IN FAMILY · ISSUE 035
● 12 SEC家庭の衛生と聞けば、除菌スプレーと排水口を思い浮かべます。ところが家庭環境と子どもの発達を調べる研究が先に測ってきたのは、菌の数ではありません。つけっぱなしのテレビ、鳴りやまない通知、人の出入り、崩れる予定——家の中の騒がしさのほうです。
この号が扱うのは2点だけ。その変数が何と結びついてきたかと、「清潔すぎるとアレルギーになる」という有名な話がいまどう扱われているか。家庭を採点する話ではありません。片付けを増やす課題でもありません。
衛生(Household Hygiene)。この号で扱うのは、家庭という共有環境の清潔と秩序です。けれどこの領域の研究で中心にある変数は、菌の量ではありません。household chaos——家庭の騒がしさと無秩序。つけっぱなしの画面、鳴り続ける通知、定位置のない物、崩れる予定。個人の食事や腸内環境は身体の号の持ち場で、ここでは扱いません。

除菌の話を期待していた人には、拍子抜けかもしれません。この分野が四半世紀かけて積み上げてきたのは、菌の数ではなく、家の中の信号と雑音の比のほうです。わかっていることを3つ。
01尋ねているのは、家の状態。1995年に発表された混乱・喧噪・秩序尺度(CHAOSスケール)は、テレビがつけっぱなしになりがちか、朝がばたつくか——そうした家の状態への同意度で、家庭の騒がしさと無秩序を尋ねる質問紙です。聞かれているのは環境の状態で、誰のせいかを聞く欄はありません。これは物差しの紹介であって、何かが効くことの証明ではありません。
02112の研究のうち、71が米国。2020年の系統的スコーピングレビュー(該当研究を網羅的に集めて地図にする総覧)は、家庭の騒がしさを扱った112の研究を7つの領域に整理しました。子どもの認知、社会情緒と行動、言語、養育の質と親子の衝突、親自身の抑うつ、ストレスホルモンのリズム、健康行動——この7領域の悪化と関連し、その多くは世帯の収入や学歴を考慮した後にも残っています。ただし112の研究のうち71が米国で、測定は親の自己報告が中心、横断研究も多い。著者ら自身が、因果の確定には至らないと明記しています。
03米国の低所得農村部で、3歳の言語と。低所得の農村部の家庭を追った2012年の縦断研究は、混乱を無秩序(騒音・過密・つけっぱなしのテレビ)と不安定(転居・同居者の入れ替わり)に分けました。生後6〜36カ月の無秩序の高さは、13の人口統計学的条件を統制した後にも、3歳時点の言語の理解と産出の低さと結びついていました。養育の質が一部を媒介しましたが、それだけで説明しきれない部分が残ります。限定された集団の観察研究で、家庭全般へ広げられる結果ではありません。

数字よりも、努力の向け先のほうが先にずれます。手がかりは3つ。
01見た目の清潔に、労力が寄る。来客に見える床は磨かれ、見えない音環境——つけっぱなしの画面、鳴り続ける通知——は残ったまま。研究が並べてきた変数は、後者のほうです。
02散らかりを、性格の話にしている。「誰が散らかしたか」を先に決める会話は、騒がしさを一つも減らしません。CHAOSスケールが尋ねているのも、人ではなく家の状態です。
03一度の大掃除で、買おうとしている。研究が測ってきたのは単発の出来事ではなく、数カ月から数年続く環境の状態です。1回の大掃除より毎日の30分のほうがこの変数の定義に近い——というのが、この号の読み筋です。

「清潔すぎるとアレルギーになる」の出どころは、1989年の英国の出生コホートです。1958年3月の同じ週に生まれた1万7,414人を追った報告で、花粉症と乳児湿疹は、家庭内の子どもの数——とりわけ年上のきょうだいの数——と逆の関係を示しました。著者はそこから、きょうだいが持ち込む幼少期の感染が関与している可能性を提起したにとどまります。家庭の清潔さは、この研究では測られていません。
整理し直したのは、この説を引き継いだ側でした。2013年に定式化された旧友仮説は、免疫の調整に関わるのは土や動物や人体の常在微生物との日常的な接触であって、集団感染症ではないとします。そして2016年、公衆衛生の専門家グループ——著者には旧友仮説の提唱者本人を含む——は「衛生仮説という言葉を捨てる時が来た」と題した総説で、家庭の清潔さの向上がアレルギー増加の原因だという証拠はないと述べ、対案に標的衛生を置きました。感染が実際に伝わる要所——食品を扱う手と調理面、トイレの後、看病、生ゴミ——を、要る時に締める。これは感染対策の設計の話で、アレルギーの診断や治療の判断に使うものではありません。
測られているのは環境の状態であって、
家族の人格ではない。
掃除の手を抜く理由にも、除菌漬けの正当化にもならない代わりに、この整理は労力の配分をくれます——というのが、この号の読み筋です。だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。ALIFEが提案する、小さな実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PLACE
家の中でいちばん長く人が集まる場所を1つ選ぶ。食卓、居間など。
- 02MUTE
そこで常時鳴っている音源を1つだけ選び、今日の30分だけ止める。
- 03HOME
定位置のない物の山を1つ選び、置き場を決めて移す。
きょうだいの多い家の子に花粉症が少ないという1989年の観察は、掃除をさぼる免罪符として広まりました。一方その分野の側は、2016年に言葉ごと看板を下ろしています。ここから先はALIFEの読みですが——何もしなくていいと言ってくれる話は覚えられ、今日ひとつ音を消してみようという話は忘れられる。四半世紀かけて積み上げられた「騒がしさ」の変数が俗説になる気配すらないのは、たぶんそのせいです。この号が残したいのは、忘れられる側のほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS衛生を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。

