IN SELF · ISSUE 009
● 12 SEC診察室を出たあとで「言いたかったのは、それじゃなかった」と思ったことがあるなら——それは相性の問題ではないかもしれません。合意の問題です。
良い先生に出会えるかどうか。世の中に流通している処方は、たいていこの一行に縮みます。けれど研究が測ってきたのは、もっと事務的なもの——何を良くしたいかの合意と、誰が何をするかの合意でした。
治療同盟形成力(Therapeutic Alliance)とは、医療者との関係を運任せの相性ではなく、組み立て直せる作業として扱う力のこと。もとになっているのは1979年に提案された作業同盟の定義で、同盟は目標の合意・課題の合意・情緒的な絆という3つの部品に分けられます。

大事なことを先に言います。1978年から2017年までの心理療法研究295本・3万人超をまとめたメタ分析で、同盟と治療結果の相関は r=.278。結果のばらつきのうち、同盟と関連するのは約8%でした。約8%の関連は、残り92%の内訳を説明するものではありません。それでも、この8%を相性から作業へ引き戻す価値がある理由が3つあります。
01関係と結果は、繰り返し関連した。1978〜2017年の心理療法研究295本・3万人超を統合したメタ分析では、同盟と治療結果の相関は r=.278(95%CI .256〜.299、効果量 d=0.579)。患者・治療者・観察者のどの評定でも、39種類の同盟尺度をまたいでも同じ向きに出ました。対面 r=.278、インターネット経由の治療 r=.275(23研究)。ただしこれは相関で、結果のばらつきのうち関連するのは約8%にとどまります。
02この試験では、時間の順番でも向きが残った。うつ病の患者149人を16週間・3条件(心理療法/薬物療法つき臨床管理/プラセボつき臨床管理)で追跡した試験では、直前の症状の水準を統制しても、同盟が高い時点の次に症状が低いという関連が残りました(β=−.05、p=.01)。逆向き(症状が次の時点の同盟を予測する関係)は明確な差とは言えませんでした(β=.01、p=.86)。うつ病の外来患者を対象にした1件の試験で、因果を決めた結果ではありません。
03診察前の準備で、診察時間の差は見えなかった。治療・検診の意思決定場面を扱った209のランダム化比較試験・107,698人を統合したコクランレビューでは、意思決定支援ツールを使った人は選択肢についての知識が100点満点で平均11.90点高く(95%CI 10.60〜13.19)、自分の価値観に合った選択に至る割合が1.75倍(RR 1.75、95%CI 1.44〜2.13)でした。診察の前に使った場合、診察そのものは平均2.97分短いものでしたが、95%信頼区間が0を含み、明確な差とは言えませんでした。診察中に使った場合は約1.5分長くなっています。欧米の医療制度を前提にした71場面の統合値で、日本の診察室の数字ではありません。

関係がうまくいかないとき、人は反射的に絆の話にします。先生が冷たい、自分が嫌われている。けれど手がかりは、もっと手前の日常に出ています。
01目標が、同じ言葉になっていない。医療者は検査値の安定を、自分は夕方に立っていられることを目標にしている。絆は無傷でも、同じ車には乗っていない状態です。
02本題が、最後の30秒に押し出される。米国2州の診療所で録音・録画された外来112件の二次解析では、医療者が患者の用件を尋ねたのは40件(36%。プライマリケア49%・専門外来20%)。尋ねられた40件のうち27件では、患者の話が中央値11秒(四分位範囲7〜22秒)で中断されていました。遮られなかった場合、患者は中央値6秒で言い終えています。米国の外来を対象にした観察で、日本の診察室の数字ではありません。
03関係の評価を、いちばんつらい週に下している。同盟は3回目か4回目の面接で測られることが多く、初回は情報交換で終わりがちです。体調の波は、関係の見え方まで揺らします。関係を切り替えるかどうかの判断を、いちばん体調の悪い週にやらない。

「関係が良いから良くなる」のか、「良くなってきたから関係が良く見える」のか。2005年の方法論批判は、同盟の高さが患者側の特性やすでに起きた症状改善の代理指標でありうると指摘しました。この指摘はいまも生きていて、同盟を1時点でしか測らない研究は、ほとんど何も証明しません。それでも、直前の症状を統制した設計では同盟から次の時点の症状への関連が残り(β=−.05、p=.01)、295研究のメタ分析でも初期重症度で調整した偏相関とゼロ次相関のあいだに明確な差はありませんでした(p=.199)。値切られたのは「同盟が関係する」ではなく、「同盟だけで良くなる」のほうです。
同盟と結果の関連は、約8%。
同盟だけで、船全体は説明できない。
だから、良い医療者に出会えたかどうかで自分を採点しなくていい。関係が思うようにいかない日も、失敗ではありません。絆を採点する代わりに、交渉できる部品——目標と課題——のほうを開けてみる。ここが、この号の入口です。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
いちばん困っていることを1つだけ、検査値ではなく生活の言葉で。
- 02TRIM
声に出して読み、6秒で言い終わるまで削る。
- 03ADD
いつからどう変わったか、今日決めたいこと、聞きたいこと3つを足す。
同盟という言葉には、ふたりで肩を組んで病気に立ち向かう絵が付いてきます。実際に測られてきたのは、もっと事務的なもの——何を良くしたいかの合意、誰が何をするかの合意、そしてそれに耐えるだけの敬意でした。約8%という関連です。良い医療者に出会えるかどうかを待つより、今日いちばん困っていることを6秒で言える準備のほうが、自分の手の内にあります。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS治療同盟形成力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

