IN CUSTOMER · ISSUE 250
● 12 SEC「使ってもらえば、離れにくくなる。」だから活用の度合いを上げよ、と言われます。この号が追うのは上げ方ではなく、その土台の一本が何と結びついていたか。引くのは六つの資料で、読めたのはどれも要旨まででした。
土台は、1989年に MIS Quarterly 13巻3号へ出た論文。有用だと思うこと・使いやすいと思うことを測る尺度を、合計152人の利用者と四つの応用ソフトによる二つの研究で検証。六項目ずつに整理し、信頼性〔項目のそろい方の目安〕は有用性が.98、使いやすさが.94——相関ではありません。
要旨にそのまま書いてあります。——"Perceived usefulness was significantly correlated with both self-reported current usage (r=.63, Study 1) and self-predicted future usage (r=.85, Study 2)."(有用性の知覚は、自己申告による現在の利用〔第1研究で.63〕と、自分で予測した将来の利用〔第2研究で.85〕の双方と有意に相関した)。この相関〔一緒に動く度合いを−1から1で表した数字〕は要旨の観測値。いちばん高い.85の相手は、実際に使ったかではなく「これからどれくらい使うと思うか」でした。使いやすさの.45(第1研究)と.59(第2研究)も相手は同じ二つ。四つとも自己申告か自己予測です。
六年後の1995年、Management Science 41巻8号が同じ点を測ります。自己申告による利用と計算機が記録した利用を、測定モデル〔答えとの結びつきだけを取り出すやり方〕で比べます。——"Contrary to expectations, these constructs do not appear to be strongly related to each other."(予想に反して、これら二つの構成概念は、互いに強く関連しているようには見えない)。自己申告どうしは関連するのに、計算機の記録した測度は、はっきりと弱い結びつきしか示さない、とも。
そのうえで同じ論文は、主観的な測度に依拠した研究は人工物かもしれない、と論じたくなる、と書き、整合性を保つ別の説明もいくつかある、と断ります。断罪はしていません。
この要旨には標本の大きさも国も期間も印字されていません。何人を測ったのかは書きません。

では実際の利用は何とも結びついていないのか。並べるのは三つの測り方——何と結びつくかを測った1989年、申告と記録がそろうかを測った1995年、記録された利用と組織の成果を突き合わせた2003年。
011989年の尺度が相関した相手は、実際の利用ではない。検証は152人の利用者と四つの応用ソフトによる二つの研究。152人は合計で、内訳は要旨にありません。四つの相関の相手は、自己申告による現在の利用と、自分で予測した将来の利用。要旨の最後の一文は推測形で、使いやすさは有用性の因果的な先行要因「かもしれない」と示唆するまで。
021995年が測ったのは、申告と記録がそろうかどうか。出発点は、利用という変数の概念化と操作化〔数えられる手続きへの置き換え〕の違い。「関連が無かった」ではなく「強く関連しているようには見えない」です。
032003年は、記録された利用を組織の成果と突き合わせた。2003年の Management Science 49巻3号。水準は組織で、測られているのは病院の収入と質の測度。八つの病院からなる医療システムの三年間の月次データを、利用の三つの測度(中身は要旨に無し)で分析。外部要因を統制したうえで、利用は収入と質の測度と正で有意に関連し、その関連は時間の遅れを伴って現れた。「利用が収入を上げた」とは書きません。

一つ目。「あのモデルは間違いだった」という話ではありません。十四年後の2003年、Information & Management 40巻3号の批判的レビューは、有用なモデルだが、より広いモデルへ統合されなければならない、と結論します。廃棄の提案ではありません。同じ要旨は、この二つ〔モデルと改訂版〕で利用のおよそ40%を説明するとも(定義は要旨に無く、残りの60%も言えません)。
二つ目。2010年のレビューの数え方。六つの電子図書館を検索し、73本の論文にある79件の実証研究を特定(79は件数、73は本数)。方式は票数計算〔効果の大きさを平均せず、向きを数え上げるやり方〕。統合された効果量の値は要旨にありません。なお、上のレビュー自身は提案を1985年に置きます(「十四年後」の起点は1989年の論文)。
01「有用だと思ってもらえれば、実際に使ってもらえる」。いちばん引かれるのは.85。引かれるとき、その相手——自分で予測した将来の利用——が落ちます。2010年の Information and Software Technology 52巻5号の系統的レビューは、意図は実際の利用と相関しやすいが、有用性と使いやすさは相関しにくいと数え上げ、こう結びます——"Care should be taken using the TAM outside the context in which it has been validated."(検証された文脈の外で使うときは、注意すべきである)
02「申告で聞いても、記録で見ても、だいたい同じである」。画面に残っているものと、相手が答えるものは同じではありません。1995年の論文は二つを比べ、予想に反して強く関連しているようには見えないと報告し、同じ論文が、別の説明もいくつかあると断ります。片方だけを引けば断罪の論文に、両方引けば測り方を開いた論文になります。
03「どの測り方をしても、結論の向きは変わらない」。2006年の Information Systems Research 17巻3号は、「利用」を立て直そうとします。要旨は、この構成概念〔質問の束で測る「測りたいもの」〕が鍵だと言われ続けながら、広く受け入れられた定義を持たず、体系化されていない多様な測度で操作化されてきたと書き出し、実証では、測度を不適切に選ぶと反対の結論を導きうると示した、と。弱くなるのではなく、逆を向きうる。

六つの資料のうち、全文まで読めたものはひとつもありません。読めていない先は書きません。だから1995年・2006年・2010年・2003年のレビューの標本も国も期間も書いていません。無作為な割り付けの記述も、六つの要旨のどれにもありませんが、全文を読んでいない以上、「どれも実験ではない」とは書きません。
水準が書かれているのは、1989年の152人(個人)と2003年の八つの病院(組織)だけ。場は医療機関ですが、測られているのは組織の収入と質の測度であって、読者の健康ではありません。対象はどれも情報システムの利用。物を売る商いや役務、事業や取引の判断の材料にはなりません。
予想に反して、これら二つの構成概念は、互いに強く関連しているようには見えない。
もっとも、このモデルと、利用を主観的に測る研究の整合性を保つ別の説明も、いくつかある。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。届いた数字を1つ選んで申告か記録かを書き分けたときどうなるかを確かめた研究は、この号にはありません。判定はしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
**自分に届いた「利用状況」の数字を1つだけ**選ぶ。月次のまとめでも、画面の利用時間でも。
- 02SORT
その数字が自分の答えたもの(申告)か、機械の数えたもの(記録)かを、一言だけ。分からなければ「分からない」と。
- 03DEFINE
何を「使った」と数えているかを探し、書いてあれば一行だけ書き写す。無ければ「書いていない」と。
年代順に。1989年に尺度、六年後の1995年に「申告と記録は強く関連しては見えない」、十四年後の2003年に「より広いモデルへ統合を」という批判的レビューと、同じ2003年に八つの病院の三年間の月次データの報告、十七年後の2006年に「測度しだいで反対の結論」、二十一年後の2010年に「検証された文脈の外では注意を」。2003年が、二つあります。
著者の重なりは1組——1995年と2006年の論文は同じ著者を1名ふくみます(同じデータかは要旨から分かりません)。引かれた回数は桁が二つ違い、2026年9月5日で1989年の論文が46,692件、1995年の論文が536件。活用率が扱いやすいのは、上げ方が分かっているからではなく、何を活用と数えるかを決められるからだ——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは、数字が1つと、申告か記録かの一言と、数え方の一行。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS製品活用定着力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- 系統的レビュー
- あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

