳児と養育者を互いに情動を調整し合う系として描き、噛み合わないことを相互作用の誤り(interactive error)と呼びました。誤りは系の通常の範囲に含まれ、修復される経験の反復が「自分の働きかけでやりとりは立て直せる」感覚と、崩れたときの対処の型を育てる。実験ではなく、観察をまとめた理論の記述です。

仲直りの大切さは繰り返し語られます。その「直り」がどこまで数えられたのかは、あまり語られません。まず測られたのは、この3本です。
01母子54組では、噛み合わない時間のほうが長かった。この54組の対面で、噛み合っていない状態はやりとりの時間の70%以上。そこからの修復は3〜5秒に1回の頻度で起き続けました。6ヶ月児では、誤りのおよそ3分の1が次の一手で修復(1989年の論文が1986年の別報告から引く値)。実験室での数分の場面で、家庭の一日を測ったものではありません。
02直るまでの時間は、乳児46組で唾液と一緒に測られた。プロヴェンツィらの2015年の研究は、生後3〜4ヶ月の母子46組(不安障害のある母親19組・対照27組)で、母親が一時的に無表情になる手続きのあとのやりとりと、乳児の唾液コルチゾール(ストレスで上がるホルモン)反応性の関連を調べました。再会場面の修復は反応性と関連し(p<0.01)、遊び場面での修復までの時間の長さも回帰で独立に寄与。母親の診断の有無との関連は検出されず——診断で違いがないと確かめられたわけではありません。46組の小さな標本での関連で、速くすれば反応が下がると示した研究ではありません。
03実験では、終わり方によって子どもの反応が違った。カミングスらの1989年の実験は、大人同士の怒りを非言語の怒り・言葉の応酬・言葉と身体的攻撃の三形態と、解決されて終わるか、未解決のまま終わるかを変えて子どもに見せました。どの形態も負の出来事として知覚され、黙って怒る形も例外ではありません。そのうえで未解決のまま終わる怒りは、解決される怒りよりはるかに負に知覚され、より強い怒りと苦痛を引き起こしました。もっとも負だったのは言葉と身体的攻撃を伴う形態。家庭で大人同士の身体的攻撃を経験した子どもは、より強い苦痛を示しています。実験室でのその場の反応で、長期の影響を追ったものではありません。

これらの数字は、家の中へ持ち込まれるとき、同じ三つの場所でねじれます。
01ズレの回数を、点数にしている。70%以上は、噛み合わない時間がどれだけあったかの記述です。ズレの少ない家が良い家だ、という比較をした研究ではありません。数えられたのは、噛み合わない時間の割合と、そこから戻る頻度の二つだけ。
02「先に謝ったほうが負け」に、話を変えている。研究が記述したのは、修復が起きたかと、起きるまでにどれくらいかかったかまで。どちらが先に出すべきかを比べた実験ではありません。この号が「自分から出せる一手」を入口に置くのは、自分の側だけで動かせる変数がそこにある、という理由でALIFEが引いた線です。
03直らない関係を、本人の失敗として数えている。相手が応じないこと、応じない相手から離れる選択は、ここまでの数字が扱った範囲の外です。修復は義務ではありません。相手に危険や恐怖を感じる関係では、修復は課題ではなく安全が先です。暴力や恐怖のある関係は、この号の技術の話の外——地域の相談窓口・専門機関へ。

マッコイらの2009年の縦断研究は、5〜7歳の子どもがいる235家族を3時点で追跡し、夫婦間の葛藤を建設的なもの(問題解決に向かい、温かさを伴う)と破壊的なものに分けました。どちらも、子どもの情緒的な安心感という同じ経路を通って、後の向社会的行動——人を助け、分け合う行動——と結びついていた。建設的は正の、破壊的は負の経路。違ったのは向きです。片側だけを取り出して「対立は見せたほうがいい」とは読めません。割り付けのできない縦断の媒介モデルで、因果を示したものでもありません。
きょうだいの衝突には、割り付けのある比較が一つ。スミスとロスの2007年の実験は、5〜10歳のきょうだいがいる48家族の半数に、親が裁定者ではなく調停者としてふるまう訓練を割り当てました。約2ヶ月の追跡で、調停群の子どもは話し合いに基本ルールの設定や論点の特定を持ち込み、衝突はより建設的に解決され、相手の目標・感情・視点の理解でも統制群を上回りました。統制群は、非難と弁明の要求にとどまっています。きょうだいのいる家庭に限った、約2ヶ月の結果です。
母子54組でも、噛み合わない時間は7割を超えた。
実験で強く出たのは、未解決のまま終わった側だった。
三つを並べると、変数として扱われてきたのは、ズレの少なさではなく、直るまでの時間のほうだと分かります。次の3手も、研究が命じた手順ではなく、ALIFEが提案する記録の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
まだ直っていないズレを1つだけ選び、一行で書く。思い出すのがつらいズレは選ばなくてかまいません。今朝の小さな行き違いで十分です。
- 02COUNT
それが起きてから今日までの時間を、分かる範囲で書き足す。「3日」でも「たぶん5年」でもいい。
- 03DRAFT
自分から出せそうな一手を、一行だけ下書きする。送らなくていい。
この号の数字には偏りがあります。乳児の研究は欧米の中流家庭の、ほぼ母子のペアに集まり、コルチゾールの研究は46組と小さい。対立の実験は倫理上の制約から人工の場面です。向きの参考にはなっても、自分の家の目標値にはなりません。それでも、数えられるものが一つ。直るまでの時間です——秒単位の乳児のやりとりで測られた変数を年単位の関係へ持ち出すのは、この号の読み筋です。前回より短くなったかだけなら、今日からでも数えられます——数えないでおく、直さないでおくという選択も、同じだけ残っています。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS修復を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

