IN WAYS OF THINKING · ISSUE 188
● 12 SEC2008年に出た、視線を記録した論文。イングランドのクラブの「候補マスター」10人。5人には、よく知られた詰み筋と、それより短い詰み筋の両方が成立する盤面を、残る5人には、よく知られたほうを消した盤面を見せます。
2つの解がある盤面を見た5人は、平均37秒で「よく知られたほうが最短だ」と答えました。5人とも、あとで「もっと短い詰みを探した」と述べています。視線は別でした。目は最初の筋のマスにとどまり、時間帯を通じて配分が変わりません。もう一方の5人は平均79秒で見つけ、視線もそちらへ移りました。
「知っている解が目を塞ぐ」で終わりそうですが、原典はそう書きません。同じ論文は、2解の5人も最適解のマスに時間を使ってはいた、完全に塞がれていたのではないと明記します。見えてはいた。使われなかった。
ラテラル思考(lateral thinking)は、いま乗っている線から降りて別の線へ移る道具として語られます。「最初の案に固執するな」と言い、外す手順が続く。ここに確かめられていない前提が入ります——固執は意志の問題である、と。
実験室で名前が付いて測られているのは、意志ではありません。アインシュテルング効果(Einstellung effect)——最初に思い浮かんだ解が、より良い解の発見をふさぐ現象です。起点は1942年の水がめの課題ですが、この号はその原典に到達していないので、数値はひとつも運びません。
5本は設計の層も揃いません。無作為な割り付けを明記しているのは、2022年の米国の実験と2019年のトルコの2実験だけ。チェスの3本には、その記載がありません。だから、割り付けのない行は「その盤面を見た人たちでは、こうなった」までで止めます。

測られたのは、この3本です。
01発見率は段になって落ち、既知の解を消すと全員が見つけた。同じ年の、同じ著者3人の論文が段を与えます。グランドマスター6人・国際マスター6人・マスター11人・候補マスター11人の34人。比較群24人を足して、実験1全体は58人。腕前は持ち点(Elo)で、平均1500・ばらつき1つぶんが200点の物差しです。短い解を見つけたのは、グランドマスター全員・国際マスター50%・マスター18%・候補マスター0%。よく知られた解を消した版では、見つけられなかった23人が全員見つけています。よく知られた解があるだけで、熟達者の力は腕前がばらつき3つぶん下の人と同じところまで落ちた、と原典は書きます。
02目の記録は、本人の報告と一致しなかった。中身を見せたのは冒頭の論文。参加者は候補マスター10人だけ——1解版を見た5人と、2解版から入った5人。全員が男性、平均年齢35歳。段の記録が出た34人とは別の人たちです。2本は独立した2件ではなく、同じチームの同年の連作で、参加者のデータも一部が共通しています。
03既知の手が「悪くない」ときだけ、選択が並んだ。2013年の、カナダの別チームによる追試。熟達者17人と、持ち点のない現役のクラブ会員17人。問題1の既知の手は、原典の言葉では「有利だが最適ではない手」。ここで既知の手を選んだのは、熟達者17人中8人、愛好家17人中8人。同じ人数でした。残る3問の既知の手は明白な悪手で、熟達者17人全員が避けています。手の質の全体でも熟達者が有意に上で、並んだのは問題1の1手だけです。

動くのは、引用されていく途中のほうです。落ちやすいのは3か所。
01「見えていないから見つからない」と読むと、原典が3本とも否定している側を引くことになる。「見えなかったから」——いちばん自然な説明です。ただし視線を測った3本は、どれもそのままには支持していません。2013年の追試でも、最適手を選んだ9人は区画を見る割合を下げつつ立ち寄りは増やしました。2022年の米国の実験の対象は、72人から5人を除いた67人。近道の位置はよく見ていながら、使った試行の割合は平均9.56%、半分を超えて使った人は67人中7人。残る60人——89.6%——は届いていません。動画で近道を実演したあとでも、34人中10人——29.4%——は使いませんでした。結論は、見る能力の欠如ではなく試そうとしないこと。この論文は、自分の結果は2008年の報告と矛盾するとも書きます。
02「熟達すると硬くなる」と読むと、その論文の結びと逆になる。段になって落ちた表は、「知識が増えるほど硬くなる」と読めます。その論文の題は「熟達者の不柔軟——現実か、神話か」。結びは、不柔軟は神話でもあり現実でもある、しかし熟達の度合いが上がるほど、それは神話になる。落ちたのは下の段で、グランドマスター6人は全員が短い解を見つけています。実験3で難問を解けたのもグランドマスター5人中4人で、解けた側の持ち点は中央値2547対2258と高い。著者の言葉は、不柔軟を避ける道は熟達を減らすことではなく増やすこと——著者の処方であって、この記事の助言ではありません。
03「六つの帽子で外せる」と読むと、2つの実験が食い違っていることが消える。この号は、色分けした帽子の効果の一次情報を自分で探していません。有るとも無いとも書きません。たどり着けたのは、2019年のトルコの2実験1本だけ。実験1は119人(うち81人が女性)を6色に無作為に割り付け、有意差は黄(20.84件)が赤(12.95件)より多い1組だけ。緑は6条件中5番目。実験2は教職課程の56人(うち40人が男性)で設計も問題も違い、緑が黄と赤より多く、黄と赤に差はありません。同じ著者が、黄が赤と同じという所見は実験1と一致しないと書いています。結論は、六つすべてではなく、いくつかが有効かもしれない。集団過程は除外され、1人で紙に書いた案の数の話です。

全文まで読めたのは6点のうち5点。読めていないものについては書きません。測られたのは、イギリス・ボスニア・ヘルツェゴビナ・カナダ・アメリカ・トルコ。日本での実施は、この5本にありません。段を測った34人の論文だけが性別も年齢も書いておらず、米国の67人は91%が女性——著者たちが女性に大きく偏った標本だと自ら断ります。
発想を横にずらす手順は、ここにありません。効果を測ったと言えるのは、動画を見せる操作と帽子の色を割り当てる操作の2本だけ。どの論文も、発想の量や質を人物の評価としては扱っていません。
見えていた。使わなかった。
知っている手を消したら、全員が解けた。
最初の案を封じたとき何が起きるかを確かめた研究は、ありません。次の3手は、研究が命じた順番ではなく、ALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリに、**いま行き詰まっている件をひとつだけ**書く。自分の手元で完結するもの。医療や投資の判断は選ばないで。
- 02BAN
その下に、最初に思いついている案を1行で書き、頭に「**今日は使わない**」と付ける。捨てるのではなく、今日は使わないと決めるだけ。
- 03LOG
**別の案を3つ書き出す。**良し悪しは付けません。それぞれに「今日より前に頭に浮かんでいたか」の○か×を付けて終わりです。
ラテラル思考は、横にずらす気分の名前ではありません。確かめられたのは四つ。5人が平均37秒で「これが最短だ」と答えたのに、目は最初の筋にとどまったこと。発見率が段になり、既知の解を消せば全員が見つけたこと。その論文の結びが「熟達の度合いが上がるほど、それは神話になる」であること。動画のあとも34人中10人が近道を使わなかったこと。手順は書かれていません。書かれているのは、別の案は見えていた場合がある、までです。今日残せるのは判定ではなく、記録が1件。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSラテラル思考を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
