IN LEGAL EXECUTION · ISSUE 455
● 12 SEC「ちゃんと見張っていれば、法改正には追いつける」。よく聞く言い方です。この言い方は、追いかける相手の量が、だいたい一定であることを前提にしています。
米国とドイツの連邦の法を1994年から2018年まで数えた2020年の研究では、米国法典の章は2,000から2,723へ増えていました。動いていたのは、追う相手の側です。ここで扱うのは米国とドイツの法の量の測り方であって、日本の条文の増減でも、個別の取引が適法かどうかの判定でもありません。
ウォッチとは、法や制度の改正を続けて見張ることです。言葉そのものに罪はありません。ただ、見張るという構えは、相手の位置が動くことは想定していても、相手の数が増えることまでは、あまり想定していません。では、法の量は数えられるのか。2010年代の研究が、法典を文書の網として測るという形で、いくつか答えを出しています。

測られたのは日本の法令ではなく、米国の法典と、ドイツの連邦の法でした。米国の法典は「編」の下に「章」が並ぶ形で組まれていて、数えられたのは、その器の数と、中に入っている語の量です。ここから運べるのは「量として増えている」という向きだけで、条文の中身ではありません。原文の全体まで読めたのは6点のうち3点で、残りは公式の要旨まで——読めていないことは書きません。
01章の数は、2,000から2,723になった。2020年の研究は、米国とドイツの連邦の制定法を1994年から2018年まで、条文どうしの参照でつながる網として測りました。語数でみた法の量は2018年に1994年の1.5倍を超え、米国法典の章は2,000から2,723になっています。増加の主な駆動因として著者が挙げたのは、“the expansion of the welfare state, backed by an expansion of the tax state”(福祉国家の拡大と、それを支える課税国家の拡大)でした。
02語の量も、構造の量も、増えていた。別の研究は、米国法典を2008年10月・2009年11月・2010年3月の3時点で測っています。法典は2,200万語を超える文書で、この約1年半のあいだに“the Code has grown in its amount of structure, interdependence, and language”(構造・相互依存・言語の量が増えた)と報告されました。測られたのは短い期間で、長い歴史の趨勢ではありません。
03複雑さの尺度は、三つ示された。2014年の研究は、法の複雑さを相対的に測る枠組みを示し、米国法典の編を採点して順位づけました。挙げられた指標は“structural size, the net flow of its intra-title citations and its linguistic entropy”(構造的な大きさ、編の内側の引用の正味の流れ、言語のばらつき)の三つです。2010年の測定と同じ二人による続きで、この号が読めたのは公式の要旨まで——編ごとの点数は引いていません。

相手が増えていくなら、同じ労力で見張っていても、網からこぼれる量は増えます。ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。思い出せるのは追った分野のほうで、追わなかった分野は記憶にも残りません。自分がどこを追えていないかは、日ごろの言い方のほうに出ます。
01「見ているから大丈夫」で止まっている。見ているという自覚と、こぼれていないという事実は別ものです。網羅を目標に置くと、こぼれた分は最後まで数に入りません。数えられるのは、追えた分野の数と、追えていない分野の数のほうです。
02すべての分野を、同じ濃さで見ている。契約・労務・税・個人情報——動く相手は同時に複数あります。全部へ均等に注意を配ると、いちばん痛いところへの注意まで薄まります。どれが痛いかを決めるのは研究ではなく、自分の商いの形のほうです。
03「次にどこを見るか」が、空欄のまま。最後に情報を見た時期と、次に見るつもりの公式の窓口。この二つが空欄の分野は、改正があっても気づく道筋がありません。空欄の数は、そのまま数えて記録できます。

数えられたのは米国とドイツの連邦の制定法で、期間は1994年から2018年、対象は連邦の立法機関に限られます。著者自身が、観測された成長が自分たちのデータに特有なのか、それとも普遍的なのかは判断しがたい、と書いています。日本の法令が同じ速さで増えたかどうかは、この研究からは言えません。
「法が増えたから商いが苦しくなる」とも言えません。米国では過去30年、年間の新規開業数と雇用の再配分のペースが大きく下がっています。連邦規則集の本文から産業別・年次の規制量をつくって突き合わせた2018年の研究は、“rising federal regulation cannot explain secular trends in economic dynamism”(増え続ける連邦規制では、経済の動きの長期的な趨勢を説明できない)と結論しました。増えているという事実と、それが何を左右するかは、別の問いです。
数えられたのは、相手の量。
追いつけるかどうかは、別の問い。
身近な例でいえば、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法・令和5年法律第25号)は2023年5月12日に公布され、2024年11月1日に施行されました——国の法令データベースで確認できる公式の記録です。業務を委託する側に一定の義務を課す法律で、公正取引委員会は運用状況や勧告、説明資料を公表しています(2026年9月時点)。この法が自分の取引に当たるかどうかの判定は、ここではしません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
今日の日付を書き、自分の商いに関わりそうな法分野を思いつくだけ並べる(契約・労務・税・個人情報など)。
- 02MARK
各分野に、最後に情報を見た時期と、次に見るつもりの公式の窓口を一言だけ添える。空欄のままでよい。
- 03COUNT
並べた分野の数と、空欄のまま残った分野の数を数えて、記録の最後に書く。
法の量は数えられ、そして増えていました。いっぽう、追う側に使える時間が同じだけ増えたという記録は、この号が読んだ範囲にはありませんでした。だとすれば、網羅を前提にした追随は最初から成り立たない——というのが、この号の読み筋です。数えられるのは、追えている分野の数と、空欄のままの分野の数。空欄が一つ埋まるたび、次の改正で見に行く先が一つ決まります。その先、自分の取引にどの条文が当たるかは、専門家の領分です。
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