IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 294
● 12 SEC「失敗から学べ。」——この号が見るのは、その一句が誰の失敗を指しているか、そして、どの失敗が数えられる場所まで残ったか、です。
使った資料は6本。全文まで読めたのは2本で、どちらも雑誌に載る前の版(保存庫の受理稿と投稿稿)。残る4本は要旨までで、要旨にない数値は書きません。
うち1本は心臓外科の手技の記録で、結果の変数は患者の院内での術後の死亡そのもの——亡くなったなら1、そうでなければ0の2値です。ただし術式の是非も治療の選び方も健康の助言もありません。使うのは、同じ人が同じ作業をくり返した記録が10年分そろっているという性質だけ。
2013年の研究が、この一句を個人の水準で測りました。米国マサチューセッツ州で1999年10月から2009年9月までに心臓外科の新しい術式で行われた手技6,570件のうち、欠けのあった54件を除いた6,516件。外科医71人、10年分。患者が亡くなったなら失敗、「他人」は同じ病院の他の外科医です。
要旨の結論は、個人は自分の失敗からよりも自分の成功から、他人の成功からよりも他人の失敗から、より多くを学ぶ。使われたのはロジスティック回帰〔=結果が2値のときの回帰〕で、死亡が従属変数なので負の係数が良い向きです。
自分の失敗は0.1709(p < 0.05〔=5%水準〕)で符号は正——"individual failure does not lead to an improvement in surgical outcomes"(個人の失敗は成績の改善につながっていない)。標準偏差1つ分で76%下がる換算。自分の成功は−0.00727(p < 0.05)で負、46%の改善。二つが等しいという仮説は棄却(p = 0.02)。
他人の失敗は−0.0354、ただしp < 0.10=10%水準で、5%水準には届きません(明確な差とは言えない側です)。換算は37.5%の改善。他人の成功は−0.00019、p > 0.10で有意な関係を示しません。成功が1件増えるごとに失敗はより多くの学ぶ機会を与える(−0.00189、p < .01)とも。

ただしこれは観察研究で、患者も外科医も無作為に割り付けられていません。原典自身が、結果から因果の結びつきは引き出せないと書きます。組織の水準では、別の3本が違う軸を立てました。
01原因がばらけているほど、その後の事故率は下がっていた。2002年の研究(要旨まで)。米国の商業航空会社が1983年から1997年に経験した事故と重大事象で、学びは発生率の低下で測ります。原因の異質性は事故率を下げる——単純な説明より深く広い探索を生むからです。ただし恩恵は主に専業型で、総合型は他社の経験や技術の改善から学ぶ。
02自分から出した回収のほうが、多くの学習をもたらした。2004年の研究(要旨まで)。要旨は自律性を重くみる理論と外圧を重くみる理論を両方置き、文献は食い違うと書きます。米国で乗用車を売った自動車メーカーの1966年から1999年の全回収で、その後の非自発的な回収の減少で測ると、自発的な回収のほうが多くを学ばせた。ただし効果は総合型と専業型で異なります。
03期待の水準から離れているとき、自社の経験からは学びにくかった。2007年の研究(投稿稿の本文まで)。刊行版の要旨は「クラス1貨物鉄道」ですが、投稿稿の本文は、標本にクラス1の全社とクラス2のうち規模上位25社が含まれると印字——1975年から2001年の米国の貨物輸送量の97%超です。測るのは運行1マイルあたりの事故費用(1988年のドル換算)。離れるほど他社の経験から多くを得ていました。

4本が数えた失敗は、患者の院内での死亡、航空の事故と重大事象、製品の回収、鉄道の事故。どれも、外部に報告する様式のある出来事です。鉄道では、その入口が金額で印字されています。
"damage greater than the annual dollar value serving as a reporting threshold ($6,700 for calendar year 2002)"(その年ごとに定められた報告の基準額を超える損害)。この線を超えた事故だけが連邦機関に届け出られ、年に2,500件から3,000件が記録に加わる。6,700ドルは固定額ではなく、2002年の値です。
線を超えたものだけが届け出になり、届け出だけが研究の数字になりました。動かなかった試作にも、切れた予算にも、様式はありません。ただし「様式のない失敗は残らない」と測った研究は、この号にはありません。
01「失敗から学べ」——誰の失敗かで、向きが変わっている。要旨が並べた二つは、確かさが同じではありません。自分の成功と自分の失敗の差は5%水準で、係数が等しいという仮説も棄却されました。他人の失敗は10%水準にとどまり、他人の成功は有意な関係を示しません。
02「失敗の数が多いほど学べる」——効いていたのは、原因のばらけ方。2002年の要旨が書くのは件数ではなく、原因の異質性が事故率を下げること。同じ数でも、原因が一種類に寄れば探索はそこで止まります。そして恩恵は主に専業型で、総合型は外部から学ぶ——後半を切れば別の話です。
03「記録を集めれば学べる」——集まるのは、様式のある失敗のほう。2002年の基準額6,700ドルを超えた損害だけが、年に2,500件から3,000件、データベースに積まれます。組織は失敗を過少に標本抽出しうる、という趣旨は2013年の受理稿の限界の節にもありますが、それは別の先行研究を引いた一文で、この研究の測定ではありません。

全文まで読めたのは6本のうち2本で、どちらも雑誌に載る前の版。読めていない範囲については書きません。地名は版面に印字がある分だけで、米国とマサチューセッツ州。期間は1966-1999年、1975-2001年、1983-1997年、1999年10月-2009年9月です。
これは経営の助言ではありません。医療の話でもありません——結果の変数が患者の院内術後死亡である研究を使いましたが、術式の是非にも治療の選び方にも触れていません。読めた6本のどこにも無作為な割り付けは無く、この記事はどこにも「〜が〜を起こした」とは書いていません。
数えられた失敗の入口には、金額の線が引かれていました。
2002年の線は、6,700ドルでした。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。聞いた言い方を書き写すと何が起きるかを測った研究は、この号にはありません。判定はしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
この1週間で見聞きした「失敗から学ぶ」「振り返ろう」という言い方を1つ選び、誰の失敗を指していたかだけを、「自分の」「他人の」「どちらとも読めた」の3語のどれかで書く。**名前は書きません。**
- 02NOTE
外部へ報告する様式があったかを、言われていた範囲だけで書く。「様式あり」(届け出、回収、公的な報告書)、「様式なし」(口頭、雑談、メモ)、「記載なし」のどれか。調べに行きません。
- 03CHECK
数字が付いていたら、数字と分母(何件のうち何件か)と、いつのものかを書き写す。無ければ「記載なし」。記録するのは、この3行だけです。
年の順に並べると、2002年に原因の異質性、2004年に自発か強制か、2007年に期待の水準からの距離、2013年に自分のか他人のか。2018年の総説(要旨まで)は、見せかけの成功と見せかけの失敗が学ぶ機会を下げる場を騒がしい学習環境と名づけ、2025年の学術書の一章(要旨まで)は、新しい実測ではなく並べ直しです。
確かめられたのは四つ。2013年の研究が手技6,570件のうち6,516件を外科医71人で分析し、結果の変数を患者の院内術後死亡としていたこと。誰の失敗かで符号が変わり、他人の失敗は10%水準どまりだったこと。2002年の恩恵は主に専業型で、2004年の効果も型で違ったこと。2007年の標本がクラス1だけではなかったこと。今日残せるのは判定ではありません。誰の失敗か、様式の有無、分母と年。3行の記録が、1件残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「失敗から学びを残すには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
- 標準偏差
- ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。
