IN MARKETING · ISSUE 357
● 12 SEC「残りわずか」「本日限り」「先着◯名様」。今買う理由を作る、といえばまずこの形が出てきます。数が少ない、期限が近い——その事実で価値が高く見える押し方を、希少性と呼びます。
買うと何がどれだけ手に入り、いつまでで、いくらか——取引条件の提示をオファーと呼びます。この号が扱うのは、そのうち希少性です。返報性や社会的証明といった他の押し方は扱いません。確かめられてきたのは原理が実在することのほうで、あなたの売り場で売上が動くことではありません。 偽の在庫表示や偽の締め切りの作り方も書きません。
出発点は、1975年に Journal of Personality and Social Psychology 誌へ出た実験です。女子学生146人を条件に無作為に割り付け、瓶に入ったクッキーを評価してもらいました。中身が2枚の瓶のクッキーは、10枚の瓶のクッキーより高く評価されました。 最初は多く、途中で減った条件では評価はさらに上がり、減った理由が事故ではなく他の人の需要だとされた条件のほうが高く出ています。ただし測られたのは評価であって、購買でも売上でもありません。

では、効き目のほうはどこまで測られているのか。同じ問いを調べた研究の結果を統計的に一つにまとめ、平均的な効き目を出す手法をメタ分析と呼びます。2022年に Journal of Retailing 誌へ出たメタ分析が、50年ぶんの研究を束ねて答えています。
01買う意図への平均は、小さめだった。131研究・416効果量を束ねたうちの、購買意図の分だけで効果量193件・22,655人。その平均は δ=0.31——2つの条件の差をばらつきで割った値で、一般的な目安では0.2が小、0.5が中。特別さの見え方は0.52、人気の見え方は0.71と、買う意図より大きく出ています。個々の研究の結果は一様ではありません。
02型そのものの差は、はっきりしなかった。購買意図で見ると、需要によるもの(人気で品薄)は効果量90件・9,459人で δ=0.28、供給によるもの(数が少ない)は64件・9,056人で 0.39、期限によるものは27件・3,265人で 0.34。三つの差は統計的にはっきりせず(Q(2)=1.76、p=.414)、明確な差とは言えませんでした。 95%信頼区間はそれぞれ0.18〜0.38、0.26〜0.51、0.16〜0.53です。
03分かれたのは、商品と組み合わせたとき。同じメタ分析で、実用寄りの商品に限ると、需要によるものが δ=0.41、供給が −0.02、期限が 0.02 と分かれました(Q(2)=12.38、p<.01)。−0.02 と 0.02 は、それ自体では明確な差とは言えない値です。快楽寄りの商品では逆に、供給が 0.55、需要が 0.17 でした。向きは商品で変わります。

型が効いたという報告は、いつも条件つきで書かれています。条件のほうを落として、型だけを持ち帰っていないか。自分の告知がどちら側にいるか、手がかりは使っている言葉のほうにあります。
01効いた型を、そのまま移している。2011年に Journal of Advertising 誌へ出た研究は、2つの研究から、数量限定のメッセージのほうが、時間限定より購買意図への働きかけが強いと結論しました。その差は象徴的なブランドでさらに大きく、消費者どうしの競争が効果を媒介していました。機能的か象徴的かというブランド概念が条件です。この号が読めたのは、公開されている要旨までです。
02「限定版」を、ひとつの言葉で扱っている。2015年に Psychology & Marketing 誌へ出た研究は、限定版の商品を対象に、時間の限定と数量の限定の効き方の違いを、買う人の独自性への欲求という観点から調べました。限定版という限られた場面の話で、あらゆる限定に広げられるものではありません。この号が読めたのは、要旨の範囲までです。
03買えなかった人を、数えていない。2021年に Psychology & Marketing 誌へ出た研究は、実験と相関の2つの研究で、数量限定として宣伝された商品を入手できなかった人のほうが、他のブランドへ乗り換える意図が高いと報告しました。その関係には怒りが介在していました。操作されたのは入手できたかどうかで、表示が本当かどうかではありません。

希少性を人を動かす原理として広めたのは、1984年に出た一般書 Influence: The Psychology of Persuasion です。この号が確かめられたのは1988年版 Influence: Science and Practice の書誌までで、中身は読めていません。由緒として参照できますが、効き目の証明は別の研究が負っています。 全文まで読めたのは6点のうち2点で、読めていないものについては書きません。
標本も断っておきます。1975年の実験は、米国の大学の心理学入門の授業から集めた女子学生146人でした。2022年に束ねられた効果量のうち、実際の売り場で採られたものは6件だけで、残りの384件は「もし〜だったら」を尋ねた場面のものでした。束ねた平均は、あなたのお客さんを一人も含んでいません。 この号は、数量限定と時間限定のどちらが優れているかも決めていません。2011年の研究が向きを示したのは、その研究が置いた商品とブランドの条件の中でのことです。
確かめられたのは、原理のほう。
あなたの売り場は、まだ数えられていない。
線を一本だけ引きます。数や期限が本当にあることを伝えるのと、在庫があるのに「残りわずか」と出すのとでは、やっていることが違います。この号は、後者の作り方も、表示のルールの当否も書きません。 手元でできるのは、自分がこれまでに使った言葉が事実だったかを、数えることです。数えるのは売れ行きではなく、その表示が本当だったかどうかのほうです。
TRY IT TODAY
- 01LIST
過去の告知・投稿・チラシ・商品ページから、「残りわずか」「本日限り」など希少性の言葉を含むものを、思い出せるだけ書く。
- 02MARK
それぞれに「事実」「盛った」「覚えていない」の三つの印のどれかを付ける。売れ行きは書かない。
- 03COUNT
「事実」の数と「盛った」の数を、それぞれ一つの数字で書き添える。0件でも、そのまま記録する。
半世紀で確からしくなったのは、「限定を付ければ売れる」のほうではありません。2022年に束ねられた効き目は小さめで、商品と組み合わせたときに分かれます。2021年の研究では、買えなかった人のほうが乗り換える意図が高くなっていました。増えたのは効き目ではなく、そこに付く条件のほうでした。原理の名前は、効果の保証書ではありません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「今買う理由を作るには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

