IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 438

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

高く掲げるほど、伸びる。あえて手の届きにくい高さを置くストレッチ目標には、そういう期待がかかります。書き方の型に当てはめたら、あとは高さの問題だ、という順番です。

この号が読むのは、その高さをめぐって逆説を置いた6点です。ただし、その逆説を置いた一本は、データを集めた研究ではありませんでした。目標の書き方の型そのものの効き目については、書きません。

ストレッチ目標(stretch goal)は、いまのやり方の延長では届かない高さに置く目標のことです。2011年に学術誌へ出た論文は、この目標がどの組織で力になり、どの組織が手を出しやすいかを整理する枠組み(contingency framework=条件しだいで答えが変わる整理の仕方)を示しました。この論文は、観察や実験のデータを持たない理論の論文です。

理論の論文というのは、自分でデータを集めて確かめた報告ではなく、それまでの研究を組み立て直して、どの条件ならどうなるはずかを筋道として示す文章のことです。だから、ここから先に出てくる逆説は、測られた向きではなく、整理の結論として読む必要があります。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
逆説を置いたのは、条件しだいで答えが変わるという整理の枠組みだった。 Visual: ALIFE

では、どれくらい使われているのか。同じ著者たちが2023年に実務家向けの査読誌へ載せた短報には、ある業界を中心にした全国規模の調査があり、回答者のおよそ半数が、この1年のうちに勤め先で高い目標が使われたと答えています。使われている、という事実のほうは、ここまでははっきりしています。

同じ短報は、その常用ぶりを “Stretch goals are risky yet regularly used”(ストレッチ目標は危ういのに、常用されている)と書きました。ただしこの割合は、ある業界を中心にした回答者という分母の上の数字で、別の業種や別の規模の組織へそのまま持ち出せるものではありません。

01逆説を置いたのは、データの無い一本だった。2011年の論文は、届きそうにない目標を追う組織を整理して、こう結びました——“stretch goals are, paradoxically, most seductive for organizations that can least afford the risks associated with them”(ストレッチ目標は逆説的に、それにともなう危険をいちばん引き受けられない組織にとって、もっとも魅力的である)。測った結果ではなく、枠組みから導かれた結論です。

02条件は、直近の業績と、使える余力だった。2023年の短報は、それまでの研究を見直したうえで、こう置いています——“but only when an organisation has both strong recent performance and available slack resources”(ただし、直近の業績が強く、振り向けられる余力もある組織のときだけ)。それ以外の条件では意欲をそぎ、壊すほうへ働きやすい、と同じ要旨に併記されています。

03その3点は、同じ一続きの流れだった。2011年の枠組み、2022年のハンドブックの章、2023年の短報は、同じ著者たちが重ねた一続きです。2022年の章も、要旨の動詞が “assert”(主張する)で通っていて、データで確かめた結果ではなく概念の整理でした。しかもこの章が置いている問いは、不確かさをどう扱うかという別の側にあります。別々に確かめた3つの証拠としては数えられません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
理論、概念の章、実務家向けの短報。読めた3点は、同じ流れの上にあった。 Visual: ALIFE

この6点には、高さのほかに二つの話が出てきます。目標の焦点が狭いこと、そして倫理を曲げる誘惑のこと。ただしその二つについて、この号が読めたのは表題までです。手元で気づける形に置き直します。

01高さだけを見て、余力の話をしていない。読めた要旨が条件に挙げたのは、直近の業績と、目標に振り向けられる余力の二つでした。高さそのものではありません。いまの手元でその高さが持つのかを言葉にしていないとき、条件の側が抜け落ちています。

02目標に載らない仕事の話が、出てこない。2019年の2頁の短い論考が付けた表題は、“Goal setting theory—Firmly entrenched, but narrow in its focus”(目標設定理論——強固に根づいているが、焦点が狭い)。読めたのはこの表題までで、狭さが何を犠牲にするかまでは読めていません。載らない次元を書き出しておく、はここから先のALIFEの読み筋です。

03倫理の話を、人の資質の話にしている。2015年の論文の表題は、“Does Moral Justification Influence the Effect of Goals on Unethical Behavior?”(道徳的正当化は、目標が非倫理的な行動に及ぼす影響を左右するか)という問いの形です。読めたのはここまでで、答えも、誰を対象にした調べかも読めていません。誰かの資質の話として扱える材料は、手元にありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
余力、載らない仕事、倫理。手元に出る3つ。 Visual: ALIFE

全文まで読めた出典は、6点のうち1点もありません。要旨まで読めたのが3点、表題と書誌の情報までが2点、残る1点は出し手のサーバーが止まっていて開けませんでした。読めていないものについては書きません。

目標設定研究の出発点として名前が挙がる1980年の報告は、査読を経ない技術報告の版で、翌年に学術誌へ載った論文とは別の文献です。この号はそのどちらにも届いていないので、そこに何が書かれていたかは書きません。書き方の型の名前も、読めた範囲のどこにも出てきませんでした。

要旨が置いた線は、直近の業績と余力。
それ以外の条件では、逆へ働きやすい。

同じ要旨は、これまでの研究からすると、使っている組織の多くでは学習と業績に問題が出やすい、とも書いています。そのうえで、限られた条件のもとでは良い効果もありうる、と両方を置いています。片側だけを取り出せば、どちらの向きにも読めてしまう文です。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    自分が最近立てた目標を一つ選んで、そのまま書き写す。

  2. 02SORT

    その目標に載っていない、でも大事な次元を三つ挙げて並べる。

  3. 03RECORD

    いまの手元の資源と直近の状況を一言だけ書き添える。良し悪しの判定は付けない。

10分。誰かの目標を評価し直す課題ではなく、自分の記録だけで完結する作業です。これは研究結果そのものではなく、ALIFEが提案する記録の入口です。目標や処遇をめぐる制度の判断は、社会保険労務士・弁護士など専門家の領域です。

高く掲げるほど伸びる、という言い方は、読めた範囲では支えられていませんでした。2011年の枠組みが置いたのは、危険をいちばん引き受けられない組織ほど、その高さに惹かれるという逆説です。測って出た向きではありません。だとすれば、掲げる前に、いまの余力と直近の状況を一言だけ書いておく——というのが、この号の読み筋です。ここで言えるのはそこまでで、効き目が確かめられた手順ではありません。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「目標を正しく立てさせるには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。