IN WAYS OF THINKING · ISSUE 185

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

ひとつ前の号で扱ったのは、図に描かれなかった枝の分が、どこにも足し戻されなかったという話でした。今度は、図の中にあるのに、数に入らないもののほうです。

1989年に Management Science へ出た実験から。4人1組が小売・卸・流通・工場の役に無作為に割り当てられ、相談を禁じられたまま在庫と発注だけを扱います。5週目に顧客の注文が週4箱から8箱へ、予告なく一度だけ増えます。発注のピークは、小売15箱・卸19箱・流通27箱・工場32箱。平均費用は2,028ドル、ベンチマーク204ドルの9.9倍でした。

入口の変化は、週4箱が8箱になった、それだけ。工場のピーク32箱は初めの4箱の8倍、増分で測れば7倍です。この号が扱うのはシステム思考ですが、渡すのは全体を見る作法ではなく、たまっている量と出入りの量が取り違えられた場所の記録のほうです。

たまっている量をストック、出入りの量をフローと呼びます。浴槽なら水位がストック、蛇口と栓がフロー。蛇口を細くしても、出る量より多ければ水位は上がり続けます。入る量が減ったことと、たまっている量が減ることは別です。因果ループ図——原因と結果を矢印でつないで輪にした図——について、8本のどれも、描くことの効果を測っていません。

無作為の割り付けが原典に明記されているのは3本だけです。1989年は役の割り当て、2009年は質問の順序と提示の形式、2008年は学校の抽出。1995年はラテン方格、2004年はクラス単位です。だから、割り付けのある行だけ「〜すると、こうなった」と書きます。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真
入る量と出る量は読めた。読めなかったのは、いま中にどれだけあるかのほうだった。 Visual: ALIFE

まず測られたのは、この3本です。

01出入りは96%が読めて、たまっている量は44%だった。2009年に Organizational Behavior and Human Decision Processes へ出た研究。MITスローン経営大学院の173人に、店に入る人と出る人を分刻みのグラフで示し、10分で4問。最も多く入った時間帯は96%、最も多く出た時間帯は95%が正答。店の中の人数が最多の時間帯は44%、最少は31%。「設定を変えても38%を下回ったまま」は、この173人ではなくカーネギーメロン大学の学部生47人の値です。

02描かせると、5人に1人が向きを間違え、89%が勘定の合わない線を描いた。2000年に System Dynamics Review へ出た調査は、描かせて測りました。浴槽と現金の課題182人は平均77%で、5人に1人は、流入が流出より多いとき水位が上がる形すら描けません。鋸歯の課題150人は48%、製造の課題225人は41%。89%が、材料の保存を満たさない生産の線を描きました。在庫のグラフも渡された109人は.32、渡されなかった116人は.50(t=5.11, p<0.0001)。情報を1枚足したほうが、成績は低い。原典は、理解不足か、やることが増えただけか、両方の説明を併記します。

03全部教えても、難しい条件では「何もしない」ほうが良かった。1995年に Organizational Behavior and Human Decision Processes へ出た実験は、遅れ3水準×副作用の強さ5水準の15条件。MITの学生17人のうち2人が中断、15人がラテン方格で全条件を受けます。構造も計算の仕方も需要の予測の仕方も説明済み。知らなかったから間違えた、という設計ではありません。それでも最適との比は全条件で4.35倍、最も条件の悪い2つでは「何もしない」規則のほうが平均で上回りました。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
MITスローンの173人・浴槽と製造を描いた182人と150人と225人・15条件を受けたMITの15人。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字は動きません。動くのは、引用されていく途中です。落ちやすいのは3か所。

01「48回・192人で同じ形」と引くと、捨てられた37試行が戻る。1989年の報告はこうです。「4年間に集められた48試行(192人)から引き出された。……重大な誤りを犯した試行は破棄した。残されたのは11試行(44人)である。」192人は集めた記録の総数、分析されたのは44人です。原典自身、費用が高い試行ほど誤りを起こしやすく、残った11件は良い成績を出した側に偏っている、ただしその効果は軽微で結論をむしろ強める、と書いています。204ドルも現実の最適費用ではなく、提案された意思決定ルールを同じ情報制約下でシミュレーションした上界推定です。

