IN BODY · ISSUE 023
● 12 SEC森林浴で免疫の細胞が元気になる。よく聞く話です。その根拠として最もよく引かれる一連の試験で、実際に血を採られた人は——12人、12人、13人でした。
これは、外に出ても意味がないという話ではありません。どのくらいなのかを言おうとしたとたん、証拠が薄くなる。そして薄いところには、たいてい大きな数字が置かれています。
この号の自然環境(Nature)は、光・緑・外気のもとで過ごすこと——「外に出ること」が、どこまで測られているかという話です。方向はだいたい一致していて、困るのは大きさのほうです。
よく引かれる出発点は、2007年の報告です。東京の企業から募られた37歳から55歳の健康な男性12人が、3日2泊で森を歩き、旅行の前後で血液を採られました。比べる相手は、旅行前のふつうの勤務日の自分。12人中11人でNK活性が上がり、上昇はおよそ50%とされています。無作為化されておらず、森へ行くと本人が知っているので目隠しもできません。

同じ研究者の総説は、この系列の3件を並べています。男性12人、男性12人、25歳から43歳の看護師13人——合わせて37人。いずれも3日2泊で、上がったNK活性は旅行後30日以上続いたとされています。この37人の数字について、分かることが3つあります。
01「48時間」は、原典に無い。よく出回る「森林浴でNK細胞の活性が48時間増加」という言い方は、原典と合いません。著者自身の総説が書いているのは、上がった状態が旅行後30日以上続いた、というほうです。引用の連鎖で、大きさではなく期間が置き換わった例です。ただしその30日以上も、合わせて37人の、無作為化されていない試験からの報告です。
02この分野を数えると、標本は小さい。森林浴の医学的な実証研究を対象にした2019年の系統的レビューは、2015年から2019年の210本から28本を選び、参加者20人未満の研究が29%、日本からの報告が46%、無作為化比較試験の形を取っていたのが61%だったと報告しました(いずれも28本に対する別々の割合です)。著者たちの結論は、方法の質を上げてバイアスの危険を下げる必要がある、というものです。
03標本が小さいと、出てくる数字は大きくなる。検出力——本当に効果があるときに、それを見つけられる確率——の低さは、半世紀にわたって指摘されてきました。ある心理学誌の1960年の1年分では、中くらいの効果に対する平均の検出力が0.48。1989年に同誌の後継誌の1984年分で同じ計算をやり直した論文の問いは「検出力の指摘は、研究の検出力を改善したか」で、答えは「ノー」。54本のうち検出力に触れていたのは2本でした。2013年には、神経科学の研究の検出力の中央値がおよそ8%から31%と推定されています。低い検出力は見逃しを増やすだけでなく、出てきた効果の大きさを過大にする——森の数字がいつも劇的なほうから届くのは、この形のためだ、というのが、この号の読み筋です。

自分がいま、どちら側の数字を見ているのか。手がかりは、記事や会話の中にあります。
01人数が、書かれていない。「森林浴でNK細胞が上がる」という一文に、12人・12人・13人という参加者数が添えられていることは、ほとんどありません。数字だけが先に旅をして、標本は置いていかれます。
02期間が、少しずつ変わっている。同じ主張なのに、48時間・数日・1か月と長さが揺れているとき、途中の引用で置き換わっている可能性があります。原典の総説が書いているのは、旅行後30日以上のほうです。
03大きさが、頭打ちの話を連れていない。イングランドの1万9,806人の横断調査では、自然の中で過ごす時間と良好な健康の関連は週200分から300分あたりで頂点に達し、それ以上の上乗せはありませんでした。多いほど得になる、という形ではありません。

では、大きく測るとどうなるか。2019年の研究は、イングランドの自然環境利用調査の1万9,806人分を分析しました。週120分から179分を自然の中で過ごした人は、まったく過ごさなかった人と比べ、良好な健康のオッズ比が1.59(95%信頼区間 1.31〜1.92)、高い幸福感のオッズ比が1.23(1.08〜1.40)。関連は週200分から300分あたりで頂点に達し、それ以上の上乗せはありませんでした。人数は千倍を超え、効果は控えめになり、頭打ちが出ます。
人数は、推定の精度を上げる。
向きを決めるのは、設計のほう。
ただしこれは横断調査です。著者たち自身が、より健康で幸福な人ほど自然の中で多くの時間を過ごしている可能性を排除できないと書いています。自然の中の時間が健康と結びついているのか、元気な人ほど外に出られるのか。1万9,806人でも、この2本は区別できません。森林浴の側も、日本の中年男性と看護師の合わせて37人・目隠しなしの試験です。妊娠中の人・子ども・持病のある人・薬を飲んでいる人に、ここまでの数字はそのままは当てはまりません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
今日、屋外の光を浴びた時間帯を思い出せるだけ書く。
- 02ESTIMATE
「何時ごろ/何分くらい」で1件ずつ。正確でなくてよい。
- 03TOTAL
合計が何分くらいかを見積もり、1つの数字として残す。
同じ話題を時間順に並べると、たいてい同じ形が出ます。小さくて劇的な数字が先に来て、次に条件が付き、最後に大きな調査が但し書きを連れてくる。それでも回り続けるのは最初の数字のほうだ——というのが、この号の読み筋です。12人で測ったおよそ50%も、1万9,806人分の1.59も、そう報告されたという以上のことは言っていません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS自然環境を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- 系統的レビュー
- あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
- オッズ比
- ある状態の「起こりやすさの関連」を表す倍率。1なら差なし、1より大きいほどその群で起こりやすい関連です(確率が何倍、という意味ではありません)。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

