IN FORTUNE MAKING · ISSUE 153

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で街の明かりのほうを見ている女性。暗いガラスにその横顔が薄く映り込んでいる● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「弱い紐帯」は、たいてい「弱いほど良い」という形で運ばれてきます。1973年の論文に載っているのは、もう少し細かい数字です。人づてで職を見つけた54人が、情報をくれた相手と会っていた頻度——頻繁に16.7%、たまに55.6%、稀に27.8%。いちばん多かったのは、いちばん薄い線ではありません。真ん中の層です。

この号は人付き合いの技術を扱いません。「弱い知り合いを増やせば運が良くなる」とも言いません。言えるのは、54人の内訳と、2,000万人超の実験と、55か国分の記録が、それぞれ何を数えたかまでです。

弱い紐帯の幅(Breadth of Weak Ties)は、親密さの名前ではありません。この号が与える枠は、情報と機会が届く経路としての人間関係。見るのは2つ——線が何本あるか、その届く先がどれくらい重なっていないか。

1本の線の強さは、こちらの都合では動かせない。動かせるとすれば本数と散らばりのほうです。ただし、線を増やすと良い機会が来るという関係を確かめた研究を、この号は扱っていません。測れるところに枠を寄せる置き方です。

(仮ビジュアル)暗い室内で黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性。窓の外は夕暮れの空
扱うのは、機会と情報が届く経路としての関係だけ。親密さの質はこの号の担当ではない。 Visual: ALIFE

測られてきたのは、1973年の54人の内訳と、LinkedIn上で行われた無作為化実験と、55か国のFacebookの記録。まず測られたのは、この3本です。

0154人の内訳で、最も多いのは中間層。調査対象は、米国ボストン近郊で直前に転職した専門職・技術職・管理職282人。会う頻度を訊かれたのは、無作為に選ばれた100人の面接だけ。集計されたのは、うち人づてで職を得た54人——頻繁に(週2回以上)16.7%、たまに(週2回未満・年1回超)55.6%、稀に(年1回以下)27.8%。分母は282人ではなく54人。弱い側に寄ってはいますが、過半数は真ん中です。

022,000万人超の実験で、逆U字。2022年の研究は、LinkedInの推薦アルゴリズムを動かした無作為化実験。5年間で2,000万人超のネットワークの弱い紐帯の割合が無作為に動かされ、20億の新しい紐帯と60万件の新規就職が生じました。割り付けを動かしたので、ここは因果の証拠です。関係は直線ではなく逆U字(上に凸の山なり)——弱いほど転職は伝わりやすくなるが、ある点を越えると、弱さを足しても得られるものは減ります。

0355か国・約1,695万組で、1本あたりは強い側。2017年の研究は、55か国のFacebookの匿名化・集計データ。友人と同じ勤務先で働くようになった利用者337,421人、利用者と友人の組16,949,230。日本も含まれます。測るのは就職ではなく「連続した就職」という代理指標(直接測れないものの代わりの目印)で、条件は、同じ勤務先の自己申告・友人が1年以上先に就業・1年以上前からの友人。大半は弱い紐帯の側から来ますが、著者らは有用だからではなく数が多いからだと書きます。1本ずつでは、紐帯が強いほど確率が高い。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
54人の内訳・2,000万人超の実験・55か国の記録。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

55か国の数字は、細かく見ると揃いません。1本あたりの関連は、ウォール投稿・写真タグ・共通の友人の3つの測り方のほぼすべてで正。例外は1つ、ナイジェリアの投稿による測定だけが負で、統計的に有意ではありません(偶然のばらつきの範囲を超えていない、の意)。時間順を逆にするプラセボ検定の後でも、タグか共通の友人なら55か国中52か国で正が残ります。

大きさも国で違います。タグで測った強さを最小から最大へ動かしたときの、その友人経由で同じ勤務先に就く確率の差は、エクアドルで21.7パーセントポイント(帰無95%信頼区間15.3〜28.1)、デンマークで3.9(同1.6〜6.3)(パーセントポイントは割合そのものの差)。動くのは数字ではなく、そこから引かれていく途中です。手がかりは3つ。