02「遅れのせい」だけにすると、原典が並べたもう一方が落ちる。1995年の要旨は二つの要因を並べます——理解は「遅れが伸びるにつれて、そして行動がより強い副作用を持つにつれて、低下する」。遅れだけを主因にすると、もう一方が落ちます。最適を基準にすれば全条件で4.35倍のほぼ平行、悪化が際立つのは「何もしない」規則を基準にしたときです。2004年も同じ。ベルゲン大学の65人がトナカイの放牧地を3回ずつ管理する課題で、共有地の問題は私的所有権で設計から排除されています。逐語は「T1では……最適水準へかなり速く近づく。複雑なT2では、改善は遅い。3回目のあとでもなお、かなりの改善の余地がある。」

03「学習する組織を導入すれば成果が上がる」を、この2本では支えられない。5つの規律を掲げた1990年の一般書の要に、システム思考が置かれています。たどり着いたのは2本。2008年に Asia Pacific Education Review へ出た調査は、韓国・ソウル圏の職業高校69校から17校を乱数表で無作為に抽出し、教員976人が回答。著者自身が「本研究は、この尺度の外的妥当性や、基準に関連する予測的妥当性を扱わなかった」と書いています。もう1本は2012年の The Learning Organization に出た、33本の実証研究を集計したメタ分析。関係は正の向きだと報告しますが、たどれたのは抄録まで。この号は、5つの規律を導入した前後の効果を統制されたデザインで測った研究を、自分では探していません。だから、有るとも無いとも書きません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
192人を分析標本として引く・遅れだけの話にする・導入の効果として引く。崩れるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは8点のうち6点。読めていないものについては書きません。答えたのは、44人(集めた記録は192人ぶん)、173人と47人、182人・150人・225人、15人、65人、976人。2000年の標本は7割前後が男性で、25〜30歳が半数前後です。そしていちばん大事な限界。この号の証拠は、独立した8本ではありません。1989年・1995年・2000年・2002年・2009年の5本には同じ著者が入り、2000年の調査は標本の61%が同じゲームの経験者だと報告します。重ならないのは2008年と2012年の2本だけです。

測られたのは、実験室で10分から6時間の課題です。締切のある本物の判断に当てはまるとは限らず、日本語での追試もこの号の範囲にはありません。2002年の研究は抄録までで、数値は書きません。読めたのは、実在する1社の工程改善を帰納的に調べた研究で、成否を分けたのは管理者の説明の付け方と、改善から見返りまでの遅れとの相互作用だった、という点まで。1社で観察された構造の記述であって、処方ではありません。

注文は倍。工場は8倍。
出入りは96%、たまりは44%。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。2つに分けたとき何が起きるかを測った研究は、ありません。判定も、採点もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモアプリを開く。**いったん解決したのに、しばらくして元に戻ったこと**を1件だけ書く。医療やお金に関わる判断は選ばないでください。

  2. 02TRADE

    その下に2行。1行目はそのとき効いた対策。2行目は**その対策が何かから引いたもの**——時間を奪った、負担を移した、手間が増えた。思い当たらなければ、そう書きます。

  3. 03DELAY

    3行目に、元に戻るまでの時間を日か週で書く。その対策が**たまっている量に効いたのか、出入りの量に効いたのか**に丸を付ける。決められなければ「決めていない」と。

5分。採点はありません。**他人の対策を分類しない。誰かの判断を評価しない。会議で使わせようとしない。**誰にも見せません。苦しくなったら中止を。つらいときは、信頼できる相談先や専門家へ。

確かめられたのは三つ。週4箱が8箱に一度だけ増えると、工場の発注のピークは32箱、平均費用はベンチマークの9.9倍になったこと。分析されたのは48試行192人ぶんのうち11試行44人で、その11件は良い成績の側に偏っていると原典自身が書いていること。発注済みでまだ届いていない分への重みは、最適値1に対して44人の平均が0.34、3分の2超を数えていたのは5人だけだったこと。そして、全体を見る前に、たまっている量を1つ数える。そちらのほうが、たぶん難しい——というのが、この号の読み筋です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUSシステム思考を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。