IN FAMILY · ISSUE 045

青い時刻の台所で、隣に立つもう一人の背中に片手をそっと置く女性。手の甲だけに琥珀色の灯りが当たっている● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

健康な成人404人に、14晩つづけて電話がかかります。今日、誰かと揉めましたか。今日、ハグをされましたか。それから全員が隔離され、風邪のウイルスを鼻に入れられました。2015年に報告されたこの実験が情愛の側で数えたのは、愛情の強さではなく、ハグをされた晩の数でした。

この号が扱うのは、家族という共同生活のなかの情愛表現です。恋人としての親密さは別の号の担当。同居の有無、家族の人数や形、パートナーの有無は問いません。離れて暮らす親やきょうだいへの一通も、同じ表現として数えます。そして、いま身近な人との間に暴力や恐怖があるなら——受けている側でも、してしまう側でも——この号より先に、相談窓口・専門機関へ。

親密(Affection)とは、家族のあいだで交わされる情愛の表現のこと。情愛交換理論が置いた区別が、この号の土台です。感じることと表すことは、別の変数である。深く感じているのにほとんど表さない人がいて、その逆もいる。家族の側から観測できるのは、表現だけです。研究が数えてきたのも気持ちの強さではなく、触れた回数や、書かれた文章のほうでした。

黒い石の台に立つ、中の見えない濃紺のガラスの塊と、その前に一列に並ぶ数えられる4枚の琥珀色の薄板
感じることと、表すこと。家族の側に届くのは、表に出た側だけ。 Visual: ALIFE

表現の大切さは繰り返し語られますが、どこまで測られたのかは語られません。この号で使える範囲は3つ。数えたのは接触と筆記で、言葉での表現そのものを測った研究は、ここには含まれていません。

01ハグの回数は、症状の軽さと結びついた。冒頭の実験です。支えられているという知覚は、対人葛藤にともなう感染リスクの上昇を緩衝し、ハグにも同じ緩衝効果がありました。ハグは、支えの緩衝効果の32%を説明しています。感染した参加者のなかでは、支えの知覚とハグの頻度が、それぞれ症状の軽さを予測しました。ウイルスの投与は割り付けられましたが、ハグは割り付けられていません。ハグそのものが働いたのか、支えられている感覚の伝わり方なのかは、この設計では切り分けられません。

02書いた側の数値のほうが、動いた。2007年の2つの無作為化比較試験では、参加者が大切な友人・家族・恋人への情愛を、5週間で20分ずつ3回、文章に書きました。書いた群では総コレステロールが有意に下がり、第1試験の統制群は同じ期間にむしろ上昇。手紙を渡したかどうかは問われていません。受け取る側ではなく、出す側の生理指標が動いた形です。ただし測られたのは総コレステロールという単一の指標で、期間は5週間。健康状態そのものの改善を確かめた試験ではありません。

03道筋は、2つの経路に整理された。2017年のレビューは、成人期の情愛的な接触が関係的・心理的・身体的な健康に寄与するとされる筋道を、2つの経路に整理しました。即時の経路——接触は脅威の場面で安全の信号として働き、その場のストレス反応をやわらげる。蓄積の経路——繰り返される接触が「この関係は安全だ」という感覚をつくり、挑戦や回復のための資源になる。証拠の多くは大人を対象にしたもので、タッチは乳幼児のものという通念とは向きが違います。ただし統合値を出したメタ分析ではなく、既存研究を整理した理論モデル。個々の研究の結果が一様だという意味ではありません。

黒い石の塊の凹みに濃紺のガラスの凸部がぴったり嵌まり込み、ひとつの形として立つ彫刻。継ぎ目の線が琥珀色に光っている
404人・14晩の32%、2つの無作為化試験、成人研究の2経路。使える範囲は、この3本です。 Visual: ALIFE

