IN BODY · ISSUE 026
● 12 SEC「孤独は、1日15本の喫煙と同じ」——どこかで見たことがあるかもしれません。覚えやすく、比較でき、しかも自分では検算できません。
ただ、元の論文に、この一文はありません。あるのは、既知の危険因子の大きさを並べた1枚の比較図と、そこに置かれた1本の棒だけです。
社会的接触(Social Contact)は、ここでは、人とのつながりの量や質が、死亡率という健康のアウトカムとどう関連するかだけを見ます。友情そのものも、関係の作り方も、増やす方法も扱いません。
体重にも血圧にも、健診の紙には欄があります。つながりの薄さには、欄がありません。だからこの領域の証拠は、健診ではなく追跡調査のなかで集められてきました。観察であって、実験ではありません。

この領域でよく引かれるのは、2010年に PLoS Medicine へ出たメタ分析です。原典に当たると、論文が報告した数字と「15本」の出どころは、別の場所にありました。
01統合すると、オッズ比1.50。この観察研究のメタ分析は、148件の研究・308,849人を統合し、社会的なつながりが強い人のほうが生存している見込みがおよそ1.5倍だったと報告しました(オッズ比1.50、95%信頼区間 1.42〜1.59)。参加開始時の平均年齢は63.9歳、追跡は平均7.5年。観察研究の統合なので、示されたのは関連です。
02測り方で、強さが変わる。同じメタ分析の中で、人づきあいの複数の側面を組み合わせた複合的な指標では1.91(1.63〜2.23)、独りで住んでいるかどうかという二択の指標では1.19(0.99〜1.44)。後者は信頼区間が1をまたぎ、明確な差とは言えません。この2つを並べると、数えやすい指標のほうが関連が弱い、という形が見えます。
03「15本」は、比較図の1本。論文の後半に、既知の危険因子の大きさを1本ずつ棒にして並べた比較図があります。禁煙・身体活動・肥満などと長さを見比べる図で、そのうちの1本が喫煙——それも1日あたり最大15本までの中程度の喫煙でした。2023年の米国の公的な助言文書が引いた時点では、まだ「最大15本」です。

数字が運ばれるあいだに何が落ちたのかは、言い方のほうに現れます。手がかりは3つ。
01「最大」が、消えている。元は「1日あたり最大15本まで」。日常の言い回しになると、最大も、までも残りません。落ちやすいのはいつも、最大・およそ・〜のうちの一つ、という限定の語です。
02主語が、入れ替わっている。元の比較が指していたのは「社会的なつながりを欠いていること」で、孤独という感情ではありません。2010年の論文の筆頭著者も自身の公開ページで、元の比較は交友の広さ・支えの有無・社会的孤立など複数の測り方の総体で、孤独はそのうちの一つにすぎないと説明しています。
03オッズ比を、%として読んでいる。「孤独は早死にの危険を26%高める」は、前向き研究70件・3,407,134人・平均追跡7年のメタ分析の調整後オッズ比1.26(1.04〜1.53)を%に置き換えたものです。死亡率が26%増えたのではなく、死亡のオッズ——起きる見込みと起きない見込みの比——が26%高いという意味です。

言い方をどれだけ厳しく削っても、関連そのものが消えるわけではありません。2016年に Heart へ出たメタ分析は、16のデータセットにもとづく23本の論文を統合し、人とのつながりの乏しさが、冠動脈疾患の新規発症で相対危険度1.29倍(1.04〜1.59)、脳卒中で1.32倍(1.04〜1.68)と関連したと報告しました。イベント数は冠動脈疾患4,628件、脳卒中3,002件、追跡は3〜21年です。ただし著者ら自身が結論に書いています——観察研究のレビューである以上、因果は言えず、測られていない共通の原因による交絡も、逆向きの因果も排除できない、と。
15という数字は、どこでも増えていない。
減ったのは、限定の語と主語のほう。
2010年の比較図、2023年の助言文書、そして日常の会話。3つを並べると、15という数字はどこでも増えていません。減ったのは限定の語のほうだ——というのが、この号の読み筋です。
そしてオッズ比1.50は、集団の統計であって、特定の誰かの余命を言うものではありません。つながりが薄い時期は誰にでもあり、体調や引っ越しや季節でも変わります。人と会えるだけの体力がある人ほど人と会う、という向きも、同じ観察データから同じくらい読めます。怠慢や自己責任の指標ではありません。
TRY IT TODAY
- 01RECALL
直近1週間で、仕事や用事のためではない理由で連絡を取った相手を思い出す。
- 02COUNT
人数だけを数える。名前は書かない。同じ相手は何度やりとりしても1人。
- 03CHECK
その数を、自分が多いと感じたか少ないと感じたか、一度だけ確かめる。
筆頭著者は原典に忠実な言い方を自分の公開ページに書いていますが、世に出回る形は変わりません。訂正には限定の語がたくさん入っていて、限定の語は運ばれる途中でいちばん先に落ちる——というのが、この号の読み筋です。ここに並べた証拠の中心は欧米の中年以上を対象にした観察研究で、参加開始時の平均年齢は63.9歳。ALIFEが確認した範囲では、日本人を対象にした追試はほとんど見当たりませんでした(無いことの証明ではありません)。疑うときに探すのは、悪意ではなく、落ちた限定の語です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS社会的接触を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- オッズ比
- ある状態の「起こりやすさの関連」を表す倍率。1なら差なし、1より大きいほどその群で起こりやすい関連です(確率が何倍、という意味ではありません)。

