IN BUSINESS PROCESS · ISSUE 223
● 12 SEC「業務を止めないための計画を作っておく。」公的な定義があります。内閣府(防災担当)の『事業継続ガイドライン』令和5年3月改定版は、事業継続計画(BCP)を「重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための…計画」と書き(対象は業種・業態・規模を問わず全ての企業・組織)、平常時からのマネジメント活動は別に立て、経営レベルの戦略的活動と位置づけます。計画と活動が、定義の段階で分かれている。
流通する二つの数字——「計画を作れば復旧が4分の1」「中心にいた人が抜けると生き残る割合が約4割下がる」——は使いません。出どころが特定できず、当たる先を作れなかったからです。「存在しない」とも書きません。
測られているのは「計画を持っているか」ではなく、止まった影響の届き方のほうです。並べるのは査読誌の論文5本、公的機関のガイドライン、行政の年次報告の1つの節。
1本目は1995年の阪神・淡路大震災です。2011年の震災ではありません。企業と取引銀行を突き合わせ、銀行の貸出余力が借り手の設備投資にどう出るかを見た自然実験(外から一斉に起きた出来事を使う比べ方)です。
「低かった」は、同じ企業の投資が前より落ちたという意味ではありません。比べたのは、どちらも被災していない二つの群。違いは取引銀行が被災したかどうかだけ。本部の被害で定義した推定では8.1パーセントポイント低い(割合がその幅だけ違う)。同じ年の平均投資比率は13.1%、支店網では1.0パーセントポイント。本部は直後、支店網は1年遅れて現れます。
数字は2012年の作業論文版のもの。標本は兵庫県と大阪府に本社のある3,897社(被災地内641・外3,256)から、銀行データとの突き合わせで3,212社(同591・2,621)、経営が悪化していた1行を主な取引銀行とする企業を除き2,086社(同390・1,696)へ減ります。被害の有無は所在地で代理——どの企業がどれだけ被災したかは分からないから、と著者たち。

同じ向きは、別の災害でも別の経路でも報告されています。次の3本は抄録までしか読んでいません。別々の災害・標本・水準で、統合もされていません。
012011年の震災を使った2021年の論文は、影響が直接と間接の仕入先と得意先まで広がったと報告した。総額は翌年の日本の実質GDP成長率を0.47パーセントポイント押し下げたという推計。ただし観測値ではなく、一般均衡模型を通した推計値です。
02同じ2011年の震災を見た2019年の論文は、標本が米国にある日系の現地法人である。日本国内の企業ではありません。生産は輸入の減少とほぼ1対1で落ち、輸入と国内の投入物の関係はレオンチェフ型に近い(置き換えがほとんど効かない)。抄録は因果の証拠を与えると書きますが、設計は自然実験。
032016年の論文は、自然災害を個々の企業に降りかかった出来事として使った。この抄録に、国名の印字はありません。被災した仕入先が得意先に相当の生産の落ち込みを負わせ、代わりの効きにくい投入物ほど大きく、他の仕入先へも波及する。抄録に数値はなく、ここから数値は書きません。

2本目も1995年の阪神・淡路大震災。水準は事業所——工場や作業場の一つひとつ。建物一棟ごとの被害調査と突き合わせた生存分析。逐語——「建物水準の被害が、事業所が閉鎖に至る見込みに有意に影響し、この効果は最大で7年間持続する」。
建物の被害が1単位(全損に当たる水準)増えると、恒久的な閉鎖の確率が61%高くなる関係(ハザード比1.61。1なら差なし)。閉じやすい状態は少なくとも2002年——地震から7年——まで、火災では9年、軽い被害でも5年つづきました。
上向く側もあります。抜けたのは生産性のいちばん低い事業所で、著者たちは洗い出しの効果を示唆すると書きます(確かめられた、とは書いていません)。残った側には一時的な生産性の上昇。標本は1992年に4,349事業所、2007年に2,134事業所、1994年は欠測。生産性の分析は残った835事業所の均衡パネルです。
01「日本企業の策定率は何%」——その割合は、答えた側の数字。2025年版の白書の当該節に割合はなく、数値は図の中——2024年で大企業37.1%、中小企業16.5%。元は2024年5月に民間の信用調査会社が全国27,104社へ送り、11,410社(大企業1,802・中小企業9,608)が答えた調査で、回収率42.1%——58%近くは答えていません。規模区分の注は「原則として中小企業基本法に準拠している」が主で、売上高ランキングは境界の2集団(上位3%・下位50%)を移すだけです。作ったかを訊く調査は、平常時の活動を数えていません。
02「震災といえば2011年」——読めた2本は、1995年の地震。1995年が取引銀行と神戸の事業所、2011年が波及と日系現地法人。災害も水準も期間も違います。「7年つづいた」は1995年の、事業所の水準の話。「0.47パーセントポイント」は2011年の翌年の成長率への推計値で、企業の売上の話ではありません。
03「計画を作れば早く戻れる」——読めた5本に、その語は無い。走査すると、事業継続計画に当たる語は5本すべてで0件。測られていたのは、止まった影響の届き方のほうでした。確実に数えられているのは、たぶん「作ったかどうか」のほう——というのが、この号の読み筋です。

全文まで読めたのは、7つの出典のうち4つ。読めていないものについては書きません。読めた研究論文の2本は、どちらも刊行版ではなくその前の版。残る3本は抄録まで。どの設計にも無作為な割り付けはなく、すべて自然実験でした。
水準もばらばらです——企業と取引銀行、製造事業所、取引のつながり、米国の日系現地法人、企業への調査。そこで働く人ひとりの手際を測ったものはありません。続いていた組織のデータだけが残る逆向きも、排除できません。
被災地の外に立地しながら、主な取引銀行が被災地の中にあった企業の投資比率は、企業も主な取引銀行も被災地の外にあった企業のそれより低かった。
この制約は生存バイアスの懸念を生じうる——標本を、地震からの3年間に抜けなかった企業へ限った理由の隣に。
この3手も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは投資比率、閉じる確率、成長率の推計値、調査の回収率。今日3つ書き出したとき何が起きるかを確かめた研究はありません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
いま自分の持ち場で、**自分しか知らないことを3つ**書き出す。手順の順番でも、物の置き場でもよい。今日の日付と一緒に紙かメモアプリへ。人の名前は書きません。
- 02MARK
横に、30分あれば書き残せそうかの印を付ける。「はい」か「いいえ」だけでよく、実際に書き残す必要はありません。
- 03READ
3行を読み返し、気づいたことを1行書く。判定はしません。日付・3項目・3つの印・気づき1行が残れば終わりです。
災害の年で並べ直すと、1995年の阪神・淡路大震災が2本、2011年の東日本大震災が2本。24年ぶんの研究で細かくなったのは、届き方のほうでした。
確かめられたのは、被災していない企業でも、主な取引銀行が被災していれば投資比率が低かったこと。2024年の策定率が大企業37.1%・中小企業16.5%で、元は27,104社に送って11,410社が答えた回収率42.1%の調査だったこと。そして5本のどれにも、事業継続計画に当たる語が無かったこと。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSBCP・業務継続力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- ハザード比
- 追跡期間の中で出来事が起こる「速さ」の比。1なら差なし。例えば0.8なら、その期間に起こる勢いが2割低かったことを表します。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

