IN BODY · ISSUE 029
● 12 SEC検査で陽性と言われた。では、本当に病気である見込みはどれくらいか——ドイツの継続研修でこの条件を示された160人の産婦人科医のうち、最も適切な答えを選べたのは5人に1人でした。
この号が扱うのは一点だけです。健康の情報をどう集めるかではなく、健診や検査結果の数字が、どう渡されているか。読む力を鍛える話でもありません。まず、あの問いの答えから見ます。
健康リテラシー(Health Literacy)は、2000年に Health Promotion International へ出た概念論文が、読み書きできる・人とやりとりできる・吟味できるの3つの水準に整理しました。ただし枠組みは、効くかどうかの証拠ではありません。この号は全部を追わず、健康情報・健診・検査結果という具体の場面に絞ります。証拠の読み方の一般論は、思考法の群が扱います。

先に断っておきます。この号は、どの検査を受けるべきか・受けないべきかについて何も言いません。気になる症状があるなら、記事を読むより受診が先です。ここから見るのは、同じ数字が2通りに書けるという一点です。
01%で渡すと、21%だった。ドイツの継続研修で、160人の産婦人科医にこう尋ねた実験があります。女性が乳がんである確率は1%。乳がんの女性が陽性と出る確率は90%。乳がんでない女性が陽性と出る確率は9%。ある女性が陽性だった——それはどういう意味か。選択肢は4つで、最も適切な答えを選べたのは21%。答えは1%から90%までばらつきました。
02人数で訓練すると、87%だった。同じ情報をこう書き直します。1,000人のうち10人が乳がん。その10人のうち9人が陽性。がんでない990人のうち、およそ89人も陽性。陽性は合わせておよそ98人で、本当にがんなのは9人——およそ10人に1人。この数え方(自然頻度)で訓練したあと、87%が正しく選べました。割り算は1つも変わっていません。同じ160人の、短い課題での正答率です。
03生存率で渡すと、69%が勧めた。米国の一次医療の医師への2012年の調査(2010年に297人、2011年に115人)では、架空の検診を2通りで見せました。「5年生存率が68%から99%に上がった」を見せられたとき69%が検診を勧め、「がんによる死亡が1,000人あたり2人から1.6人に減った」では23%でした。検診の効果の証拠になるのは、後者のほうです。

その数字が読めているかどうかは、書かれ方に手がかりがあります。
01母数が、書かれていない。「30%減った」の30%が、何に対する何%か書いていない。%は、割り算の途中でどの母数を使ったかを消してしまう表記です。消えた母数は、受け取った側が組み立て直すことになります。比べた相手が誰なのかも、そこには書かれていません。人数のまま渡されていれば、その作業は要りません。
02効果が、生存率で語られている。5年生存率は、見つかった時期から数えます。67歳で見つかり70歳で亡くなる集団の5年生存率は0%ですが、同じ集団が検診で60歳で見つかれば100%になります。死ぬ時期は1日も動いていません(リードタイム)。実際、前立腺がんの5年生存率は米国98%・英国71%と大きく違う一方、死亡率は男性10万人あたりおよそ26人と27人でほぼ同じでした。
03見つかった数の多さが、成果になっている。2010年の総説は、過剰診断を放っておいても症状も死ももたらさなかったはずのがんの診断と定義しました。検診で見つかったがんのうち過剰診断にあたる割合の推定は、マンモグラフィで見つかった乳房でおよそ25%、胸部X線や喀痰で見つかった肺でおよそ50%、PSAで見つかった前立腺でおよそ60%。いずれも推定で、方法によって幅が出ます。先の2012年の調査では、47%が、検診でがんが多く見つかることを命を救う証拠だと答えました。

この号の元になった資料には、「科学リテラシーは最大の予防ツール」とありました。出典は付いていません。ALIFEが探したのは4か所——この言い回しに相当する英語での学術検索、米国科学アカデミーが2016年に出した科学リテラシーの報告、健康リテラシーと健康アウトカムの系統的レビュー、日本語での検索。この範囲では、「最大の」を支える一次情報にたどり着けませんでした(無いことの証明ではありません)。
見つかったのは、もっと控えめな形でした。米国科学アカデミーの報告は、科学リテラシーのよくある尺度の平均点と期待される結果との関係について、いま手元にある証拠では強い推論はできないと書いています。2011年の系統的レビューは96件の研究を集め、健康リテラシーの低さが入院の多さ・救急の利用・検診や予防接種の受け方と関連していたと報告しましたが、いずれも観察研究で、健康な人ほど読む余裕がある、という逆向きは排除できません。2020年のレビューは、介入試験22件・のべ10,997人を9か国から集め、22件中15件でリテラシー自体は改善したものの、全件がバイアスの危険を抱え、うち18件は高いと判定されたとしています。ここに並べた証拠は、ドイツと米国の医師・欧米の成人を対象にした調査と短い課題の実験が中心で、日本語で同じ手続きを繰り返した研究は、ALIFEが確認した範囲では見当たりませんでした(無いことの証明ではありません)。
何に対する何%か。比べた相手は誰か。
それは、生存率か、死亡率か。
だからこの号は、リテラシーが最大の予防だとは書きません。書けるのは、数字の渡し方を1つ変え、その数え方で短く訓練したとき、正しく読めた割合が21%から87%へ動いたという一点です。問題は読む人の頭ではなく、数字の渡され方の側にある——というのが、この号の読み筋です。上の3つの問いも、研究が示した手順ではなく、ALIFEが提案する確かめ方の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
健康に関する記事・広告・投稿を1本選ぶ。紙でも画面でもいい。
- 02COUNT
出てくる数字を数えて書き出す。%・人数・年数・倍率・順位、すべて含める。
- 03CHECK
そのうち、著者名か機関名と、発表年か媒体名が書いてある数字が何個あるかを数える。
健康の記事の多くは、「読者に知識が足りないから誤解が起きる」という前提で書かれます。ところが、正しく読めた割合を21%から87%へ動かしたのは知識の量ではなく、%を人数に書き直し、その数え方で短く訓練するという手つきでした。それでも、次に受け取る数字は、たぶん%のまま来ます。受け取ってから勉強するより、受け取る前に用意しておいた問いのほうが間に合います。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS健康リテラシーを、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 系統的レビュー
- あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。