01山なりが、右下がりの直線に均される。先に落ちるのは形です。内訳は「弱い側に偏っている」であって「薄いほど多い」ではありません。55か国の研究でさえ、この調査を「めったにやりとりしない相手から助けを得た、と答えた人が最も多かった」と紹介しています。最も多いのは「たまに」のほうです。右下がりの直線に均せば「弱いほど良い」になり、頂点がどこにあるかという話が消えます。

021本あたりの話と、総量の話が混ざる。2つめは単位です。同じデータから逆向きの2文が出ます——「就職の大半は弱い紐帯の側から来る」と「1本ずつなら強い紐帯のほうが確率は高い」。総量で弱い紐帯が上回るのは、本数が桁違いに多いから。人の数え方と線の数え方が混ざると「1本あたりでも有利だ」という、原典にない主張ができます。米国だけを扱った姉妹論文もあり、同じ研究者たちが同じ種類のデータを分けて出した2本で、独立した追認ではありません。

03平均の下に、測り方と業種と国が隠れる。3つめは平均の下の層。2022年の実験では、最大の位置が測り方で動き(共通の知人の数なら「中程度に弱い」、やりとりの強度なら「最も弱い」)、符号は業種で変わりました(デジタル化の進んだ業種では弱い紐帯、そうでない業種では強い紐帯)。追加調査では、「助けになった紐帯」をこの代理指標が言い当てていたのは20〜30%程度。外へ出ていくのは「弱い紐帯は強い」の1行で、落ちるのはいつも限定のほう——というのが、この号の読み筋です。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
均される山なり・混ざる単位・隠れる測り方と国。読み違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは7点のうち2点で、残りは抄録の範囲までです。読めていないものについては書きません。答えたのは、1970年代の米国の一地域の282人と、LinkedInの利用者と、Facebookの利用者です。登録していない人は、最初から数えられていません。337,421人も、友人と同じ勤務先で働くようになった人だけの標本。55か国に日本は含まれますが、日本と米国では転職の頻度も経路の構成も制度が違います。16.7・55.6・27.8を、そのまま自分の連絡先に当てはめないでください。

並べた研究は、別々の現象がたまたま同じ方向を指したものではありません。2022年の実験も2017年の記録も、1973年の一本の理論を検証するために設計されています。2023年の総説は、弱い紐帯が本当に「橋」なのか、構造上の性質が有用と言えるほど効率よく伝えているのか、という前提を問い直し、使い方の側が価値を左右しうると論じます。2011年の研究では、経営幹部向けMBAの受講生が連絡の途絶えた相手に重要な案件を相談し、結果は現在の相手と遜色なかった。線はすでに引かれていて、薄くなっているだけかもしれません。

多かったのは、たまに会う人だった。
いちばん薄い線が、いちばん多かったのではない。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。連絡先を数えたとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。誰かに連絡する課題ではなく、数えるだけです。

TRY IT TODAY

  1. 01OPEN

    スマートフォンの連絡先か、仕事のメールの送信済みを開き、**上から10件**だけ見る。選び直さないでください。

  2. 02COUNT

    その10件それぞれについて、最後にやりとりしたのがいつかを思い出す。**1年以上前で止まっているものが何件あるか**を数え、書き留める。連絡はしません。

  3. 03SORT

    余力があれば、もう1つ。10件のうち、いまの主な行動圏——同じ職場・同じ業界・同じ学校——と重なっていない相手が何人か。

10分。採点はありません。**誰かに連絡したり、紹介を頼んだり、転職の準備をしたりする課題ではありません。**連絡先が10件に満たなければ、直近1年に読んだ記事や動画の発信元10件で代えられます。メモは手元に。**相手からの被害や恐怖がある関係は対象外です。**苦しくなったら中止し、つらさが続く場合は医療・支援の専門家へ相談を。

確かめられたのは3つ——54人の内訳で最も厚いのは中間の層だったこと。2,000万人超の実験で逆U字が出て、最大の位置は測り方で、符号は業種で動いたこと。55か国の記録で、総量では弱い紐帯、1本ずつでは強い紐帯だったこと。弱い知り合いを増やせば運が良くなる、とはどこにも書かれていません。運ばれてきたのは54人分の内訳ではなく、その要約のほうでした——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは判定ではありません。10件見て、1年以上前が何件、重なっていないのが何件。数字が2つ、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS弱い紐帯の幅を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
無作為化比較試験
くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。