IN DATA · ISSUE 541
● 12 SEC「このデータの持ち主を決めれば、あとは回る」。顧客名簿や売上表の管理は、そう語られがちです。この号は、データの持ち主と権限の話を6点で確かめます。内訳は、概念の枠組み1本、企業と組んだ実践研究1本、文献の総説2本、幹部への面接から理論を組み立てた研究1本、業界団体の知識体系1冊です。
先に向きを言うと、持ち主を決めることは統治の一部で、統治は「誰が・何を・いつ」の活動の束であり、型は一つではない——この6点は、その向きを概念と事例と総説から描いています。効果を数で確かめた研究は含まれません。この号は、持ち主の決め方を勧めることも、大きな組織の研究を日本の小さな店に当てはめることもしません。
データの統治(ガバナンス)とは何か。2010年の概念の論文は、先行するITの統治の枠組みに沿って、統治を「どんな決定が要り、誰が決めるか」、管理(マネジメント)を「決定を下し、実行すること」と分けました。品質の基準を決める権限を誰が持つかは統治、実際に使う物差しを決めるのは管理、という例です。
そのうえで論文は、データについての5つの決定領域を提案し、領域ごとに誰が決めるかを表にする枠を組み立てました(領域の名称は、読めた導入部には出てきません)。論文はまた、コンピューターや通信などのIT資産と、記録された事実である情報資産を分けています。

では、持ち主と5つの領域を決めれば、どの組織でも同じ形で回るのでしょうか。以下の三つは、企業6社との実践研究と、145本と31本を扱った2本の総説が、それぞれ描いたり整理したりした姿です。
01国際的な企業6社との実践研究は、状況に合わせて形を変える統治の模型を描いた。2009年の研究は、業種の異なる国際的な企業6社と研究者が組んだ実践研究(アクションリサーチ)の最初の報告です。品質の役割・決定領域・責任の3つを組み合わせた分担表を描き、戦略、事業の多角化の幅、組織の構造、市場の規制の強さ、意思決定のスタイルなど7つの要因が統治の形を左右すると論じました。
02145本の総説は、統治の構成要素を6つの次元に分けて整理した。2019年の総説は、2001〜2019年の研究論文と実務家の刊行物145本を構造化してレビューしました。統治を “the exercise of authority and control over the management of data”(データの管理に対して権限と統制を行使すること)と定義し、前提となる条件・範囲の決め方・統治の仕組みに分けて整理しています。
0331本の総説は110の活動を拾い、定める側に厚く、実行と監視が薄いと整理した。2016年の総説は、情報システム分野の6つの主な文献データベースから、統治の活動に明示的に触れた31本を選び、110の活動を5つの決定領域に分けました。活動は「動作+統治の対象+決定領域」の形で、例は「品質のためのデータ方針を定める」。定める動作の報告が多く、実行と監視の報告は乏しかったと書きます。

持ち主を決めるとき、統治するのは何なのでしょうか。2013年の研究は、17業種30組織の幹部37人への詳しい面接から、情報の統治の理論を組み立てた質的研究です。以下の三つは、その要旨が書いた点で、本文までは読めていません。
01これまでのITの統治の研究は、機器やソフトなど物理的なものに向いていた。論文の出発点は、ITの統治の研究が、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークをどう統治するかに集中してきた、という指摘です。背景には、組織が集めて持ち続けるデータの量が急に増えている、という情報部門の責任者たちの報告がありました。そこで統治の対象を情報そのものへ広げることを目的にしました。
02面接からは、構造・手続き・関係の3種類の実践が拾われた。情報を統治するための実践を、組織の構造にかかわるもの、手続きにかかわるもの、人と人との関係にかかわるものに分けて描きました。そのうえで、実践を生む前提となる条件と、会社の業績への影響までを、一つの理論のつながりの中に置いています。
03取り入れを早める条件もあれば、遅らせたり狭めたりする条件もあった。要旨は “While some antecedents enable the speedy adoption of information governance, others can delay or limit the adoption”(前提となる条件の中には取り入れを早めるものも、遅らせたり狭めたりするものもある)と書きます。取り入れた後は業績を押し上げうるとも論じますが、面接に基づく理論の命題で、数で確かめた結果ではありません。

6点はどれも、日本の小さな店の顧客名簿や売上表を調べたものではありません。実践研究は国際的な企業6社、面接は17業種30組織の幹部、総説2本は情報システム分野の文献が対象です。効果を数で確かめた研究は含まれず、「持ち主を決めれば統治できる」も、その反対の「決めても回らない」も、数では検証されていません。
業界団体の知識体系は、データ管理の業界団体が2017年に出した第2版の本です。実務の知識を体系にまとめたもので、査読を経た研究でも、効果の証拠でもありません。この号が確かめたのは書誌までで、中身は書きません。全文まで読めたのは6点のうち0点で、読めていないものについては書きません。
統治の活動を書いた31本は、
「決める」に偏っていた。
シラバス側の看板は、持ち主を決めるのは入口で、統治は「誰が・何を・いつ」の活動の束であり、万能の型はない、というものです。この向きを支えるのは、概念の枠組み1本、実践研究1本、総説2本、面接の理論1本で、業界団体の知識体系が並びます。束という見方は枠組みと総説から、型が一つでないという見方は6社の実践研究から来ています。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の商いで使っている大事なデータを一つ書く(顧客名簿、売上表、在庫表など)。
- 02LOG
そのデータについて、最終的に責任を持つ人、誰がいつどの部分を更新するか、誰がいつ正しさを確かめるか、の三つの欄を分かる範囲で書き出す。
- 03SORT
三つの欄を「決まっている」「決まっていない」「分からない」に分け、空いた欄に印をつける。埋め方や良し悪しは決めない。
この号が運べたのは四段です。統治(誰が決めるか)と管理(決めて実行する)を分ける枠組みが提案されたこと。統治の形は組織の状況で変わるという模型が6社との実践から描かれたこと。統治が多くの構成要素と活動の束として整理され、その文献は定める側に厚く、実行と監視に薄かったこと。統治の対象を情報へ広げる理論が面接から組み立てられたこと。持ち主をどう決めるかの答えは、6点のどれも一つにまとめてはいません。次の号は、データのプライバシーを扱います。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「データの持ち主と権限を決めるには?」を、もっと深く学ぶ。→