IN ACCOUNTING · ISSUE 427

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「資料さえ揃えておけば、調査は怖くない」。半分は当たっています——揃えておけば、出せるはずのものが出せないという部分は減ります。けれど残りの半分は、書類棚の中にはありません。

この号が置くのは二つです。一つは、日本の税務調査の手続きが法律の条文に書かれていること。もう一つは、会社の財務諸表の監査をめぐって調べられてきた「期待の溝」。後者は外部の監査人についての研究で、税務調査を調べたものではありません。調査への応じ方も、税や法律の判断も、この号は書きません。

税務調査は、税務署などが申告の内容を帳簿書類で確かめる手続きです。財務諸表の監査(外部監査)は、独立した監査人が、会社の財務諸表が適正かどうかを確かめて意見を述べる仕事です。義務づけられる相手も、根拠になる決まりも別のものです。共通しているのは、外の目があなたの記録に「これは確かか」と問う場面だ、ということだけです。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真
税務調査は日本の法律の手続き、期待の溝は会社の外部監査の研究。別の場所の話として置く。 Visual: ALIFE

まず税務調査のほうから。日本では国税通則法に、調査の手続きが条文として書かれています。2011年(平成23年)の改正で加わり、附則によれば2013年(平成25年)1月1日以後に行う質問や検査から適用されました。条文が何を定めているのかを、三つに分けて読みます。

01先に知らせる、と書かれている。第74条の9の第1項は、実地の調査で質問や検査などを行わせる場合、税務署長等はあらかじめ、その納税義務者(税務代理人がいればその人を含む)に対して通知する、と定めています。条文の言い方は「あらかじめ、当該納税義務者…に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする」です。

02知らせる中身も、条文に並んでいる。通知する事項として条文が挙げるのは、調査を開始する日時、行う場所、目的、対象となる税目、対象となる期間、対象となる帳簿書類その他の物件、そして政令で定めるその他の事項の七つです。同じ条の第2項は、日時と場所について合理的な理由を付した変更の求めがあれば、協議するよう努める、とも書いています。別の条文(第74条の10)は、この通知を要しない場合も定めています。

03書かれているのは要件で、安心ではない。この条文が定めているのは、誰が・いつ・何を通知するかという要件です。揃えておけば調査が怖くなくなる、という効果を定めた条文ではありません。要件と効果は別のものです。条文が自分の場合にどう当てはまるかは、税理士や公認会計士など資格を持つ人の領分で、この号の外にあります。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
条文が定めるのは、先に知らせること、知らせる中身、そして変更の求めへの協議。 Visual: ALIFE

では、揃えても埋まらない半分のほうへ。ここから並べる三つは、いずれも会社の外部監査を調べた研究です。日々の記録に重ねて読めるところはありますが、それは研究の一般化ではなく、この号の読み筋です。

01溝は、二つに分けて調べられた。1989年にニュージーランドで行われた実証研究は、社会が監査人に期待することと、監査人の仕事ぶりとして受け取られるものの差を二つに分けました。要旨の言い方は “it is seen to comprise ‘reasonableness’ and ‘performance’ components, the latter being subdivided into ‘deficient standards’ and ‘deficient performance’”——合理性と実行に分かれ、実行はさらに基準の不足と実行の不足に分かれる、というものです。それぞれがどの割合を占めるかは、この号が読めた要旨には書かれていません。

02制度を変えても、残ると書かれた。2011年にドイツで行われた質問紙調査は、公衆が現行の基準のもとでの監査人の責任について誇張された期待を持つこと、監査人の側も自らの責任を十分には認識していないことを報告しました。監査意見の情報量を増やせば溝は縮むと見込まれる一方、監査人の強制ローテーションや非監査業務の禁止といった当時の提案は、縮める程度が小さいかもしれない、とも書かれています。

03集まって話すと、読み切っていなかった。2011年に公表された別の研究は、作成者(財務責任者)、利用者(銀行員・アナリスト・専門家でない投資家)、外部の監査人という五つの立場を集め、集団面談(フォーカスグループ)で監査報告書の受け取り方を聞きました。利用者は監査を価値あるものと見ていながら、報告書を全部は読んでおらず、報告書が何を伝えようとしているのか、どの程度の保証なのかが、三者とも明確でない、と報告されています。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
分けて測る、制度を変える、集めて聞く——外部監査をめぐる三つの調べ方。 Visual: ALIFE

いま並べた四本は、いずれも会社の財務諸表の監査を調べた研究です。日本の税務調査を調べたものではありません。期待の溝の話を、そのまま税務調査の話に置き換えて読むことはできません。標本も限られています——1989年のニュージーランド、2011年のドイツ、そして英国の郵送質問紙。英国の調査が尋ねたのは、公認会計士(実務)・企業の財務担当役員・投資アナリスト・銀行の融資担当者・経済記者の五職種です。

英国の調査で読めた要旨は方法の記述で終わり、溝の存在を結論として述べた文はありません。集団面談の研究も、標本の国は要旨に印字がありません。全文まで読めたのは、六点のうち一点——日本の法律の条文だけです。ほかの四本は公開された要旨まで、同じ主題の1992年の論文は書誌までで、中身は読めていません。読めていないものについては書きません。

期待の溝は、書類棚の中ではなく、
その外に残っていた。

——というのが、この号の読み筋です。研究が測ったのは社会の期待と監査人の仕事ぶりの差であって、誰かの書類棚の中身ではありません。揃えることに意味が無い、という話でもありません。揃えることで応えられるのは、問われたときに出せるかどうかのところまで。期待そのものは、別の場所にあります。

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  1. 01LIST

    直近の取引をいくつか選び、日付だけを書き出す。

  2. 02SORT

    記録と証憑を「すぐ出せる/探せば出る/見当たらない」の三つに分ける。

  3. 03COUNT

    三つの区分の件数を数える。相手の名前も、理由も書かない。

10分。誰かを疑ったり、模擬的に問い詰めてもらったりする課題ではありません。自分の記録と手元の証憑だけで完結します。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を変えてみるためにALIFEが提案する入口です。税や法律の判断が要る場面では、税理士・公認会計士など資格を持つ人が先です。

条文が定めているのは、先に知らせることと、知らせる中身でした。予見できる手続きには、予見できる備えで応じられます。ただし、その備えが届くのは、出せるかどうかというところまでです。読めた四本が測ったのは、その先——何を期待するか、という側の差でした。揃えることの意味は、怖さが消えることではなく、日々の記録の帰結として、問われたら出せる自分でいられることのほうにあります。

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