IN BODY · ISSUE 022
● 12 SEC毒を出す。デトックスという言い方は、聞くと気持ちがよくなります。けれど、外から入ってくるものは自分では感じ取れないし、出ていったかどうかも感じ取れません。
感じ取れないものについて、感じ取れたと言えてしまう。落とし穴はそこです。米国の10家族を無作為に2群へ分けた5日間の試験では、食事をまるごと新鮮な食材に替えた群のほうで、尿中のある物質がおよそ24倍に増えていました。その増加は、尿を測るまで誰にも分かりませんでした(この試験は体感を測っていません)。
毒素回避(Toxin Avoidance)は、外から毎日わずかに入ってくるものを減らそうとする考え方です。曝露には火事のような形がなく、空気も水も食品の容器も、たいていは無味無臭。一度きりの量では何も起きません。だから話は二重に厄介です。入ってくるのが分からないうえに、減ったことも分からない。この見えなさに、ちょうどよく収まる言葉があります。デトックス、です。

では、デトックスという言葉の中身はどこまで確かめられているのか。原典まで追うと、分かることは3つに分かれます。
01市販のデトックス食に、無作為化試験が無い。2015年に Journal of Human Nutrition and Dietetics へ出た批判的レビューが探したのは、デトックス食が毒素を出すという主張の臨床の証拠でした。市販のデトックス食の有効性をヒトで検証した無作為化比較試験は、実施されていない。あったのは、方法の欠陥と小さな標本に悩む数件の臨床研究だけ。体重管理にも毒素の排出にも、使用を支持する臨床的な証拠はごくわずかだと結論されています。体に解毒の仕組みが無い、という話ではありません。
02米国の10家族の試験では、増えていた。米国の5家族20人に3日間、缶詰も包装も避けた新鮮な食事を出した2011年の研究では、尿中のビスフェノールAが幾何平均 3.7 から 1.2 ng/mL へ66%下がりました。ところが10家族を2群に無作為化し、片方の5日間の全食事を新鮮な食材の仕出しに替えた2013年の試験では、フタル酸エステルの代謝物が中央値 283.7 から 7,027.5 nmol/g へ、およそ24倍に増えています。助言だけの群では、はっきりした変化はみられず、増加の原因は食材そのものの汚染でした。どちらも数家族・数日の小さな試験です。
03「最大92%」の「最大」は、原典に無い。「PM2.5が認知症リスクを最大92%増加」という一文をたどると、2017年に Translational Psychiatry へ出た論文に行き着きます。米国の65歳から79歳の女性3,647人を平均およそ9.9年追跡した観察研究で、米国の環境基準を超える地域に住むことは、認知機能の低下のリスクが81%、認知症のリスクが92%高いことと関連していました。92%は集団全体の推定で上限ではなく、遺伝型で分けると 1.68・1.91・2.95 と別々の値が出ています(遺伝型ごとの結果で、集団全体に当てはめる数字ではありません)。観察研究なので、住む場所が認知症を増やしたとは言えません。

自分がいま、何を根拠に何を避けているのか。日常の中に、手がかりがあります。
01「軽くなった」を、減った証拠にしている。曝露の量は感じ取れず、減ったことも感じ取れません。米国の10家族の試験でおよそ24倍という増加が分かったのも、尿を測ったからです。軽くなった感じは、体の中の増減の証拠にはなりません。
02見えない曝露が、原因の受け皿になっている。2010年に Bioelectromagnetics へ出た系統的レビューは、電磁波で体調が悪くなると訴える人への盲検・二重盲検の誘発試験46件・のべ1,175人ぶんを集め、曝露を検知できるという説を支持する確かな証拠は見つからなかったと報告しました。症状は本物です。合っていなかったのは、症状と引き金の結びつけ方のほうでした。
03年で積み上がる量を、日の実感で見ている。世界保健機関が2021年に改定した大気質のガイドラインは、PM2.5の指針値を年平均 5 µg/m3、24時間平均 15 µg/m3 としました(2005年版は 10 と 25)。年平均で書かれているのは、この曝露を年の単位で見ているからです。日の手応えでは管理できず、年平均で決められている以上、いちばん効く手立ての多くは個人の努力の外側にあります。

デトックスという言葉には、便利な性質があります。終わりが定義されていないこと。何がどれだけ出たのかを誰も測らないので、失敗も起きない——というのが、この号の読み筋です。およそ24倍に増えた10家族が見せたのは、測らなければ向きすら分からない、ということでした。
体感は、減ったことの証拠にならない。
増えたことの証拠にも、ならない。
だから、対策をやめる話ではありません。ここまでの数字は、数日の小さな介入試験と、欧米の中年以上を対象にした観察研究から採られたものです。日本人での追試はほとんど見当たらず、関連には、空気のよい地域に住み新鮮な食材を選べる人ほど健康だ、という逆向きも残ります。
TRY IT TODAY
- 01LIST
空気・水・食品の容器について、意識して変えたことを書く。
- 02LABEL
根拠を「調べた」「聞いた」「なんとなく」で分ける。
- 03CHECK
「調べた」の行だけ、何で読んだのかを短く足す。
毒素回避は、体がきれいになる実感を約束しません。できるのは、何を根拠に何を避けているのかを1行ずつ確かめること。感じ取れない量の話を、手応えの物語に置き換えないでおくこと。地味ですが、確かめようのある出発点です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS毒素回避を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 系統的レビュー
- あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

