IN EMPLOYMENT · ISSUE 091
● 12 SEC「もっと良い口があるはずだ」と探し続ける人は、結局は損をしている。就職の助言で、これほど広く配られた一文はそう多くありません。2006年の研究は、米国11大学の卒業予定者を2001年から2002年の3時点で追いました(初回548人、女性69.7%、年齢の中央値21)。
出た答えは、助言と半分だけずれた形をしています。最大化傾向の高い学生のほうが20%高い初任給(米国・2002年時点で7,430ドルの差)の職に就き、そのうえで、得た職への満足は低かった。
この号が扱うのは、偏りの直し方ではありません。客観の指標と主観の指標が、同じ人について別々の答えを出すところです。いま働いていない人も、この号の読者から外れません。
認知バイアスの管理は、偏りを取り除く技術というより、自分の判断が何を測って何を測っていないかを見分け、その見分けを持ったまま決めるところまでを指します。絞るのは、働き口を探す場面の一点。
ここで言う客観の指標は得た職の初任給、主観の指標は得た職への満足と、探索の過程での感情。研究の側のものさしは最大化志向〔もっと良いものがあるはずだと探し続ける傾きを測る尺度〕。混ざりやすいのは、探すという行為の良し悪しと、探し終えたあとの採点のしかた。効いてくるのは、後者の区別のほうです。

では、その二つはどこで、どれだけ食い違うのか。測られた範囲は「探しすぎると損をする」という一文より狭く、少し奇妙です。まず測られたのは、この3つ。
0120%高い職に就き、満足は低かった。要旨の逐語です——「最大化傾向の高い学生は、低い学生より20%高い初任給の職を得た。しかし最大化者は、得た職について満足度が低く、職探しの過程を通じてより多くの否定的感情を経験した」。媒介は、外部の情報源への依存と、選択肢への固着。ただし最大化傾向は割り当てではなく、測られたもので、探索が給与を上げたと示した研究ではありません。
02尺度が並ぶ相手は、すべて主観の指標だった。この尺度を提案した2002年の論文では、7つの標本(尺度と後悔の質問紙に答えたのは合計1,747人)で、幸福感・楽観・自尊心・生活満足と負に、抑うつ・完璧主義・後悔と正に相関しました。並ぶのはすべて主観的な指標で、収入も職の条件も入っていません。相関は一緒に動く度合いで、どちらが先かは決めません。
03測り方を変えると、関係のほうも動いた。2013年の研究は、代表的な3つの尺度を並べ、職務満足・離職意図・職務遂行・所得との関係を比べました。要旨です——「結果は、最大化とこれらの基準との関係が、最大化をどのように測るかによって左右されることを示している。しかし、どのように測られたとしても、最大化は伝統的な組織的予測因子に比べて、これらの基準の特に強い予測因子ではない」。

ここから先で、話はよく別のものへ入れ替わります。手がかりは3つ。
01測っていない変数の話を、この研究の名前でしている。「憧れやブランドで選ぶから、後悔するのだ」。よく添えられる教訓ですが、2006年の研究は支えません。企業の知名度も、ブランドも、憧れの強さも、変数に入っていないからです。測られたのは尺度と初任給、職への満足、探索中の感情、そして二つの媒介だけ。測っていない変数について、この研究は何も言えません。
02決まったあとの気持ちは、予測どおりに来ると思っている。1998年の研究は、「あとでどう感じるか」の予測を人生の分かれ目で測りました。研究2の対象は、米国の1大学で1984年から1994年に終身在職権を得た/得られなかった元助教。予測する側の現職97人と経験した側の元助教123人(得られた92人+得られなかった31人)を突き合わせ、「最近の否定的な経験者は、予測者が見積もったよりも幸福だった」(F(1,38)=4.36, p=.04。F値は群の差をばらつきと比べた検定の値で、大きいほど偶然では説明しにくいことを表します)。研究6は同じ大学の学生91人(女性)に不採用の場面で確かめています。
03その命題そのものを、決着した事実だと思っている。「決まったあとの気持ちを読み違える」——この命題自体が係争中です。2013年の論文の題は「インパクト・バイアスは健在である」。前年の再検討(持続の長さは過大に見積もるかもしれないが、初期の強さはそこまでではない、という主張)に対し、相反する研究の除外・分類・条件の合算・コード付けの4点で誤りを挙げ、正せば支持されないと書きます。ところが同じ号の直後に、シュレーディンガーの猫のように死んでいると同時に生きている、と題した応答が並ぶ。どちらが正しいかを、この号は裁定しません。争点は現象の有無ではなく手続きです。たどれたのは2013年の2本の範囲まで、2012年の再検討には当たっていません。

並べ直しても、矛盾はしていません。得た職の初任給という客観の指標と、得た職への満足という主観の指標は、別のアウトカムです。同じ548人について、片方は上を向き、もう片方は下を向いた。だから「探し続けると損をする」は正確ではありません。損をしていたのは、金額のほうではない。
値切るべき相手は、探すという行為ではなく、探し終えたあとの採点のしかた——というのが、この号の読み筋です。標本の断りも置きます。対象は米国の大学の卒業予定者と在学者、そして米国の1大学の元教員。日本の労働市場を対象にした同種の査読研究は、ごく少ないままです。追跡も1年前後と短い。そしてもともと選択肢の多い人ほど、複数の内定を並べて悩めるという逆向きを、この範囲では排除できません。
うまくやっているのに、気分は悪い。
——2006年の論文の題そのものが、そう書いています。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。気分の予測を先に書けば採点の目盛りが直る、と確かめた研究を、この号は扱っていません。予測がどちらへ、どれだけ外れるかは、どの論文にも書かれていない。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。1行あれば足ります。
TRY IT TODAY
- 01PICK
いま第一希望にしている選択肢を1つ挙げる。応募先でも、進みたい方向でも、迷っている今の状態でもよい。
- 02GUESS
それが望むとおりに決まったとして、翌週の自分がどんな気分でいるかを1行だけ書く。良い・悪いの二択ではなく、言葉で書く。
- 03SEAL
今日の日付を添えて閉じ、そのまま置いておく。今日は読み返さない。
認知バイアスの管理は、偏りを消す技術につけられた名前ではありません。確かめられたのは四つ。548人で初任給と満足が逆を向いたこと。7標本・合計1,747人でこの尺度が並んだ相手が主観の指標ばかりだったこと。3つの尺度で関係そのものが測り方に左右され、どれで測っても伝統的な組織的予測因子より強くはなかったこと。そして「決まったあとの気持ちを読み違える」という命題自体に反論と応答が並んでいること。
良い選択ができるとも、後悔しなくなるとも、ここまでの研究は約束していません。——今日残るのは判定ではありません。選択肢の名前が1つと、翌週の気分を書いた1行と、今日の日付。予測が1行、増えるだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS認知バイアスの管理を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
