IN BODY · ISSUE 024

ブルーアワーの窓辺に立つ女性。顔の左半分だけに窓からの光が当たり、右半分は深い影に沈んでいる● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

鏡の前で、今日の自分の顔に判定を下したことがあるなら——映っているのは、たいてい結果のほうです。乾き、色、しみ。どれも、内側で起きたことのあとに現れます。

この号が扱うのは一点だけ。見えるものが、内側の状態をどこまで映しているかです。顔立ちの良し悪しも、若く見えることの値打ちも扱いません。

外見的健全(Appearance)は、ここでは「見えるところが、内側をどこまで映しているか」という読み方として扱います。皮膚も、口の中も、姿勢も、多くは代理指標——本当に知りたいことの代わりに測っている手がかりです。読めますが、手がかりを書き換えても、測りたかったものは変わりません。

表面だけが細かく風化した濃紺のガラスの板。銀の棒が立てかけられていた一筋だけが磨かれたまま残り、内側は透明なまま
映っているのは結果のほう。読めるが、書き換えても内側は変わらない。 Visual: ALIFE

見た目がよく売られるのは、たぶん、その日のうちに変化を見せてくれるからです。こんな一文が広く出回っています——「コラーゲン産生はビタミンC・睡眠・糖質制限と直結」。1つの文に、性質の違う3つの結び目があります。1つずつ確かめました。

01ビタミンCは、生化学として確立。ビタミンCがコラーゲンの立体構造を安定させる水酸化酵素の補因子であることは、確立した生化学です。欠乏症の壊血病では皮膚がもろくなる(2017年の総説)。ただし同じ総説は、不足していない人で、摂取と加齢による変化の関係を測った研究は無いとも書いています。

02睡眠は、白人女性60人の横断研究。2015年の報告は、白人女性60人を睡眠の質と時間で2群に分けて比べ、良い睡眠の群で内因性の皮膚老化のスコアが有意に低く(P<0.001)、皮膚の表面を軽く剥がしたあとの72時間後のバリア回復が30%良いとしました。60人の横断的な比較で、測っているのはスコアと回復。産生量ではありません。

03糖質制限は、ヒトの研究に行き着かない。ALIFEが皮膚科学と栄養学の査読誌と臨床試験の文献を当たった範囲では、糖質を減らすと産生が増えるとヒトで確かめた研究には行き着きませんでした(無いことの証明ではありません)。あるのは逆向きの話で、2010年の論説は、糖がコラーゲン線維を架橋し修復しにくくすると書いています。既にあるものが硬くなる方向です。

黒い石の塊と濃紺のガラスの塊が、中央の小さな銀の接点ひとつだけで上下に接して立つ砂時計型の彫刻
確立した生化学・白人女性60人の横断研究・行き着かない主張が、「直結」の一語で同じ高さに並ぶ。 Visual: ALIFE

見えるものの読み方は、日常のなかで簡単にすり替わります。手がかりは3つ。

01予測を、効果として読んでいる。デンマークの70歳以上の双子1,826人の顔写真を評価者に見せて答えさせた「見た目の年齢」を、2001年春から2008年1月末まで追った観察研究では、675人(37%)が死亡。実年齢と性別を調整した見た目の年齢1歳あたりのハザード比は1.08(95%信頼区間1.05〜1.10)でした。予測であって、見た目を変えれば生存が変わるという話ではありません。

02体質の話に、寄せている。「肌質だから」「遺伝だから」で説明を終えているとき。2012年の1件の症例では、69歳の男性の左側の顔だけに、25年かけて進んだ肥厚と皺がありました。配送トラックを28年運転した人で、紫外線A波は窓ガラスを透過します。反対側は同じ遺伝・食事・睡眠・年齢。違ったのは当たった量だけです。ただし1件の症例です。

03人の値打ちの話に、変えている。他人の顔から生活ぶりを読み取っている、と気づいたとき。ここで扱うのは曝露の記録であって、顔立ちの評価ではなく、この読み方を他人の顔に向けないでください。証拠も、デンマークの70歳以上の双子、ドイツの70〜80歳の白人女性400人、白人女性60人、1件の症例に偏り、日本人での追試はほとんど見当たりません。採点には使えません。

3つの柱間に並ぶ静物。長い影を前へ伸ばす黒い石板、片面だけが光で白く風化した石柱、何も入っていない銀の空フレーム
すり替わりは、日常の言い方のほうに現れる。 Visual: ALIFE

集団でも、同じ向きの結果が出ています。ドイツの70〜80歳の白人女性400人で大気中の粒子と皮膚の老化の徴候を調べた2010年の研究では、すすの曝露が四分位範囲ぶん増えるごとに額のしみが22%、頬のしみが20%多いという関連がありました。交通量の多い道路から100m以内では額のしみが35%多かったものの、標本が小さく統計的に有意ではなく、明確な差とは言えません。観察研究なので、粒子がしみを増やしたとは言えません。それでも1件の症例と400人で同じ向きが並ぶ——記録を書き込むのは外からの曝露のほうだ、というのが、この号の読み筋です。

映っているのは、結果のほう。
書き換えても、内側は変わらない。

記録の時間は遅い。1日で変わるのは、むくみと血色くらいです。症例の男性の左右が離れたのは25年かけて、400人の研究が測ったのも70〜80歳までに積み上がった曝露でした。この遅さは売る側に都合がよく、何年もかかると言えば出ないことは反証にならない——というのが、この号の読み筋です。

TRY IT TODAY

  1. 01LOOK

    鏡の前に立つか、手を目の前に出す。顔でも手でもよい。

  2. 02WRITE

    左右で違うと気づいた点を、1件だけ1行で書く。

  3. 03MARK

    その違いが「いつからか」を、思い出せるかどうかだけ記す。

3分。良い悪いの判定はせず、誰かと比べる必要もありません。これは研究結果そのものではなく、見えるものを記録として扱ってみるためにALIFEが提案する実践入口です。見ていてつらくなったら、そこで中止してください。皮膚の色や形が変わった、治らない傷がある、口の中に痛みや出血が続く——そうした変化があるときや、自分の見た目についての考えで日常に支障が出ているときは、課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

外見的健全は、若く見えることではありません。見えるところを、内側で起きたことの記録として読めるかどうか。読めても、書き換えれば中身が変わるわけではない——その距離が、売り文句と自分の観察を分けます。ここに並べた数字は高齢者中心の観察研究と1件の症例に由来し、自分の顔を採点する道具にはなりません。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS外見的健全を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
観察研究・前向き研究
介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
ハザード比
追跡期間の中で出来事が起こる「速さ」の比。1なら差なし。例えば0.8なら、その期間に起こる勢いが2割低かったことを表します。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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ISSUE 023森の50%は、12人の数字。ISSUE 025数字は、比べ方で縮む。
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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。