数字より先に走るのは、いつも説明のほうです。よくある三つを。

01ホルモンの物語で、説明してしまう。ハグの効能は、ほぼ例外なく「愛情ホルモンが出るから」と説明されます。2015年の批判的レビューは、その出発点を検査しました。点鼻オキシトシンで信頼ゲームの送金額が増えたという2005年の報告の直接追試は成功しておらず、信頼できる測定法での血中オキシトシンと信頼の関連も未確認。2016年の方法論の検討は、この種の研究は総じて統計的検定力が不足し、公表された陽性の知見の多くが真の効果でない可能性が高いと結論。「効果がない」と確かめられたという意味ではありません。網の目が粗く、何かを捕まえたのかを判定できない状態です。検査されたのはオキシトシンと信頼の関連で、404人の実験が測ったのは行動と免疫の指標です。

02一人ひとりへの予測として、読んでしまう。32%も、有意なコレステロールの低下も、集団の平均的な関連や差の大きさで、目の前の一人に何が起きるかの予測ではありません。404人はいずれも健康な成人で、筆記試験の参加者も限られた集団。接触の規範は文化によって大きく違い、欧米の標本で観察された頻度や形を、そのまま自分の家の目標値にはできません。向きの参考にとどめ、量と形は自分の家で試すほうが確かです。

03足りないことを、性格の話にしてしまう。2014年の研究は、情愛の受け取り不足——アフェクション・デプリベーションと名づけられた状態——が、孤独感・抑うつ・ストレス・自分の感情を言葉にしにくい傾向などと関連することを示しました。横断の自己報告研究で、どちらが先かは断定できません。不足が気分を下げるのか、下がった気分が表現を減らすのか、両方が同時なのか。この設計では分けられない。表現の乏しい家は「冷たい家族」なのではなく、型の在庫が少ないだけかもしれない——というのが、この号の読み筋です。

青い時刻の一室に並ぶ3つの構造物。小さな黒い石を囲む巨大な銀の足場、濃紺の板が並ぶ黒石の棚と1枚だけ離して載せた銀の台、二本だけ残った黒い棚に琥珀色の光
ホルモンで説明する・一人への予測として読む・性格の話にする。ずれは、この三つに出ます。 Visual: ALIFE

「愛情ホルモンが出るから」という説明が検証に耐えなくても、いま並べた三つは残ります。説明が崩れても、測られた行動と結果は崩れないからです。ただし三つとも欧米の標本に偏り、不足の研究は横断で、筆記試験のアウトカムは一つの血液指標だけ。「これだけ出せば足りる」という水準を出せる証拠ではありません。

感じている量は、家族の側から見えない。
数えられるのは、出した回数のほう。

完璧に表せる人になることが前提ではありません。次の3手も、研究が命じた順番ではなく、ALIFEが提案する記録の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01TOUCH

    相手が望むときだけ、肩・背中・ハイタッチのどれかを1回。

  2. 02SAY

    ありがとうに、固有の中身を一文だけ足す。「先に洗い物をしてくれて助かった」。

  3. 03WRITE

    離れて暮らす相手へ、短い文面を1通。メッセージアプリでかまわない。

10分。**出せた系統の数(0〜3)を数えるだけで、うまさは採点しません。**3つ揃わなくても、数えた時点で成立します。触れることは、相手が望むときだけ。ためらいがあれば飛ばして、言う・書くの2系統で構いません。同居の家族がいないときは、大切に思う相手1人への1通を1件として数えます。相手の反応は求めません。書いた紙は他の人の目に触れない場所に置くか、読み終えたら処分してかまいません。頭の中だけで行っても課題は成立します。書いていてつらくなったら、そこで中止してください。いま身近な人との間に暴力や恐怖があるとき、相手や自分の安全に不安があるときは、この課題より先に、地域の相談窓口や緊急の連絡先へ。つらさが続く・強まるときは、医療・支援の専門家へ相談してください。

物語が検証に耐えなかったあとに残るものを並べると、ずいぶん味気ない一覧になります。数えられたハグ、20分の筆記が3回、一つの血液指標の変化。それでも、家族の情愛が壮大な説明を必要とした試しはない。説明は雄弁な日に書けばよく、頻度は雄弁でない日にも出せます。今夜数えられるのは、感じている量ではなく、自分が出した分のほうです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS親密を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
無作為化比較試験
くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。