IN ARTS · ISSUE 079

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶・浅い切り漬けのグラス・琥珀色の発酵茶の細長い容器が三つ並んだ静物写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「手本を見れば身につく」が長く売れてきたのは、脳に鏡があると言われたからです。2010年の研究は、その鏡を人間の脳から直接探しました。てんかんの治療を受ける21人の患者から1,177個の神経細胞を記録。両方に応答する細胞は見つかりましたが、場所はサルで語られてきた運動前野ではなく、内側前頭皮質と内側側頭皮質でした。そして一部は、他者の行為を見ているあいだ活動を下げていました。自動的な模倣を抑える働きの可能性が論じられています。

この号が扱うのは、手本の見方のコツではありません。観察がどこまで測られてきたかのほうです。「上手い人を見て盗め」は測られた範囲と矛盾しませんが、その範囲は狭く、渡されるものと渡されないものが分かれています。

モデル分析力(Model Analysis)は、手本から何を取り出し、自分の身体のどこへ当てはめるかを決めるところまでを指します。研究では観察学習・モデリングと呼ばれ、実演を見せた条件と見せない条件を比べてきました。測られたアウトカムは、混ざりやすい二つ——動きの力学〔手足がどう動いたかという形〕と、動きの結果〔的に当たったかという成果〕。同じ「上達」が、別のものを指しています。

(仮ビジュアル)夕暮れの大きなガラス壁ぎわに、黒い長袖と黒いパンツで裸足のまま立ち、海と岩場のほうへ目を向けている女性。ガラスにその姿が薄く映り込んでいる写真
同じ映像から取り出しているのが、形なのか結果なのか。測られてきたのは、そこの差。 Visual: ALIFE

では、観察から取れるのはどちらで、どれだけ取れるのか。まず測られたのは、この3つです。

01形は0.77、結果は0.17。2006年のメタ分析は、実演の効果を動きの力学(形)と結果(成果)に分けて集計しました。効果量は形0.77、結果0.17。0なら差がなく、大きいほど手本を見た側の成績が良かった値で、目安は0.2が小・0.5が中・0.8が大。0.17は「小」にも届きません。課題別も同じ向きで、系列課題は1.62対0.61、連続課題は1.01対0.51、単発課題は0.56対0.10。実演が主に伝えるのは模倣すべき動きの相対的な運びだといいます。統合値であり、集められた研究が一様だったという意味ではありません。

02混ぜて見た日程が、良かった。2011年の研究は、参加者を5つの条件——熟達モデルだけ・初学者モデルだけ・両方を混ぜて観察・身体で練習・何もしない統制——に分けました。課題は、相対的なタイミングのパターンの再現。観察した群も身体練習の群も統制群を上回り、混合観察の日程は、熟達だけの群よりも初学者だけの群よりも動作時間が安定し、般化も良好でした。この研究は抄録の範囲までで、全文は確認していません。

03見る前に告げられた群が、伸びた。2016年の研究は、90人(男性45人・女性45人、平均20.5歳)を、統制群・お手本の出来を観察の前に知らされる群・後に知らされる群の3群に分けました。課題は3つの障壁と的を順に叩き、各区間300ミリ秒・全体1200ミリ秒を再現するもの。前に知らされた群のほうが学習が良好でした。獲得のセッションを2回追加した第2の実験(60人)でも、優位は保たれています。実験室の、短い課題です。

(仮ビジュアル)ベージュの壁の前で、黒い石の細い天板を、青いガラス・銀の金属・赤い漆という三つの異なる脚がそれぞれ支えている彫刻的なコンソールテーブル
形と結果の取り分、混ぜた観察、告げる順番。まず測られたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

ここで止めると、「観察は使える」で終わります。使い方を誤らせるのは、たいてい脳の話のほうです。手がかりは3つ。

01鏡があるから、見れば写ると思っている。2004年の総説は、サルの運動前野に、自分が行うときにも他個体が行うのを見るときにも発火する細胞を報告。ここから、この仕組みが他者の行為の理解を支え、模倣による学習を可能にし、言語の成立にも関わるという主張が組み立てられます。一方、2010年に人間の脳で両方に応答する細胞が見つかったのは内側前頭皮質と内側側頭皮質で、この領域では初めての記録でした。てんかんの治療を受ける患者という特殊な集団の記録であり、健康な人の脳も同じ配置だとは言えません。

