IN BODY · ISSUE 025

ブルーアワーの窓辺、黒い石のカウンターに並べた2本の銀の円柱を両手ではさむように見比べる女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「これ、効くらしいよ」と勧められたとき、確かめるのはたいてい中身のほうです。けれど、効き目の数字を決めているのは、中身だけではありません。

この号が扱うのは一点だけ。ストレス対策の効き目の数字が、何と比べた数字かです。職場の制度としての対策も、治療の選び方も扱いません。

心理的ストレス(Psychological Stress)を、この号では個人の身体反応と、それが下りるまでの時間として扱います。数えるのは上がった回数ではなく、下りるまでの時間——というのが、この号の読み筋です。ALIFEが査読済みの研究を当たった範囲では、「1日何分の休息で足りる」という目安の数字には行き着きません(無いことの証明ではありません)。

黒い石の水盤に張った暗い水。中央にひと組の波紋が広がり、すでに静けさへ戻りかけている。銀の縁に窓の光、水面に琥珀色の映り込みがひとつ
上がった回数ではなく、下りるまでの時間を数える——この号の読み筋。 Visual: ALIFE

下りる時間を助けるとされる方法には、効き目の数字が付いてきます。ただし、それが「何もしなかった人たち」と比べた数字とは限りません。2017年の整理は、ある訓練が別の能力に及ぶかの効果量を、対照群の種類別に並べ直しました。音楽の訓練では、何もしない対照との比較で0.25(研究数64)、同じ手間の活動をした対照との比較で0.03(95%信頼区間 −0.07〜0.12、研究数54)。後者は0をまたぎ、明確な差とは言えません。瞑想の研究ではありませんが、引き算の相手を替えると、残る数字が変わることを見せています。

0147試験・3,515人で、小さい。米国・2014年のメタ分析は、瞑想プログラムの無作為化試験47件・3,515人を、時間も手間も同じくらいかかる別の活動と比べました。不安は8週で0.38(95%信頼区間0.12〜0.64)。抑うつは0.30(95%信頼区間0.00〜0.59)で、下限が0に接しており、明確な差とは言い切れません。質の評価は中程度、ストレスや心の健康に関わる生活の質では低い。運動・筋弛緩・認知行動療法より優れているという証拠は見つかっていません。

02336試験まで集めても、同じ形。2022年の総まとめは、マインドフルネス介入の無作為化試験のメタ分析44件(延べ336試験・30,483人)を整理しました。待機や無介入といった受動的な対照に対しては、ほぼどの領域でも優位(効果量0.10〜0.89)。能動的な対照に対しては効果は総じて小さく、統計的に意味のある差になることも少ないままでした。数が足りないから小さい、ではありません。

03構造を揃えた49人、自己申告に差が出ず。2013年の米国の試験は、8週間のマインドフルネス低減プログラムに、講義(週2.5時間を8回)も自宅課題(45〜60分)も指導者の熟練度も揃えた対照プログラムを置きました。参加者49人(介入25人・対照24人)。自己申告の苦痛・不安の症状・身体症状の数は両群とも同じように改善し、コルチゾール反応も含め群間の差は検出されません。差が出たのは、皮膚に炎症を起こさせたときの反応の広がりだけ。

黒い石の板と濃紺のガラスの板が直角に組み合い、互いを支えて自立する彫刻。入隅に小さな銀の補強と琥珀色の光
別分野の訓練でも、引き算の相手を替えると残る数字が変わった。 Visual: ALIFE

数字の読み方は、日常のなかで簡単にすり替わります。手がかりは3つ。

01数字を、単体で覚えている。「不安に0.38」だけを覚えているとき。0.38も0.03も、それだけでは読めません。どの集団の、何と比べた数字かが必ず付きます。

02「効かない」を、自分の話に読み替えている。能動的な対照と比べて差が検出されないことと、その人の役に立たないことは別です。メタ分析が答えているのは「その中身に固有の上乗せがあるか」であって、「あなたに合うか」ではありません。

03偏りを、確かめないまま広げている。ここまでの証拠は欧米の成人が中心で、期間は8週間から6か月。ALIFEが当たった範囲では、日本人での追試はほとんど見当たりません(無いことの証明ではありません)。観察で見えた関連は、落ち着いている人ほど静かに座れる、という逆向きにも読めます。

青い壁に並ぶ3つの壁龕。左は銀の細い柱が1本だけ、中央は同じ高さの2本、右は1本の柱の影が壁龕の外へ長く伸びる
すり替わりは、数字ではなく読み方に現れる。 Visual: ALIFE

よく引かれる数字を、もうひとつ。2004年の米国の研究は、閉経前の健康な女性58人(うち39人は病気の子を介護する母親)を一時点で測り、自覚するストレスがいちばん高い群のテロメア(染色体の端の、分裂のたびに短くなる部分)は平均3,110塩基対、いちばん低い群は3,660塩基対。差はおよそ550塩基対。著者らは、因果か相関かは決められないと書いています。12年後、2004年の研究の筆頭著者も共著に加わったメタ分析が22件・8,948人を統合すると、年齢調整後の相関はマイナス0.06(95%信頼区間 −0.10〜−0.008)。ばらつきの1%も説明できず、対象はすべて横断研究でした。

小さいことより大事なのは、
その数字が何と比べた数字か。

2004年の測定が間違っていた、という話ではありません。1件の小さな横断研究の値と、12年ぶんを集めた値は、これだけ違います。

TRY IT TODAY

  1. 01RECALL

    今日、緊張が下りたと感じた瞬間を1件だけ選ぶ。

  2. 02WRITE

    いつごろで、どんな感じだったかを1行。

  3. 03BEFORE

    その直前に何をしていたかを、もう1行。

3分。上がった回数は数えません。思い出せなければ「思い出せない」と書いて完了です。これは研究結果そのものではなく、ALIFEが提案する実践入口です。つらくなったら中止してください。眠れない・食べられない・気分が戻らない日が続くとき、強い絶望や自分を傷つけたい気持ちがあるときは、課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

示せるのは、効き目の数字がどこから来たかまでです。構造を揃えた対照群でも、自己申告の苦痛は同じように改善しました。何もしないよりは、たいてい何かをしたほうがいい——これは、待機や無介入と比べたときの関連にもとづく言い方です。ただしそれは、あなたが選んだ何かが特別だった、という意味ではありません。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS心理的ストレスを、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
無作為化比較試験
くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。