IN SELF · ISSUE 008
● 12 SEC療養の助言は、たいてい生活の単位でやってきます。運動を、食事を、休養を。それを前にして動けない日に足りていないのは、意志ではなく——行動の大きさの調整のほうかもしれません。
この号が扱うのは「自分でやれている感じ」です。ただし、値札を先に正確に読みます。この感覚を上げる講座は各国で提供されてきましたが、統合された数字が示したのは、小さく上がったのは自己効力感で、ほかの自己評価や行動の指標にも小さな改善があった、という地味な内訳でした。
療養管理の自己効力感(Self-Efficacy)とは、能力の量ではなく見込みのこと——この状況でこの行動を自分は実行できる、という見込みです。Banduraが1977年に理論として提出した概念で、「その行動が望む結果を生む」という結果予期とは別の変数として区別されました。薬が効くと思うことと、その薬を毎朝飲み続けられると思うことは、別の話です。
見込みを作る源は4つ。実際にやれた経験、似た誰かがやっているのを見ること、言葉による説得、そのときの身体と気分の状態。病気を抱えた身体でやっかいなのは4つ目です。だるさ、動悸、痛みの走り——同じ信号が「できない証拠」として読まれ、残り3つを毎日打ち消しにかかります。

では、その感覚を上げるために設計された既製品——同じ病気を持つ人が講師を務める、慢性疾患の自己管理教育プログラム——は、何を動かしたのか。関節炎・糖尿病・高血圧・慢性の痛みなどを対象にした17試験・7,442人を統合したコクランレビューの内訳は、率直なものでした。
01実験で動かすと、行動も動いた。態度・規範・自己効力感を実験的に操作した204の検定を統合したメタ分析では、自己効力感を高める操作が、意図を効果量0.51、実際の行動を0.47で変化させました。いずれも中程度で、相関だけでなく「動かせば動く」変数だと確かめられた範囲です。ただし対象は健康関連の行動全般で、療養中の患者だけを取り出した結果ではありません。
02小さく上がったのは、自己効力感。17試験・7,442人(関節炎・糖尿病・高血圧・慢性の痛みなど)のコクランレビューでは、自己効力感が小さいながら有意に改善しました(標準化平均差 -0.30)。自己評価の健康・症状の認知的な扱い方・有酸素運動の頻度にも小さな改善。一方で痛み・支障・疲労・抑うつの改善を、著者らは臨床的に重要な大きさとは呼んでいません。生活の質・受診回数・入院日数については、明確な差とは言えませんでした。
03医療の使い方は、ほとんど動かなかった。同じ形式のプログラムを扱った23研究・8,688人(無作為化比較試験2,909人+縦断評価5,779人)のメタ分析でも、自己効力感の効果量が0.20〜0.45、有酸素運動0.12、症状の扱いと医師とのやりとりが各0.26。医療の使い方で改善が見られたのは4〜6か月時点の入院日数(-0.09)だけで、9〜12か月時点では身体的な改善は維持されませんでした。これは統合値であり、個々の研究結果が一様だったという意味ではありません。

上がるときは遅く、下がるときは速い。それが「やれる感じ」の癖です。削れていく側の手がかりは、たいてい計画の立て方に出ます。
01目標が、生活の単位で来ている。「運動を」「食事を」。届いた助言をその粒度のまま予定にしていると、やれる自信は上がりにくくなる。
02良い日を基準に、計画している。調子の良い日にできる量で組むと、平均的な日はすべてが未達になる。未達の記録が、感覚を削っていく。
03悪い日が、全部を帳消しにする。体調の悪い1日で、積み上げた感覚がほとんど戻ってしまう。意志の弱さではなく、身体の信号が可否の判定に直結する構造の帰結です。

療養の中でいちばん研究されてきた行動は、処方された薬を指示どおりに使うことです。182の無作為化比較試験を統合したコクランレビューは、自分で服用する薬が処方された用量のおよそ半分しか使われていないこと、バイアスの危険が最も低い17試験のうち、服薬と臨床上の結果の両方の改善を報告したのは5試験にとどまり、その5つに共通する介入の特徴も見当たらなかったことを報告しました。結論は「現行の方法はおおむね複雑で、あまり効果的ではない」。専門家が182回設計しても動きにくい行動を、本人の意志の強さの問題にするのは、単に事実に反します。
続かないのは、意志の弱さではない。
182の試験でも、まだ動かせていない。
だから、うまくいっていないことを自分の内側で処理しないでください。薬・受診・治療の判断は医療者の持ち場です。次の受診で渡す事項として持っていく——それが、この領域での正しい扱い方です。
もうひとつ。心不全の20試験・5,624人分を患者単位で統合した個別患者データのメタ分析では、全体では心不全関連の入院または全死因死亡の複合エンドポイントのハザード比が0.80(95%信頼区間0.71〜0.89)だった一方、中等度から重度の抑うつ症状のある患者では、死亡のハザード比が1.39(1.06〜1.83、P=0.01)と逆を向いていました。同じ介入が、全員に同じ向きに働くわけではありません。これは心不全に限定された結果であり、抑うつのある人全般に自己管理が有害だと示したものではありません。原著も介入を制限すべきだとは結論せず、注意が必要だとしています。気分が重い期間は、自己管理の量を自分で増やす時期ではなく、そのことを医療者に伝える時期です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日やると決めていたことを、ひとつ選ぶ。
- 02RATE
いまそれをやれる自信を、0から10でつける。
- 03SHRINK
7に届かなければ、届くまで行動を小さくして、その数字を記録する。
療養管理の自己効力感は、入院日数を動かす約束ではありません。実験で確かめられているのは、感覚を動かせば行動も動く、というところまで。持ち場は、すでに決まっていることを一日の中に載せる部分——薬を置く場所、通院の日の段取り、動く時間帯、体力の配分です。
粒度を下げる操作が習慣になると、やれるかどうかを毎回検討しなくなります。上達とは、判断が上手くなることではなく、判断が要る場面が減ることです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS療養管理の自己効力感を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
- ハザード比
- 追跡期間の中で出来事が起こる「速さ」の比。1なら差なし。例えば0.8なら、その期間に起こる勢いが2割低かったことを表します。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