02論争が終わったと思っている。2009年の論文は、行為理解のミラーニューロン理論に8つの問題を並べました。中心は、同じ細胞が実行時にも観察時にも発火することは、その細胞が行為の意味を理解している証明にはならないという指摘。著者はヒトからの証拠はこの立場に対する強い反証になるとまで述べます。挙がった証拠は、運動性の発話領域に重い損傷を負ったブローカ失語の患者が、音素の弁別課題でおよそ95%の正答率、感度の指標4.8(0なら偶然と区別がつかず、大きいほど見分けられている値)。左半球を停止させる検査中で発話できない患者でも、細かい音の違いを要する語と絵の対応課題の誤りは10%未満。ただし、論争は決着していません。支持と否定の主張が出続けており、片方を確定として扱える段階ではありません。

03見ることを、練習の代わりにできると思っている。先の5条件の研究の第2の実験では、観察群が身体練習群と同等で、統制群より有意に良かったと報告されました。観察が練習の代わりになる根拠として引かれます。ただし「同等」は差が検出されなかったということで、二つが同じだと示されたわけではありません。条件も狭く、実験室の、タイミングを再現する短い課題です(この研究は抄録の範囲まで)。メタ分析の数字を戻せば、結果についての効果量は0.17。観察は入口であって、身体練習の代替ではありません。

(仮ビジュアル)縦三分割の帯状の写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に脱ぎ置かれた上着と鍵
見れば写ると思う・論争が終わったと思う・練習の代わりにする。 Visual: ALIFE

六つは、矛盾していません。取り分は形0.77・結果0.17と分かれ、両方に応答する細胞は、語られてきた領域とは別の場所にありました。全文まで読めたのは7点のうち5点。残る2点は抄録の範囲までで、そこから先については書きません。実験は実験室での短い課題と若い大学生の参加者に偏り、単一細胞の記録はてんかんの患者から得たものです。向きは読めますが、あなたの稽古での大きさが、この数字のままになるわけではありません。

手本が渡すのは、どう動くか。
どこに入るかは、ほとんど渡されない。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手本と自分の見立てを並べれば気づきが増える、と確かめた研究を、この号では扱っていません。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。重ならなかった項目が1つ見つかれば足ります。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    手本にしている演者・作り手を1人思い浮かべ、その実演から30秒〜1分を選ぶ。自分だけで見て、動きの形の気づきを3つ書く。

  2. 02TELL

    その手本を知らない人を1人つかまえる。見せる前に「これは良い例です」と一言だけ伝えてから、同じ箇所を見て、聴いてもらう。

  3. 03COMPARE

    相手が挙げた3つを、直さずにそのまま書き取る。自分の3つと並べて、重ならなかった項目に印をつける。

20分。**採点はありません。**判定ではなく、自分の3つと相手の3つが重ならなかった場所が課題の中身です。芸事をしていない場合は、料理の動画でも日用品を扱う手つきでもかまいません。相手の見立てを直したり、評価を本人に伝えたりはしません。人を撮影・録音する場合は本人の同意を取り、共有しない場所に保存して、終わったら消します。目や耳に負担を感じたら中止し、つらさが続く・強まる場合は、この課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

モデル分析力は、真似のうまさにつけられた名前ではありません。確かめられたのは、取り分が形0.77・結果0.17と分かれたこと、混ぜて観察した日程のほうが動作時間が安定し般化も良好だったこと、先に告げられた群のほうが学習が良好だったこと、そして両方に応答した細胞は内側前頭皮質と内側側頭皮質にあり、一部は観察中に活動を下げていたことです。見れば写るとも、上手くなるとも、研究は約束していません。——残るのは評価ではなく、手本の30秒が1つと、重ならなかった項目です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUSモデル分析力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

Next in arts

VIEW ALL
ISSUE 0784時間空ければ、壊れなかった。ISSUE 080探しているつもりで、同じ所を見続けていた。
ALIFE · ISSUE 079

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。