IN LOGISTICS · ISSUE 391

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

注文どおりに棚から品物を集める。この作業をピッキングといいます。速くするには、と聞かれたとき、返ってくる答えはたいてい一つです——歩く経路を短くすればいい。

ところが、この作業の研究を総ざらいした2007年の総説は、経路を計算で最適にしたときの不利を三つ挙げていました。その二つ目が、こうです。最適な経路は、集める人には非論理的に見える。そして、指定された経路から外れていく。

ピッキング(order picking)とは、注文どおりに棚から品物を集める作業のこと。動線とは、そのとき歩く経路のことです。同じ総説は、この作業にかかる費用が倉庫の運営費の55%にもなると書いていますが、原著はこれを「推定される」と断っています。速さを左右する設計の変数も、経路のほかに、どの品をどこに置くか(保管配置)、複数の注文をまとめて一度に集めるか(バッチ)、区画ごとに担当を割るか(ゾーニング)と並びます。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
経路の最適化は、速さを左右する設計の変数の一つ。読めた範囲に、それだけで速さが決まるとは書かれていない。 Visual: ALIFE

なぜ経路ばかりが語られるのか。経路は、いちばん目に見えて、いちばん図に描けるからでしょう。どの品がよく出るか、どうまとめて集めるかは、記録を数えないと見えてきません。ここから先は、読めた範囲で分かっていることを三つに分けます。

01最適な経路は、集める人には非論理的に見える。この作業の設計と制御を整理した2007年の総説(査読誌の文献レビュー)は、経路を最適にする算法の不利を三つ挙げます。配置によっては最適解を出す算法が無いこと、最適な経路が集める人には非論理的に見え、結果として指定された経路から外れること、標準的な最適化では通路の混雑を計算に入れられないこと。総説がまとめた既知の指摘であって、新しく測った実験の結果ではありません。

02人が計画のモデルに入っていない、という指摘は、枠組みの提案だった。この作業の計画モデルは、学習・疲労・注意・誤りといった働く人の特性を外してきた——だから結果は部分的にしか現実的でなかった。2015年に出た研究はそう整理したうえで、人の要因を計画モデルに組み込む概念の枠組みを提案し、組み込めば成績と働く人の福利が上がる、と仮説を立てました。文献レビューにもとづく提案であり、新しい実測のデータはありません。

03ある卸売の倉庫では、平均経路長が31%短くなった。工具と園芸用品を扱う卸売1社の倉庫で、保管配置の割り当てと経路の決め方の組み合わせを作り直した2004年の事例報告です。同じ倉庫の前後の比較で、平均経路長は31%短くなりました。ただし報告が挙げる人員の25%超の削減は、この一つではなく、すべての改善が合わさった結果です。この倉庫には、割れ物を傷めないよう重い品を先に取るという固有の要件もありました。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
外れる・混む・人の要因。読めた範囲で挙がっていたのは、この三つ。 Visual: ALIFE

自分がどちら側にいるのかは、日ごろの言い方に出ます。

01歩いた距離だけを、数えている。経路は測りやすく、図にもできます。だからそこだけが数えられ、探した回数や取り出しにかかった手間は数えられないまま残ります。短くなったのが経路の長さだとして、速くなったかどうかは、別に数えないと分かりません。

02「入れれば速くなる」を、出どころを見ずに受け取っている。倉庫の自動化の導入を、関係者への半構造化の聞き取りと質問紙で探った2007年の研究は、導入の主な理由は成長への対応で、費用の削減とサービスの改善も重要だった、と報告しました。多くの案件は予算と工期の内に収まる一方、立ち上げの時期に混乱とサービスの低下が起きる現実的な危険があり、その後の柔軟性への懸念も残る、とも書いています。

03人と機械の分担を、決まったものとして考えている。現場ではなく、この研究のために建てた倉庫で、60人が二つの配置を両方とも体験する形で行われた2026年の実験があります。人がロボットを導く配置では協働の生産性が高く、ロボットに従う配置では協働の正確さが高いという結果でした。ただし著者が立てた九つの仮説のうち十分な証拠が得られたのは二つ(生産性と正確さ)で、期間が短いことを著者自身が限界に挙げ、現場での追試が要ると書いています。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床のコートと鍵
距離だけを数える・出どころを見ない・分担を固定する。目の寄り方は、日ごろの言い方に出る。 Visual: ALIFE

ここまでの出典で、全文まで読めたのは二つ、残りは公式の要旨まで、一つは書誌と題名までで、読めていないものについては書きません。舞台の限定も断っておきます。総説も事例も、ある程度の規模と品目数のある倉庫が対象です。一日に数個を自宅の棚から集めて送る人が、同じ設計の変数に悩むわけではありません。

数字の性格も分けておきます。31%は同じ倉庫の前後の比較であって、ほかの倉庫と比べた値ではありません。55%は原著自身が推定と断った値です。さらに同じ総説は、この作業を手作業の倉庫では最も労働集約的、自動化された倉庫では非常に資本集約的と二つに分けています。どの倉庫でも同じ、とは書かれていません。

最適な経路を計算しても、
集める人がそこから外れることがある。

だから、経路を引き直すこと自体が無駄だ、という話ではありません。引き直した後に何が短くなったのかを、分けて数えるかどうかの話です。

TRY IT TODAY

  1. 01RECALL

    直近に発送の準備でものを集めた一回を思い出す。次の一回を対象にしてもよい。

  2. 02SORT

    品ごとに「歩いて探した」「取り出しに手間取った」「すぐ取れた」の三つに分ける。基準は自分で決めたままでよい。

  3. 03COUNT

    三つの件数を数え、いちばん多かったところに印を付ける。棚を並べ替える必要はない。

10分。今日から何かを変える課題ではなく、自分の作業を記録して分類するだけの作業です。どのやり方が優れているかは書きません。「歩いて探した」が0件なら、経路を引き直しても速くはならない、という発見になります。

経路の図は、直した成果がすぐ見えます。見えるから、そこに手が伸びる。けれど読めた範囲に書かれていたのは、最適な経路が集める人には非論理的に見えること、計画のモデルが人の変化を外していること、そして一つの倉庫で人員が減ったのはすべての改善の合計だったこと——短くなったのは線のほうだった、という可能性です。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。