IN MARKETING · ISSUE 360

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「テレビは信頼、ネットは安い、チラシは地元」——媒体ごとに役割を割り振れば、全体はうまく組める。媒体の使い分けは、そういう話として語られてきました。

けれど、複数の研究を束ね直した推定を読むと、順番が入れ替わります。いちばん長く尾を引いたのは、人が売った分でした。そして「どの媒体がどれだけ効いたのか」は、同時に出した時点で分けにくくなります。この号は、配分の正解を書きません。

メディアプラン(メディアミックス)は、チラシ・ネット広告・店頭の掲示・郵送・口づて・催しなど、複数の届け方をどう組み合わせ、どこにどれだけ割くかの配分のことです。リーチは何人に届いたか、フリークエンシーは一人に何回届いたか。配分は、この二つの言葉の上で語られます。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
割合をきれいに描けることは、各媒体の効きが別々に分かっていることを意味しません。 Visual: ALIFE

では、どの媒体がどれだけ効いたのかは、どこまで測れているのか。ここから出てくるのは、多数の研究を束ね直した推定と、複数の媒体に同時に出せる広告主の手元のデータです。どれも、あなたの一件を測ったものではありません。

01ばらついたのは、モデルの立て方と、製品や場の違いだった。1984年に Journal of Marketing Research 誌へ出たメタ分析は、広告と売上を扱った128の計量モデルを、不完全な追試とみなして束ね直しました。報告されたのは——“For short-term advertising elasticities, systematic variability is found related to model specification, estimation, measurement, product type, and setting of study.”(短期の広告弾力性には、モデルの立て方・推定・測定・製品の種類・研究の設定に結びついた体系的なばらつきがある)。広告弾力性は、広告費を1%増やすと売上が何%増えるかの比。対象は主に米国の成熟した製品です。

02尾の長さは、手段で違った。2017年に同誌へ出たメタ分析は、2015年までの研究から二つの束ね直しを行いました。ひとつは効果全体に占める長期分の割合の推定918件、もうひとつが——“the second focuses on 863 derivable estimates of 90% implied duration intervals”(二つめは、9割が出きるまでの期間の、導出できる推定863件に絞る)。数も対象も別の系列です。割合の平均は人が売る販売0.687・宛先を絞った広告0.650・広くまく広告0.523、期間の中央値は順に12.6か月・2か月・3.4か月でした。

0310のうち7が、購買に結びついた。2013年に同誌へ出た事例研究は、大手の小売1社が一度に投じた1回のキャンペーンを調べました。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・ネットの表示広告・検索連動・交流サイト・カタログ・郵送・メールの10媒体。購買の結果に結びついたのは——“seven of the ten media significantly influence purchase outcomes.”(10媒体のうち7つが、購買の結果に有意に影響する)。1社・1回ぶんの観察であり、ほかの場面の順位表にはなりません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
ばらつき、尾の長さ、10のうち7。三つとも別の研究で、ひとつの答えにはなりません。 Visual: ALIFE

切り分けられていない状態は、日常の言い方のほうに先に出ます。

01「テレビは格が上」で、並べている。2014年に同誌へ出た比較は、複数の業種にまたがる20のキャンペーンで、ネット広告とテレビ広告をブランド想起のリフト(広告に触れた人の想起の持ち上がり)で比べました。著者たちが要とみなしたのは——“accounting for differences in preexisting brand knowledge is paramount”(事前のブランド認知の差を考慮することが最重要)。この調整をしないとテレビのほうが効いて見え、調整して初めて両者は見分けられなくなりました。測ったのは想起で、売上ではありません。

02同時に出した分を、足し算している。2003年の報告は、消費者市場のあるブランドの市場データで、テレビ広告と印刷広告のあいだに相乗効果(シナジー)があることを確かめました。2009年の別の報告は、ある自動車ブランドの市場データで、オフライン(テレビ・印刷・ラジオ)の内側と、オフラインとネット(バナー・検索)のあいだの両方に相乗効果があるとしています。年も標本も別の研究で、ひとつの主語には束ねられません。

03足し引きの、引きのほうを忘れている。2014年に同誌へ出た別の研究は、高級衣料の小売1社のデータで、媒体をまたぐ効果は存在し、またぎの弾力性は自分自身の弾力性とほぼ同じ高さだと報告しました。ただし同じ研究は、伝統的な広告が検索連動のクリック率を下げ、その分だけ伝統的な広告のまたぎの効果が差し引かれるとも書いています。またぎは、上乗せの側にも差し引きの側にも出ます。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
格で並べる、足し算にする、引きを忘れる。三つとも、同時に出した分を分けたつもりでいます。 Visual: ALIFE

ここまでの実証は、複数の媒体に同時に出せる広告主の手元のデータから採られています。大手の小売1社、高級衣料の小売1社、複数業種の20キャンペーン、ひとつの自動車ブランド——一つか二つの届け方しか使わない売り場では、そもそも配分という問題が立たないこともあります。手渡しや口づてのような数えにくい届け方は、この種のデータの外にあります。

来歴も断っておきます。全文まで読めたのは7点のうち0点で、どれも公式の抄録までです。読めていない部分については書きません。ついでに一つ——よく言われる「広告弾力性は総じて小さい」という言い方は、読めた範囲の抄録に印字がありません。ここで運べるのは、ばらつきが体系的だった、というところまでです。

いちばん長い尾を引いたのは、
人が売った分だった。

ただし、これは「だから対面で売れ」という話ではありません。束ねられたのは2015年までの研究で、出てくるのは手段ごとの平均と中央値です。あなたの一件が、その真ん中に来る保証はありません。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    過去に自分が使った届け方を、思い出せる範囲で書き出す。チラシ、告知、掲示、郵送、口づて、催しなど。

  2. 02MARK

    それぞれに「単独で出した」か「ほかと同時に出した」かの印を付ける。

  3. 03CHECK

    効いたと感じたものが単独だったか同時だったかを確かめ、同時のものに「切り分けていない」と書き添える。順位は付けない。

10分。誰かに聞いたり、新しく出したりする必要はありません。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を作るためにALIFEが提案する実践入口です。

この号が運べたのは、配分の正解ではありませんでした。束ね直した推定のばらつきはモデルの立て方と製品や場の違いに結びつき、尾の長さは手段によって違い、10媒体を一度に投じた小売1社の1回では7つが購買に結びついた——そこまでです。どれも、あなたの売り場の順位表ではありません。

それでも手元に残るものがあります。効いたと感じたあの一手が、単独だったのか、ほかと同時だったのか。その区別だけは、誰の推定にも頼らずに、自分の記録から作れます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「媒体を使い分けるには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
中央値
全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。