IN FAMILY · ISSUE 034
● 12 SEC「三つ子の魂百まで」。生まれて最初の1年で人との関わり方の型が決まり、あとは一生それで通す——という話です。この号が扱うのは一点だけ。その型が、後年をどこまで説明できるのかという証拠の幅です。
先に断っておきます。これは自分の育ちを採点する号でも、親としての自分を採点する号でもありません。読むうちに過去の点検が始まったら、そこで閉じてかまいません。いま家庭の中で身体や心の安全が脅かされている場合は、この号の話より先に、相談窓口や専門機関へ。
安全(安全基地/Secure Base)とは、そこから安心して出ていけて、いつでも戻れる、という感覚のこと。精神科医ボウルビィが概念として立て、心理学者エインスワースが実験の形に翻訳しました。白人中流家庭の1歳児56人を、見知らぬ部屋で母親と離れ、また会う——という8場面で観察した手続きです。型を分けたのは、離れたときの泣き方ではなく、戻ってきた母親にどう振る舞うかでした。親を拠点として使う型、無視するように振る舞う型、しがみつきながら反り返る型。この3つが区別されています。1970年に報告された手続きで、観察されたのは母子のペアです。父親やほかの養育者についてのデータは、いまも薄いままです。これは一人ひとりを診断するための検査ではなく、群を比べるための観察手続きです。

流通している愛着スタイル診断は、この型を血液型のような固定の属性として語ります。けれど追跡データの中で、型は固定の属性としては振る舞っていませんでした。手がかりになる数字が、3つあります。
0120年後、72%は同じ側だった。1歳のときに先の8場面の手続きを受けた60人のうち50人を、20年後に大人の愛着面接で測り直した追跡研究。安全・不安全の2分類で同じ側に留まったのは72%でした。ただし内訳があります。分類を変えたのは、親の離婚・死別・重い病気・虐待などを経験した群で18人中8人(44%)、経験しなかった群で32人中7人(22%)。50人という小さな追跡で、変化と出来事の関連を見たものです(公表されている数字の上では、全体の72%とこの内訳の人数は完全には足し合いません)。
02平均は、相関0.39だった。27の縦断研究をまとめた2002年のメタ分析では、1歳時点の安全性と後年の安全性の関連が、期間が延びてもおよそ相関0.39の水準に収束するモデルが最もデータに合いました。127研究・2万1,072人・225効果量を集めた2013年のメタ分析でも、平均は0.39(95%信頼区間0.35〜0.42)。観察された関連であって、初期の型が後年を決めたことを示す値ではありません。
0315年を超えると、検出できない。同じ127研究のメタ分析を測定間隔で分けると、半年以内で0.45、1〜2年で0.40、5〜15年で0.20、そして15年を超える区間では0.14。この区間は統計的に有意ではなく、明確な関連とは言えない水準でした。追跡の間隔が長いほど、初期の型から後年を言い当てられなくなります。

型そのものより、型の使い方のほうが先にずれます。手がかりは3つ。
01説明を、そこで打ち切っている。「自分は回避型だから」で、家族との関わりの話が終わる。安定性0.39という数字は、変わった人が大勢いることも同時に意味します。
02育ちの採点表として、読んでいる。親の応答をさかのぼって採点し、いまの関係の説明にする。20年の追跡が示したのは、型を変えた人の側に離婚・死別・大病といった環境の出来事が多かったということでした。50人の追跡の範囲の話で、誰の責任かを特定した結果ではありません。
03国民性の話に、置き換えている。8カ国32標本・約1,990人を集めた1988年のメタ分析では、同じ国の中の標本どうしのばらつきが、国と国のあいだのばらつきのおよそ1.5倍でした。分布を予測するなら、国籍より家庭のほうが手がかりになります。標本の集め方に幅があり、比率は参考値です。

乳幼児期の安全な愛着が後年の何と結びつくかも、メタ分析の総括が出しています。仲間関係の社会的な有能さと効果量0.39、外に向かう問題行動の少なさと0.31、内にこもる症状の少なさと0.15。実在する関連ですが、いずれも小〜中程度にとどまり、一人の先行きを言い当てるには足りません。困難な育ちのあとに安定した愛着を示す人たちも、繰り返し記録されています。
初期の型の影響は、ゼロではない。
それでも、決定ではなかった。
だから、いまうまくいっていない関係の原因を、過去に置いて確定させる必要はありません。同時に、いま渡している安全も自動では続かない——というのが、この号の読み筋です。次の3手も、研究が命じた順番ではなく、数字を目標から外した側からALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01CATCH
今日、家族の誰かが弱音や失敗をこぼした瞬間を、ひとつ見つける。
- 02RECEIVE
助言に切り替える前に、聞いたことを短く返すだけにする。
- 03NOTE
その場面と、自分が実際に返したことばを1行で書く。
「三つ子の魂百まで」が生き延びてきたのは、それが便利だからでもあります。すべて最初の1年で決まったと考えれば、いまの関わり方を点検しなくて済みます。127研究のデータは、その便利さを少しだけ取り上げます。同時に、過去にさかのぼって誰かを責める根拠も渡しません。残るのは、今日こぼれた弱音をひとつ受け止めるかどうか、という地味な選択のほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS安全を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

