IN DATA · ISSUE 534
● 12 SEC「数字が正しければ、グラフも正直だ」。そう思いがちです。この号は、数字を変えずに受け取られ方が変わる仕組みを、6点で確かめます。3点はオンラインで参加者を募り図を見せた実験、1点は図の読み取りの基礎を扱った論文、1点は研究をまとめた総説、1点は統計の見せ方の手口を説いた一般向けの実務書です。
先に向きを言うと、縦軸を途中から始めたグラフでは、棒でも折れ線でも参加者は差を大きく受け取り、切ったことを示す印を付けても誇張は残りました。シラバス側の「切り詰めの影響は条件しだい」は、この実験の答えと向きが違います。相関を因果と読む誤りも文章で示したときと棒グラフで同じくらい強く、図が因果の印象を生むという話ではありませんでした。この号は、描き方を勧めることも、結果を日本の小さな店に当てはめることもしません。
ここでの数字のトリックは、数値を一つも変えずに、軸の始まりや大きさの表し方、並べ方で受け取られ方を変えることです。2015年のクラウドソーシングの研究は、よく使われる歪みの手法を分類し、4種類の歪んだ図で読み手の受け取りを調べ、その結果で “show how deceptive each of these visual distortion techniques are”(それぞれの歪みの手法がどれほど誤らせるかを示す)と要旨に書きます。

誤りの入り口は二つあります。描き手が選ぶ見せ方と、読み手の目の得手不得手です。2021年の総説は、データを伝える図の研究から指針を整理し、設計の不十分な図は、図に不慣れな人ではとくに “confusion, misunderstanding, or even distrust”(混乱や誤解、不信さえ)を招きうると書きます。何が実験で測られたのかを、次に見ます。
01縦軸を途中から始めると、棒でも折れ線でも、差は大きく受け取られた。2020年のオンライン実験では、参加者が同じデータのグラフを見て、変化の大きさを主観で評価しました。縦軸の始まりを上げるほど評価は大きくなり、棒グラフと折れ線グラフで目立った違いはありませんでした。図は題材を伏せた抽象的なものです。
02相関を因果と読む誤りは、文章でも棒グラフでも同じくらい強かった。別の2020年の実験3本では、米国の参加者がオンラインで、相関だけを示すデータを文章や図で見ました。相関は正しく認めつつ因果の解釈にも高く同意し、“causality ratings were highest for text descriptions and bar graphs, but weaker for scatter plots”(因果の評価は文章と棒で最も高く、散布図では弱い)と報告しています。
03量の読み取りは、何で表すかで正確さが変わる。1984年の論文は、図から量を読む基本の作業を正確さの順に並べる理論を立て、実験で一部を確かめました。二次資料の順位では、共通の目盛りの上の位置が最も正確で、長さ・角度が次に並び、面積・体積・色の濃さは下位です。読めたのは要旨までです。

以下の三つは、2020年の縦軸の実験の本文が報告したことです。参加者はオンラインで募った人で、見たのは題材を伏せたグラフです。日本の小さな店の売上グラフやチラシで同じことが起きるかは、確かめられていません。
01切ったことを示す印を付けても、誇張はほとんど変わらなかった。棒グラフに、軸の途切れを示す記号や、棒が枠の外へ続くように描く工夫を試しました。著者らは “the subjective impact of axis truncation is persistent across visualizations designs”(切り詰めの主観的な影響は、図の設計を変えても残る)と要約しています。
02数字を正確に読めていても、差は大きく見えた。数値そのものを読み取らせた実験でも、誇張は残りました。著者らは、この偏りは数字の読み違いではなく、差が目に大きく映ることに結びついているようだと書きます。目盛りを見落とす人は数値も読み違えうる、とも述べています。
03切ってよいかは、描き手の判断に残された。著者らは結果を「数値の軸は常にゼロから始めるべき」とは読まないと断ります。伝えたい意図によって切り詰めが役立つ場面も害になる場面もあると例で論じ、差をどの大きさで見せるかの責任は描き手から外せないと書きます。

シラバス側は、縦軸の切り詰めの影響を「条件しだい」とし、図はありもしない因果の印象を生むと置きます。読めた実験の答えは違います。誇張は図の種類や印に関係なく残り、条件しだいなのは切ってよいかという描き手の判断のほうです。因果の読み違いは文章でも同じくらい起き、図の種類やまとめ方で強まりも弱まりもしました。散布図なら安全という意味でもありません。
著者らも限定を置きます。縦軸の実験は試した図の設計が限られ、題材のない図なので、分野ごとの受け止め方の違いは捉えていないと書きます。因果の実験も一部で抽象的な変数名の図を使いました。2015年の研究、1984年の論文、総説は要旨まで、実務書は書誌までです。全文まで読めたのは6点のうち2点で、読めていないものについては書きません。
オンライン実験では、
縦軸を切ると、印を付けても、
差は大きく受け取られた。
シラバス側の看板「正しい数字でも、描き手の意図と読み手の知覚の両方で人は誤らされる」のうち、描き手の側を支えるのは縦軸の実験と2015年の研究、読み手の側を支えるのは因果の実験と1984年の論文です。ただし実験が測ったのは見せ方の効果で、描き手の意図ではありません。1954年の実務書は研究ではなく、読めたのは書誌までです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、最近見た、または自分で作ったグラフを一枚書く(月の売上の棒グラフ・チラシの図・SNS の数字など)。何のグラフかを一言添える。
- 02LOG
三つの点を順に見て、見たままを一言ずつ書く。①縦軸はどこから始まっているか。②大きさを位置や長さで表しているか、面積や色の濃さで表しているか。③二つの量が、原因と結果のように読める並べ方か。
- 03SORT
三つそれぞれに「気にならない」「差や関係が大きく見えうる」「分からない」の印をつける。描き方の良し悪しや直し方は決めない。
この号が運べたのは三段です。2020年の縦軸の実験で、切り詰めによる誇張が棒でも折れ線でも、印を付けても、数字を正確に読めていても残ったこと。別の2020年の実験で、相関を因果と読む誤りが文章でも棒グラフでも同じくらい強く、散布図で弱かったこと。1984年の論文が立てた順位で、共通の目盛りの上の位置が最も正確とされたこと。切ってよいかは描き手の判断として残ります。次の号は、有意差の意味を扱います。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「数字のトリックを見抜くには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
