IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 434

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

報酬テーブルを見せれば、納得してもらえる。段ごとの幅と、その中心の目安。基準が見えれば不満は収まるはずだ——そう考えたくなります。

この号が読むのは、見せた先で実際に何が動いたかを測った5点です。見せれば納得する、という因果は書きません。

報酬の透明化(pay transparency)は、誰がどんな基準でいくら受け取っているかを、当人の外からも見える形にすることです。引いた5点のうち3点は額が見える状態を作った先で、1点は支払いに差をつけた先で、満足・働く時間・出来高・支払う額のどれが動いたかを測っています。残る1点は成果に応じた給与と満足の関係を調べたもので、見せ方を切り替えてはいません。測っている面は、それぞれ別です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
動いたのは、満足・働く時間・出来高・支払う額。測られた面はそれぞれ別。 Visual: ALIFE

では、見せれば納得するのか。全文まで読めたのは5点のうち3点。その範囲では、話は三つに分かれます。比べる相手が上か横かで向きが変わること、差の理由が見えるかどうかで効きが出なくなること、そして見せること自体が支払う額を動かすこと。

01比べる相手が上か横かで、向きが逆になった。東南アジアの大手商業銀行で働く2,060人に、上司や同僚の実際の給与額を伝えた現場実験です。上司の給与を高く知った人ほど、その後90日の在館時間が伸び、同僚の給与を高く知った人ほど、在館時間・送信メール数・売上は落ちました。弾性——1割高く知ると何%動くかの比——は、上向きが0.150、横向きが在館時間−0.94・メール数−0.431・売上−0.731。上向きと横向きの効果が等しいという仮説は棄却された、と書かれています。

02差の理由が見えるときは、効きが見て取れなかった。インドで季節の製造業に1か月就いた378人を、3人ひと組の生産単位ごとに、同額の日給か、事前の生産性の順に差をつけた日給かへ無作為に割り付けた実験です。差をつけた側では、出来高が0.24標準偏差(ばらつき1つぶんを1とした目安)、出勤が12%下がりました。ただし、同僚の生産性の違いがはっきり見える作業では、出来高・出勤・結束のいずれにも見て取れる差は出ていません。

03見せる仕組みの先で、上の報酬が約7%下がった。2010年、米国カリフォルニア州で自治体の職員給与をウェブ上に掲示することが義務づけられました。すでに公開していた自治体の管理職と比べると、上位の管理職の報酬は平均で約7%下がり、離職率は75%上がっています。著者は、この反応を “public aversion to high compensation”(高い報酬に対する世間の忌避感)と整合的で、説明責任が高まった効果としては説明しにくいと書いています。到達したのは公式の抄録までです。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
比べる相手の向き、差の理由の見え方、支払う額そのもの。まず測られたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

自分がどの比較を目立たせているのか。手がかりは、制度の大きさではなく、手元の言い方のほうに出ます。

01見せる場所は決めたが、見られる相手を決めていない。米国のある大学の職員に、同僚の給与を調べられる場所があることを無作為に知らせた実験では、新しく見に行った人の大半が、自分と同じ部署の人の額を調べていました。場所を作ることと、誰の額が並ぶかは、別に決まります。

02下がった側と変わらない側を、ひとまとめにしている。同じ実験で、所属と職種ごとの中央値(真ん中の額)より下だった人は、給与と仕事の満足を下げ、転職を探す確率を上げたと報告されています。中央値より上だった人には、満足の上昇も転職探しの変化も出ていません。平均だけを見ると、この非対称は打ち消し合います。

03効き方が、人によって偏っている。成果に応じた給与と仕事の満足の関係を調べた2008年の研究は、差し引きでは満足を上げるとしつつ、その効きが組合に入っている人と、規模の大きい企業で働く男性に大きく偏っていたと報告しました。上がる人がいることと、全員に同じだけ効くことは別です。この号が到達したのは抄録までで、標本の国は印字がありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
見られる相手・下側だけの動き・効きの偏り。手元の言い方に出る3つ。 Visual: ALIFE

数字はどれも、別の場所の別の人たちのものです。在館時間と売上が動いたのは東南アジアの一つの銀行、出来高と出勤が動いたのはインドの季節の製造業の現場、報酬が下がったのは米国の自治体。日本の職場や、数人で分け合う報酬にそのまま置き換えられる数字ではありません。

もう一つ。大学の実験では、知らせるメールを送ること自体が追跡調査への回答率を下げており、その下げ幅は中央値より上の人(−4.04%)と下の人(−3.60%)でほぼ同じで、著者らは一様な効果を棄却できないと書いています。分析に残ったのは、回答して給与記録と結びついた6,411人でした。

差の理由がはっきり見えるとき、
効きは見て取れなくなった。

差をつけた実験の著者らは、差の理由がどれだけ納得できるものとして受け取られるかを、効きを和らげる要因に立てています——“Perceived justifications play an important role in mitigating these morale effects.”(納得できる理由は、この士気への効きを和らげるうえで重要な役割を果たす)。同じ論文は、現場では管理者が賃金を伏せていても、月末には86.6%の働き手が同じ組の2人の賃金を正確に言えたとも記しています。伏せることと、知られないことは別でした。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    今日の日付を書き、自分が報酬を決めている相手を一人ずつ挙げる。

  2. 02MAP

    それぞれについて、その人が自分の額を誰と比べうるか(隣の席・同じ役割・前の職場)を書く。

  3. 03COUNT

    いまの決め方が目立たせているのは横の比較か、次の段への見通しか。どちらかを選び、人数を数える。

10分。相手に希望や不満を聞く課題ではなく、相手を格付けする課題でもありません。自分の記録だけを見る作業です。これは研究結果そのものではなく、ALIFEが提案する記録の入口です。給与や待遇の適法性の判断は、社会保険労務士・弁護士など専門家の領域です。

テーブルを開くことは、基準を示す行為であると同時に、誰と誰を並べるかを決める行為でもあります。見せ方や差のつけ方を変えた4点が測っていたのは、見せれば納得するかどうかではなく、比べる相手が上か横か、差の理由が見えるか、そして見せたあとに支払う額がどう動いたか——というのが、この号の読み筋です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「報酬に納得感を持たせるには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

中央値
全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。