IN DATA · ISSUE 532
● 12 SEC「大事な数字を一枚の画面にまとめれば、誰でも状況が分かる」。そう考えがちです。この号は、数字を一覧する画面(ダッシュボード)が「見える」から「読める」へ届くかを、6点で確かめます。2点は図の読み取りの研究をまとめた総説、1点は学生を対象にした実験、1点は世界の企業の管理職への調査、2点は図表の設計を説いた実務書です。
先に向きを言うと、背景の話を聞かされた学生は、グラフの中で自分に目立つ模様が、事情を知らない人にも目立つと予想し、無視するよう指示されても偏りは残りました。一方、シラバス側が根拠に挙げた「効果は道具より組織しだい」という結論は、その調査の読めた本文に見当たりません。この号は、画面の作り方を勧めることも、結果を日本の小さな店に当てはめることもしません。
ダッシュボードは、売上や在庫などの数字をひと目で見られるよう一枚にまとめた画面です(もとは車の計器盤)。2021年の総説は、生徒や同僚や一般の人にデータを伝える図について、研究に裏づけられた指針を整理し、目は画面から全体の傾向をすばやく掴む一方、設計のまずい画面は “misperceptions and illusions”(見誤りと錯覚)を招きうると書きます。

同じ総説は、全体の統計を掴むのは速いが、一部の値どうしを比べるのは遅いと整理しています。見えること、読めること、判断できることの間には距離がある——というのが、この号の読み筋です。問題は、その距離が、数字の事情を知っている側からは見えにくいことです。
01全体は速く掴めるが、部分の比較は遅い。まずい設計は見誤りを招きうる。2021年の総説は、図でデータを伝えるときの指針を研究から整理しました。よい図は作業記憶に負担をかけず、注意を導き、見慣れた約束事を守ると要旨は書きます。読めたのは要旨までで、個々の知見がどの実験に由来するかは確かめていません。
02図からの判断を、速い仕組みと遅い仕組みで説明するモデルが提案された。2018年の論文は、分野ごとに分かれていた図と意思決定の研究を見渡し、手間の少ない速い判断と、熟慮する遅い判断の二つの仕組みで説明する統合モデルを提案しました。静止した2次元の図の研究を対象に、この見方への支えを見いだしたと要旨は書きます。
03背景を知った学生は、自分に目立つ模様を、知らない人にも当てはめた。2020年の実験では、大学の学生がデータのグラフを見る前に、複数ある背景の話のどれかを読み、事情を知らない人に何が最も目立つかを予想しました。参加者は、自分の読んだ話で目立った模様を他人も目立つと予想しました。実験は4本で、各18・29・21・17人です。

以下の三つは、2020年の実験の本文が報告した、背景を知った参加者の予想の偏りです。著者らはこれを「知識の呪い」と呼びます。参加者は大学の学生の閲覧者で、グラフを作った本人ではありません。自分で作った画面で同じことが起きるかは、確かめられていません。
01無視するよう指示されても、自分の知識に引っぱられた。要旨は、参加者が “despite explicit instructions to ignore it”(無視するよう明示的に指示されたにもかかわらず)自分の知識に強く影響され、他人も同じ模様を最も目立つと見ると予想した、と書きます。
02同じグラフでも、読んだ話によって目立つ模様が変わった。著者らは、見る人は同じデータから多くの模様を取り出せるので、二人が同じ図に違う模様を見て、伝え違いが起きうると論じます。実験では、どの背景の話を読んだかで、参加者自身が目立つと感じる部分が変わりました。
03強調の注釈を外すと、偏りは半分に減ったが、残った。2本目の実験は、グラフの上の強調の注釈を外し、背景の話だけにしました。偏りは半分に減り、著者らは、背景の話と注釈の両方がこの偏りに寄与したと読んでいます。消えはしませんでした。

シラバス側は、効果は道具より組織のあり方しだいと置き、2017年の調査を根拠に挙げます。これは世界337社(うち139社は従業員250人未満)の上級管理職への質問紙調査で、分かったのは、BI(数字を集めて見せる仕組み)の導入がうまくいっていると答えた会社ほど、計画や測定・分析の実務もうまくいっていると答えていた、という自己申告の結びつきです。組織の能力や文化を条件にした分析は無く(規模・業種で群を分けた比較のみ)、「道具より組織」という結論も、読めた投稿版の本文にはありません。
著者らは、職員が道具を使いこなす力などの変数を加えると、結びつきをよりよく探れるかもしれないと書いています。実験の著者らも “all of the participants in these experiments were college students”(参加者は全員大学生だった)と断っています。日本の小さな店の画面を調べたものは、読めた範囲にありません。全文まで読めたのは6点のうち2点で、読めていないものについては書きません。
背景を知った学生は、
自分に目立つ模様が、知らない人にも
目立つと見積もった。
シラバス側の看板「効果は道具でなく設計と読み手に宿る」のうち、読み手の側を支えるのは学生の実験、設計の側を支えるのは総説の指針と、ダッシュボードの設計や図表の原則を説いた実務書2冊です。実務書は研究ではなく、読めたのは書誌までです。「道具でなく」を支える出典は6点に無く、編集側の命題です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、ふだん見ている数字の画面を一つ書く(売上表・在庫の一覧・SNS の数字など。紙でもよい)。その画面を見た人に、まず気づいてほしいことを一文で書く。
- 02LOG
事情を知らない人に、数字を伏せたままでもよいので30秒だけ見せ、「何が読み取れた?」と聞いて、相手の言葉のまま書く。相手がいなければ、日をおいて初見のつもりで自分で書く。
- 03SORT
二つを並べ、「一致した」「ずれた」「読み取れなかった」の印をつけ、ずれた点を一言で書く。直し方や道具の良し悪しは決めない。
この号が運べたのは三段です。2021年の総説が整理した、設計のまずい図は見誤りを招きうること。2018年の論文が提案した、図からの判断の速い仕組みと遅い仕組み。2020年の実験で、背景を知った学生が自分に目立つ模様を他人にも当てはめ、指示されても偏りが残ったこと。337社の調査が報告したのは導入の手応えと業績管理の実務の結びつきで、効果が道具より組織しだいとは書いていません。次の号は、相関と因果を見分けます。
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