IN LEGAL EXECUTION · ISSUE 453
● 12 SEC屋号、商標、自分で書いた文章や図。登録しておけば守られる——そう考えたくなります。たしかに登録は、権利があることを公に示します。ただ、その紙が相手を止めてくれるわけではありません。止めるのは行使、つまり気づき、警告し、交渉し、必要なら裁判に持ち込むところまでの手間のほうです。
先に、書かないことを二つ。目の前のまねが侵害に当たるかどうかの判定は、この号ではしません。もう一つ、ここで引く数字は米国の特許をめぐる記録で、日本の中小の費用感にそのまま置き換えられません。全文まで読めたのは7点のうち3点。読めていないものについては書きません。
知的財産は、特許・実用新案・意匠・商標や、著作といった、形のないものについての権利です。特許庁の中小企業向けの公式ページは、権利を取ることの効果として「権利侵害に対する法的措置」を挙げています。その法的措置に当たるのが行使(enforcement)で、登録の手続きとは別の作業です。登録が済んでいることと、止められることは、同じではありません。

では、その行使はどれくらい重いのか。米国に、手がかりがあります。1978年から1999年の米国の特許について、特許庁と連邦裁判所と業界の資料を結合した研究があり、題名は「小さな企業はハンディを負っているのか」と問う形です。答えのほうは “small patentees are at a significant disadvantage in protecting their patent rights”(小さな特許権者は、権利を守るうえで著しく不利な立場にある)。割り付けた実験ではなく、記録を突き合わせた観察です。
01訴訟に遭う度合いは、持ち数で違っていた。その研究は、個人や、持っている特許の数が少ない企業が保有する特許ほど “litigation risk is much higher”(訴訟に遭う度合いがずっと高い)と報告しました。取引に使える特許を多く持つ側は、侵害訴訟を自分から起こすことが少ない、とも書いています。1978年から1999年の米国の特許の記録で、観察された関連です。
02始まったあとの結末は、変わりませんでした。同じ研究は、訴訟が始まったあとの結末について “postsuit outcomes do not depend on these characteristics”(こうした性質によらない)と書いています。だから不利なのだ、というのが著者らの筋道です。遭う度合いが高いぶんを、解決の早さで埋め合わせられない。不利は判決の中身ではなく、巻き込まれやすさの側にありました。
03記録に残るのは、訴訟になった争いだけ。同じ著者らが2001年に出した別の論文は、地裁の提訴記録と特許庁のデータを結び、提訴された事件を対照群と比べました。“substantial variation across patents in their exposure to litigation risk”(特許ごとに、訴訟に遭う度合いは大きく異なる)。どの争いが表に出るかには偏りがあり、表に出なかったものは記録に残りません。

自分がいま、どちら側にいるのか。日ごろの言い方に、目印が出ます。
01登録の番号を、守りの証しにしている。登録は権利があることを示す手続きで、侵害を止める働きとは別です。米国の特許の記録で報告されたのは、権利の数が少ない側ほど訴訟に遭う度合いが高いという関連でした。番号が増えたかどうかと、行使の重さは、別々に置いておくほうが正確です。
02侵害に気づいた日の相談先が、決まっていない。特許庁は、知財の相談窓口を全国47都道府県に置き、無料で相談できると案内しています。公式の検索サービスで、先に取られている権利を調べられることも同じページに書かれています。これは用意されている制度の案内で、紛争が減ると測った数字ではありません。
03大きい側と、同じ土俵だと思っている。米国の特許の記録では、取引に使える特許を多く持つ側は侵害訴訟を自分から起こすことが少なく、訴訟が始まったあとの結末はそうした性質によらないと報告されました。同じ権利でも、行使まで持ち込めるかどうかは体力で変わる、というところまでが読めた範囲です。

ここまでの数字は、米国の特許をめぐる1978年から1999年の記録です。商標や著作は含まれず、日本の裁判所の費用感にも、そのまま渡せません。三点は公式の要旨までしか読めておらず、その中の数値はここに出していません。紛争の生まれ方を扱った理論の短報は、この分野のモデルが “take the existence of a dispute as given”(紛争があることを所与として扱う)と整理しました。数えた研究ではなく、理論の提案です。
行使の重さは、訴えられる側にもかかります。自ら製品を作らない主体(NPE)が起こした訴訟は2010年に2,600件を超え、2004年の5倍と集計されました。被告企業の株価を提訴の前後で見て、市場全体の動きを差し引いた累積異常収益(CAR)から推計すると、1990年から2010年の被告の富の喪失は半兆ドル超。集計は上場している被告に限られます。査読を経た研究誌ではなく政策を論じる雑誌の記事で、同じ記事は “In principle, NPEs can perform the socially valuable function”(原理としては、社会的に有用な役割を果たしうる)と擁護の側も並べています。
米国の特許の記録では、
遭いやすさのぶんを、解決の早さは埋めていなかった。
この号が並べたのは、登録をやめる理由ではありません。登録は権利があることを示し、公の支援も用意されています。特許庁は年次の報告を年ごとに公表し、中小企業向けのページでは、要件を満たせば審査請求料や特許料が減額されると案内しています。要件の話であって、紛争が減ると測った数字ではありません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
紙かメモに今日の日付を書き、自分が持っている知的財産を思い出せるだけ書き出す。
- 02SORT
登録済み(商標・特許・意匠など)と、未登録(自作の文章・図版・独自の手順・屋号など)に分ける。
- 03MARK
それぞれに、侵害されたらまず誰に相談するかを一言添え、空欄のままの数を数える。
ここから先は、読んだどの論文も言っていないこと——この号の見方です。守り切るとは、登録が済んだ状態ではなく、いざというときに誰に持ち込むかまで含んだ備え。米国の記録から言えるのは、不利が判決の中身ではなく、巻き込まれやすさの側にあったという関連までです。その先に何を置くかは、手元の棚卸しから始まります。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS知的財産を守り切るには?を、もっと深く学ぶ。→